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自作キーボードほどわかりやすい沼はない

年末に書いた記事が公開された。

自作キーボードの世界をひと通り理解できる記事にしたくて、調べてはちょっと書き、調べてはちょっと書きのくり返しで時間がかかってしまった。苦労したのでホットエントリになってうれしい。

記事では採り上げられなかったけれど、紹介したかったキーボードがいくつかある。

まず、押下圧280グラムというとても重いキースイッチ(通常は50グラム前後)を使ったキーボード。よいしょっと押さないと入力できない。(写真を撮り忘れた)

立体キーボードは記事ではDactyl-ManuFormを紹介したけれど、日本でもColosseum60があるのでこれも紹介したかった(写真を撮り忘れた)。

イベント当日の様子はTogetterにもまとめられている。

去年は自作キーボードのムーブメントが一気に広がった。自分の観測範囲に入ってきたからそう見えるわけではなく、イベントで登壇したアーリーアダプターの人が何人もTwitterに「2018年はフォロワー数がすごく増えた」と書いていた。

キーボードの自作はパラメータが多すぎて、「自作できるんだな」からすぐ「ちょっと待って、それはものすごい沼なのでは」と思い至る。キーの配置、キースイッチ、キーキャップ、キーマップ(どのキーを押したらどんな文字が入力されるか)と、キーボードを作るにあたって自由になる項目はたくさんある。それぞれをどうするかの選択肢もまた無数にある。

自作キーボードの界隈では「エンドゲーム」というフレーズが頻出する。究極の、理想の、迷いがなくなる、そういった意味である。「このキーボードが自分にとってのエンドゲームになるはずだ」のように使う。裏を返せば、そこにたどり着くのがとても大変であることも想像させる。

キーボード沼がどんな沼かを概説した記事が、「沼 Advent Calendar 2018」(すごい名前だね)にあった。キーボード沼が扱う分野として、「既製品沼」「キーマップ沼」「キースイッチ沼」「キーキャップ沼」「電飾沼」「音響沼」「ケース沼」「電子沼」「ケーブル沼」が紹介されている。

沼はいろいろあるけれど、キーボード沼はカメラ沼や自転車沼より実用度が高いのが面白いと思う。なにしろキーボードはパソコンを使うなら絶対必要だ。自分に合うキーボードを使えば肩こりが楽になるといった効能も期待できる。

冒頭の記事を書くために、自作キーボードを販売している人、作ってみた人、いじっている人のブログやTwitterをたくさん読んだ。そうするうちに、自分だったらこういうキーボードがほしいなーというアイデアが出てきた。

自分の現状と不満点

今使っているキーボードはエレコムの「TK-FBP044」である。買ったのは2014年の末。

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写真の上側はそれまで使っていた「TK-FBP014」。新モデルのTK-FBP044はいくつかの不満点が解消されていたので乗り換えた。

TK-FBP044のいいところ

  • フルキーボードとしては左右の幅がややコンパクト。マウスが比較的近いのがよい
  • PCとMacの両方に接続でき、Mac向けのモードも搭載している。Bluetoothで9つまでマルチペアリングできるのに加えて、TK-FBP044はUSB接続も可能

TK-FBP044から改善できるならしたいところ

このキーボードに特有の不満点ではないが、こんなふうになったらいいなというポイントは以下。

  • カーソルキーやテンキー、マウスがホームポジションからもっと近くなったらよい。右手をよっこらしょと移動させずにすむならそうしたい
  • 「=」をワンキーで入力できたら表計算ソフトで便利そう

キーボードを作るならこうする

  • 左右分割型のキーボードを使い、中央にテンキーを置く。ポインティングデバイスも中央に置ければなおよいが、それが無理でもホームポジションからみたマウスの位置は普通のキーボードでいうとテンキーの場所になるので近くなる
  • BLE Micro Pro」を使えばTK-FBP044と同じように自作キーボードを複数マシンで切り替えながら使うことができる。自作キーボードのファームウェアQMK)はMacモードもちゃんとあるようだ
  • 通常のキーボードはファンクションキーも含めて6列あるのが基本だが、キー列はファンクションキーの列や数字キー列を省略して4列あればよさそう。自作キーボードの記事でとてもよく見るのは、「数字キーがない自作キーボードが多いが自分には必要だろうと思って数字列があるキーボードを作った、でも使っているうち数字キー列は不要だとわかった」という感想。中には「数字の列がないキーボードを使い始めてこれは無理と思い数字列つきの自作キーボードを発注、しかし部品が揃って作るころには数字列がないキーボードに慣れていた」という記事もあった

おっと危ない、自作キーボードについて調べているうちに沼に入りかけてしまったようだ。

でももう買ってしまった。

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いきなりちゃんとしたキーボードを作るのはさすがにハードルが高いと考え、まずはテンキーから作ることにした。感触がわかってフルの分割キーボードを作ったあとも使い道はあるから無駄にはならない。

作例を見るとテンションが上がる。

Attack25はテンキーとしてはキー数が多いので、独立した「=」キーを作れる。紫軸のキースイッチは、「天キー」で触らせてもらったキーボードの中で感触が好みだったものを選んだ。念のためキースイッチを交換できるようにしたいのでベリリウムを買おう。

以下はキースイッチを取り外し可能(ホットスワップ)にする作例。

それからこれも買った。

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ジャンクのMajestouch Linear(黒軸)。十数個のキーが入力できないため安かった。キースイッチとキーキャップを自作キーボードに流用するつもり。キーキャップを取り外す工具(キープラー)はついていなかったので、久しぶりに3Dプリンタを使って出力しよう。3DデータはThingiverseで見つけてある。

左右分割型のキーボードをどういうものにするかは今後考えることにする。たぶん今年中にModulo対応の自作キーボードキットがいくつか出てくると思うので、上の条件でいい感じのを探そう。キースイッチを交換できるようにすれば、しっくり来るものを見つけるまで試行錯誤もできるだろう。

「天キー」を取材した段階では、実はまだ自分でキーボードを作ろうという気分にはならなかった。楽しそうにやっている人たちの様子を知りたいというスタンスである。しかし記事を書くために調べていたらどういうものかだんだんわかってきて、これなら自分でもできそうだしやってみたいという気持ちになってきた。

自作キーボードが盛んになったら、こういうことが起きそうな気がする。

そのほか、「キーボードが別売りのノートパソコンが発売される」…と書いてから「それはタブレットPCだ」と気がついた。ははは。

キーボードの自作で恐ろしいのは、どういうキーボードが一番いいかは使う本人にもわかっていないということだ。作って使ってみると不満が出てきたり、ほかのもっとよさそうなアイデアが出てきてしまったりする。そういうところが沼の沼たるゆえんではないだろうか。

こうしていつの間にか、自分なりのエンドゲームを目指す沼に入りかけている。沼にはまりすぎないよう、ほどほどに楽しみたい。

追記

とか書いていたら「天キー」こと天下一キーボードわいわい会の次回開催が告知された。10連休の真ん中の5月4日とのこと。これは楽しみ。

追記2

第2回のフォトレポートを書きました。


追記3

「Attack25」を作りました。