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イプシロンロケットY-1ブリーフィング(2013年8月26日)

登壇者

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参考リンク

中継録画

NVSさんによる中継の録画です。



Video streaming by Ustream

森田泰弘:イプシロンロケットプロジェクト プロジェクトマネージャ

森田:今日の作業。早朝からの雷があり一時作業を中断していたが再開、準備作業は問題なく進行中。手元の資料に沿って説明。

p1…試験機はオプション形態、PBSつきで打つ。

p2…5月の末から射場準備作業。いよいよ王手がかかっている。

p3…赤い電話ボックスという通称で呼んでいる。世界最高性能のM-Vに負けないロケットを自称している。

p4…最終準備作業。電気系は終了。今日は火工品の点検。明日は発射当日の作業。下の写真は管制センター(ECC)のロケットの発射管制。まえまえから言っていたモバイル管制が行われる部屋。1列目に5人、2列目3人、あわせて8人。3列目は森田が座っているがこれは外野。

p5…打ち上げ時の制約条件について。毎時8ミリ程度の雨なら耐えられる。土砂降りでなければ大丈夫。

打ち上げ時の制約条件

ロケット系

下記において、制限風速以下であること

  1. ランチャ旋回時:【制限風速】15m/s(最大瞬間風速)※屋外高所作業制約
  2. 射点起立時:【制限風速】25m/s(最大瞬間風速)
  3. 発射時:【制限風速】20m/s(最大瞬間風速)
  1. ランチャ旋回時に、降水量が15mm/hr以下であること。※屋外作業制約
  2. 射点起立時に、降雨強度が50mm/hr以下、降水量が50mm/h×3時間以下であること。
  3. 発射時の降雨強度は8mm/h以下であること。
  4. ランチャ旋回後は降氷がないこと。

積乱雲の中を飛行経路が通過しないこと。

発射前および飛行中において、機体が空中放電(雷)を受けないこと。

  1. 射点を中心として半径10km以内に雷雲のないこと。
  2. 飛行経路から20km以内に発雷が検知された場合には、しばらく発射を行わないこと。
  3. 飛行経路が雷雲や積乱雲等(※)の近辺を通過する場合には発射を行わないこと。(※)氷結層を含み、鉛直の厚さが1.8km以上の雲を含む
高層風
  1. フェアリング及び第1段機体の落下点が落下予想区域内にあること。
  2. 1段ノズル舵角等が制限値以下であること。
  3. 飛行中の機体が受ける荷重が規格値以下であること。
飛行安全系・射場系

X-10分以降からX-20秒までの期間において瞬間最大風速が20m/s以下であること。

風の影響解析

射点近傍で破壊した場合に、落下破片等による警戒区域外への影響がないこと。

各設備

各設備が正常に動作し、飛行安全管制およびデータ取得に支障がないこと。

打上げ時刻

ロケットの打上げから地球を1周回するまでの間において、ロケット及びロケットからの分離物と、軌道上の有人宇宙物体若しくはそれに準ずる宇宙物体と衝突しないこと。

保安系
陸上警戒

総員退避区域の無人化確認が図れること。

海上警戒

地上安全計画で定めた海上警戒区域の警戒、監視が可能なこと。

その他

生命に係わる急病及び被災者がある場合は救急措置を優先すること。

p6…カウントダウンシーケンス。

  • 6:40頃:第1回Go/NoGo判断
  • 7:00:ターミナルカウントダウン開始
  • 7:15:M台地・整備塔関係者以外立入禁止
  • 9:45:地元住民の皆様の退避開始
  • 10:05頃:
    • 第2回Go/NoGo判断
    • 関係者以外ILL内退避完了、国道通行規制
    • 衛星アクセス窓閉め
  • 10:45頃:ランチャ旋回開始
  • 11:00頃:ランチャセット完了、ロケット班退避開始
  • 11:05:搭載機器電源ON
  • 13:25迄:総員退避完了確認
  • 13:25頃:最終Go/NoGo判断
  • 13:30:衛星シーケンススタート
  • 13:43:発射準備完了
  • X-70秒:自動カウントダウンシーケンス開始
  • X-55秒:ロケット内部電源切り替え
  • X-26秒:火工品ARM(動作可能状態に移行)
  • X-22秒:フライト準備モード
  • X-15秒:1段駆動用電池起動
  • X-10秒:固体モータサイドジェット点火
  • X-1秒:ROSE(即応型運用支援装置)電源1 OFF
  • X-0.0秒:リフトオフ

p7…飛行計画。

事象 打上後経過時間 距離 高度 慣性速度
時:分:秒 km km km/s
(1)リフトオフ 0:0:0 0 0 0
(2)第1段燃焼終了 0:1:52 70 88 2.6
(3)衛星フェアリング分離 0:2:30 131 147 2.4
(4)第1段・第2段分離 0:2:41 148 162 2.4
(5)第2段燃焼開始 0:2:45 154 167 2.4
(6)第2段燃焼終了 0:4:27 415 323 5.1
(7)第2段・第3段分離 0:10:24 1658 822 4.2
(8)第3段燃焼開始 0:10:28 1671 823 4.2
(9)第3段燃焼終了 0:11:57 2061 840 7.5
(10)第3段・PBS分離 0:16:48 3846 864 7.4
(11)第1回PBS燃焼開始 0:19:8 5943 896 7.4
(12)第1回PBS燃焼停止 0:29:58 7447 921 7.4
(13)第2回PBS燃焼開始 0:53:50 17431 1143 7.2
(14)第2回PBS燃焼停止 0:60:30 19020 1154 7.2
(15)惑星分光観測衛星分離 1:01:40 19722 1151 7.2

天気…台風や雷があったが打ち上げ時の天気はよさそう。せっかくの初号機なのできれいに打てるようにしたい

7年間の研究開発の成果が試される。つらいこともあったが全力を出し切ってやってきた。明日は絶対成功間違いなしの強い気持ちで進めている。

澤井秀次郎:SPRINT-Aプロジェクトマネージャ

衛星はロケットに宇宙に連れていってもらってからが本番。

準備状況:6月20日内之浦入り。

打ち上げ準備状況:射場搬入が6月20日、運用性総合試験(7月1日〜3日)衛星管制室での様子。最終外観検査が7月23日、衛星/ロケット上段部結合(7月26日)、フェアリング結合(7月28日)

カウントダウン作業:

(略)

  • X-約15分:衛星内部電源(バッテリ)に切りかえ
  • X(13:45予定):打上げ

運用の概要:

  • ロケットと衛星の分離が打ち上げ後約3700秒、太陽電池パドルの展開と太陽捕捉(打ち上げ後数時間)
  • 10月中旬に観測開始
  • ハッブル宇宙望遠鏡、地上

使用する地上局:

内之浦の11メートルアンテナを主アンテナとし各局を使用。

質疑応答

朝日新聞はたの:森田先生へ。イプシロンロケットの誘導システムの特徴は。M-Vと比較して

森田:M-Vは電波誘導といい、地上のレーダーでロケットを追いかけ誤差修正の計算を地上で行い修正信号を送る誘導方式だった。
イプシロンロケットでは簡単、簡素な打ち上げをということで電波誘導方式は卒業、管制誘導に。ロケットが自分のセンサーで自分の軌道を同定し自立的に軌道変更する。地上からの支援なしに誘導できるようになっている。

NHKこぐれ:森田先生へ。イプシロンに常識にとらわれない糸川精神が詰め込まれているというが改めてその思いを

森田:世界に追いつき追い越すのではなく自分から未来を開くフロンティア精神。M-Vの発展だけでなくモバイル管制など非常識ともいえるようなチャレンジ。固体ロケットの遺伝子が内蔵されていて最新鋭機にふさわしいものに育ってくれた。

こぐれ:天気について。明日、延期になるとどう延びるのか

森田:天気や衛星など延期にはいろいろ理由がある。それによって調整して次の打ち上げ日をすみやかに決めたい。

NHK鹿児島:明日の打ち上げへの意気込みをもう一度

森田:M-Vの最終号機を打ってから7年、いろいろなことがあった。固体ロケットから見ると存亡の危機もあった。開発チームやそれを支えるメンバーが苦しくともがんばってきてよかった。みんなの7年間の研究成果が試される。まさにその時がきたのだなという気がする。やれることは全部やってきた。全力は出し切った。絶対成功間違いなしの堂々たる気持ち。

共同通信ふかや:最初の挨拶で7年間つらいことがあったというがたとえば

森田:M-Vロケットが世界最高性能といわれていただけにさらにいいロケットを作るのはたいへん難しかった。もうちょっとさかのぼるとM-Vの運用が停止されてたいへん悔しかった。秋葉燎二郎先生に「過去にとらわれるな、たらもればもない。いいロケットを作って未来を拓け」と言われた。
性能としてはM-Vがいい性能だったのでそれよりよいロケットを作るとはどういうことか暗中模索の3年ほど。
性能だけではなく未来のロケットを考えると打ち上げシステムそのものの改革をするべきだと気がついた。そこからはまっすぐ突っ走ってきた。
打ち上げ準備を簡素にしたり打ち上げを簡単にとしていってモバイル管制へ。打ち上げシステムの改革に至るまでがつらかった。

ふかや:天候で作業を中断というが

森田:朝6時半の作業を開始できず雷警報が解除された■時まで。

産経新聞くさか:それぞれにひとつずつ。澤井先生、レイトアクセスが目玉の一つでイプシロンは3時間(M-Vでは9時間)というが今回もそうか。衛星にとっては助かるのか

澤井:打ち上げ直前まで衛星にアクセスできることをレイトアクセスという。4時間前までアクセスさせていただく。望遠鏡のセンサーは真空にしておかないと劣化してしまう。4時間前まで真空ポンプをつなぎ真空に引いておく。それによっていい観測ができるようになる。
レイトアクセスができないと真空ポンプを衛星に組み込んでおかなければならない。しかしイプシロンロケットならそういうものがいらず助かる。

くさか:森田先生へ。打ち上げへの不安なところはあるか

森田:今回初号機、試験機の打ち上げということでもともと第1段を立ててから1週間で上げるよう作っているが今回は最初なので多少お時間をいただき進めている。直前のリハーサルもM-Vは1回やっておしまいだったがイプシロンロケットは2回やってこれでもかと練習している。不安な点はふり返って考えようとしているが自信の大きさに比べると見えないくらい小さい。

朝日新聞東山:森田先生へ。自律管制、自律航法などを追求していくとICBMに近づいていく。宇宙基本法で宇宙の平和利用について

森田:固体ロケットは周囲の考え方とは別に宇宙科学の進歩、技術の発展ということで進めてきて宇宙基本法ができ平和に対して前向きに考えていて宇宙利用の敷居を下げ、宇宙利用する人のすそ野を広げていくことが鍵。あくまでも我々としては平和利用のためのロケットであるというモチベーションで作ってきた。

(東京会場へ)

NHKはるの:澤井先生へ。試験機に大事な衛星を乗せる心境を

澤井:実は非常に喜んでいる。このように注目を集めている。晴れ舞台に我々も参加できることはありがたい。試験機であるから森田が言っていたように念入りに細かくどこまでもチェックして絶対に成功させるとやっている。衛星もそれと同じようにやっている。試験機だからという不安はありません。楽しみにしている。ある意味プラチナチケットを手に入れた気分。

朝日新聞あさの:先生方の開発の努力を聞くがメーカーの方々への考え、協力についてコメントを。また打ち上げについて国際協力にどういうものがあるのか

森田:もともと固体ロケットは宇宙研JAXAだけでなくメーカーさんと一心同体、二人三脚で進めてきた。IHIエアロスペースとはわけへだてなく、分野ごとにメーカーさんやJAXAのメンバーが一緒に開発を推進してきた。なくてはならない存在、苦楽をともにしてきた仲間。明日の打ち上げ成功は「チーム一丸となって」というがJAXAだけでなくメーカーさん、後方支援の方々ともわかちあえるよう進めてきた。

澤井:森田先生と同じでNECや住友重機と一緒に進めてきた。組織は違えども目標はあくまでSPRINT-Aの成功。ひとつの目標に向かって突き進んできた。ややもすると契約のようなものがあるから契約上これを達成すればあとは知らないというやり方もあるが、SPRINT-Aは成功するためにどうするかを真剣に考えてやってきた。これはイプシロンロケットもそう。その結果が明日あらわれる。
国際協力について。開発に表立ったものはないが、極端紫外線という特徴のある波長で観測する。海外のほかの観測装置と協調して組み合わせることで1たす1が2ではなく5にも10にもなる。国際協調観測をいろいろ考えている。

森田:国際協力についてはいま大きな時代の転換点にさしかかっている。小型、高性能、低コストという時代。頻度を上げてチャンスを増やしていくことが宇宙利用を活性化する。小型衛星はこれからの分野でロケットの側の体制が整っていない。そのためピギーバック(相乗り)などの不自由をかこっている。それに応えるのがイプシロンロケットと小型衛星システム。コンビで考えることで対応できる。
イプシロンと小型衛星はこれからの世界を引っぱっていく上で重要。

ニッポン放送はたなか:以前信号除去装置の配線誤りで打ち上げ延期があった。その不具合のレベルというか想定内だったのかどうかを

森田:原因としてはロケットとモバイル管制装置をつなぐ最後の箱に一部配線ミスがあったというもの。図面自体に誤りがあったがコンポーネント段階のチェックでは発見できなかった。歴史的な経緯を考えるとこういったことはロケット開発でありうることである。それを打ち上げの成功に支障がないようあらかじめ発見することが重要。
そういうこともありうるだろうということでエンドトゥーエンド試験を行って見つけた。その不具合はこの段階より前では発見できないもの。試験でちゃんと見つかった。
ミスのない設計開発は重要だがそれを100パーセント排除はできない中で試験をちゃんとする考えがうまくいった。

(つくば会場へ)

NVSかねこ:森田先生へ。打ち上げの天候条件について。桜島の噴火の影響はあるのか

森田:ロケットの飛行に関しては桜島の灰以上に強力なのは気流。これを守るためにノーズフェアリングという強固な防護装置がついていて火山灰程度ではまったく問題ない。

内之浦会場へ)

時事通信かんだ:森田先生へ。いいロケットの定義を変えるという考えに至ったヒントは

森田:ひとつには世界最高性能といわれていて運用段階に入ろうとした時期に引退させられてしまったM-Vの事件があった。いったん卒業して頭の中を真っ白にした。
新しいロケットにはなにが必要かを考えた結果コストパフォーマンスだけでなく打ち上げのしくみの改革をと考えた。
アポロから打ち上げシステム改革はなかった。従来をアポロ方式と考えている。これから50年のロケット打ち上げを考えるとここを卒業しないと未来はないと考えた。それが自律点検やモバイル管制。
関係者の人数は1桁減る。スケール的にも桁が変わるような改革。それが必要だということが発想の転換。われわれのスローガンはこれからの50年の宇宙開発をイプシロンから始めるということ。

かんだ:明日成功しても道半ばと思うがこれからなすべきことは

森田:いい質問です。イプシロンは我々にとって始まりに過ぎない。これからが本当の勝負。明日打ち上げるロケットをもって管制室をガラッと変えた。次は射場、レーダーやアンテナを変えようとしている。ロケットの知能を増す。安全に飛ばすシステムは今のところ地上から行っている。飛んだ後の安全評価もロケットが自分でできれば地上にレーダーがいらなくなる。テレビの中継車のような簡単なシステムで打ち上げられるようになる。そういう次のステップを考えている。やるべきことはまだたくさんある。打ち上げシステム改革の第一歩である。

東京新聞さかきばら:NECが受注したベトナム向けの地球観測衛星、これをイプシロンロケットで打ち上げる検討状況は

森田:ぜひともイプシロンロケットで打ち上げたいとI/Fを調整しているが打ち上げ前なので本格的な調整は初号機が打ち上がってから。

読売新聞のより:日本のロケット戦略でH-IIA/Bにイプシロンロケットという3本目の矢がそろうことについて。またイプシロンロケットの需要をどう喚起していくか

森田:小型衛星には単に大きさが小さいという以上の要請がある。より簡単に高頻度に打ちたいということ。新しいコンセプトを搭載し高頻度に打てるシステムを構築することが大事。ロケットの大きさのバリエーションがそろうというだけでなく未来が広がった。
需要喚起について。イプシロンロケットは多段階で開発している。いまのイプシロンをさらに低コスト、高性能化する計画を持っている。現在研究中。2017年度の4号機あたりで高機能、低コスト版のイプシロンをデビューさせたい。30億を切るくらいに目標を設定している。低コスト化は安くて軽くて丈夫な材料を使うということも含み高性能化。M-Vロケットと遜色のない規模のロケットもできるのでは。はやぶさのような惑星探査のチャンスも。
イプシロンをさらに育てていって低コスト高性能にし需要を喚起していきたい。

?:SPRINT-Aの名前について。どういう条件の名前を考えているか

澤井:科学衛星の伝統で愛称は無事に打ち上がってからつける。SPRINT-Aも同様。打ち上げが成功したあかつきには愛称を付けたい。チームのメンバーの思いをあらわすような名前をつけていければと思っている。

森田:最後に言い忘れていたが、固体ロケットの伝統的な取り組みとして性能を表した冊子、性能計算書を作っている。準備が追いつかず今日の披露はできない。明日間に合わせたい。

(以上)