「空想地図×マッピングナイト」で作話のしくみについて考える

みんなの空想地図

みんなの空想地図

架空の街の地図を作って楽しんでいる「地理人」さん(@chi_ri_jin)を迎えての地図イベント。今回は「自分たちで空想地図を作ろう」ということで、配られた白地図に自分なりの「地図上の物語」を書き込むという趣向もあった。

地理人さんが作っている中村市(なごむるし)の空想地図で面白いと思ったのは、A4サイズの紙に地図を描いてつなげていくほうが、最初から大きい紙に描くよりも自然な地図になるという話だった。最初はA4サイズの紙をつなげていたが、あるとき大きい紙に描いてみたところ「理想都市になってしまった」という。

大きな紙を前にすると、まず幹線道路や鉄道など大きなものを配置する。そして少しずつ細かい道路を加えていくという手順になる。これだときれいにまとまるかもしれないが、実際の開発はそのようには進まない。昔からある集落に細い道路が通じていて、その道は拡幅できないからと少し離れたところにバイパスを通したりする。鉄道もすでに人が住んでいるところを通すから、白い紙に好きなように線を引くというわけにはいかない。

地理人さんは、自分が描く地図はなるべく実際にありそうな地図にしたいと思っている。大きな紙にゼロから都市計画を作っていくと、むしろ不自然な地図ができ上がると気付いたのだそうだ。

都市は普通、なにもない場所に突如現れるわけではない。人が少しずつ増えていくのに従い、長い期間をかけて開発されていく。その中で、たとえば太い道路が近くまで通ったのにその先は用地買収が進まず立ち往生していたり、もともとあった川が暗渠になって妙にくねくねした道路ができたりする。地理人さんが作りたいのは、そういう事情をうかがえる地図なのだということだった。

さて、そういう話を聞いた後はいよいよ自分の空想地図作りである。

白地図が数枚配られ、そこにこんなものを書き入れてみようということになった。

  • なんらかの犯罪を起こした犯人の逃走経路を描く
  • 偏差値の低い高校はどこにあるか
  • この地図のどこに住むか。その場所はどうやって決めたか
  • コンビニやスーパーの場所を書き込む

みなさんしばらくうんうんやって、出てきた結果はこちらにまとまっている。上のお題のうち、犯罪地図が一番盛り上がった。

提出された地図を映して、「これを描いたのはどなたですか」とマイクを回して聞き取りが始まる。これがとても面白かった。

架空の犯罪の話をしていることは会場の全員が承知している。しかし話される内容は妙に真実味があって引き込まれる。壇上と会場の対話形式で進んだのも一因だろう。妄想がどんどんふくらんでいく。「こう逃げたのはどうしてですか」「この人はこういう事情があって、こっちへ行きたくなかったんです」「それでここでこうしてしまったんですね」「犯人はその場所で、昔のこうだった自分をふり返りました」なんて、まるで見てきたような話になる。

上の記事で「放火犯は高台に上って火事を見物しようとした」という話を作ったのは自分である。マイクを受け取り地図について聞かれるとそれが刺激になってか、ありそうな物語が案外すらすら出てきて面白かった。

そしてこのやり取りは警察の取り調べに似ていると感じた。

突然穏やかでない話になってしまうが、冤罪の自白はこうやって作られていくんだなと思ったのだった。

身に覚えのない犯罪で連行され取り調べを受ける。「私はやってません」「そんなはずないだろう、よく思い出してみろ」なんてやり取りをするうち心身が消耗していく。そしてこのつらい取り調べを早く終わらせたくて「やりました」と言ってしまう。「ここはどうやったんだ」と聞かれると全体のつじつまが合うようにどんどん作り話をふくらませていく。「それはおかしいだろう、こうやったんじゃないか」と言われると「そうでした」と修正したりして、自分で自分を犯人にしてしまった取り調べ調書の完成である。

自分は嘘の自白などしないと思うかもしれない。自分もおおむねそう思っていた。しかしこのイベントであえて作り話をしてみたらけっこう簡単にできてしまった。特に今回のように、相手がこちらの話を引き出そうとしている立場だとそれらしい話が出てきやすい。

再審についてのニュースなどで「取り調べでは自白したものの裁判では一貫して無罪を主張」という話をよく聞く。そのことに実感を持てた。この感覚は貴重だ。

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