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小惑星探査機「はやぶさ2」のMINERVA-II1分離運用に関する記者説明会③(16時半~)

小惑星探査機「はやぶさ2」の小型探査ローバMINERVA-II1の分離運用に関する記者説明会を行います。

小惑星探査機「はやぶさ2」のMINERVA-II1分離運用に関する記者説明会 | ファン!ファン!JAXA!

日時

  • 2018年9月21日(金)16:30~18:00

登壇者

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(Image credit:JAXA※以下同)

(※左から吉川氏、津田氏、久保田氏)

配付資料

中継録画

JAXA公式

NVS

約6時間の動画になっていて、12時から、14時から、16時半からの説明をまとめて視聴可能。(放送前にタイムシフト登録せず視聴できるのはプレミアム会員のみ)

関連リンク

津田プロマネから


MINERVA-II1は昨日から降下運用を開始、予定通り降下。本日13時6分、高度55メートルまで降下しMINERVA-II1Aと1Bの2機のローバーを無事分離できたことを報告する。

探査機はその後約1分降下してMINERVA-IIとの距離を取ったあと予定通り上昇、現在ホームポジションリュウグウから約20キロ)へ移動中。探査機は正常。すべての分離シーケンスは予定通り進んだことを確認している。

2.MINERVA-II1分離運用について

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昨日、高度20キロから降下を開始。当初は40センチ毎秒。高度5キロメートルで秒速10センチに速度を落とし精密に降下。LIDARで距離を計測しつつ高度60メートルに来たところで自動シーケンスに入る。その140秒後、高度約55メートルでMINERVA-II1を分離。はやぶさ2はいきなり上昇するとスラスターのプルームがMINERVA-II1にかかるので60秒ほど待ってから上昇した。

狙ったところ、下のN6地点の真下へ探査機を誘導できた。

MINERVA-IIの着地候補地点選定

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MINERVAとは分離後、はやぶさ2との通信もできていたことを確認済み。リュウグウは自転している(7.6時間で1周)ため(今村註:加えて、はやぶさ2は常にリュウグウと地球や太陽を結ぶ線上にいるため)、リュウグウに着地したMINERVA-IIがリュウグウの陰に入ると、はやぶさ2とはいったん通信ができなくなる。探査機からMINERVA-IIの降下地点が見えるようになったら(=MINERVA-IIが日なたに出たら)通信を再開。

吉川ミッションマネージャから

分離ができたことは大きなステップになった。MINERVA-II1からどのようなデータが取れるかは今後の確認事項なので手放しでは喜べないが、初代ではローバーを分離できたがイトカワに着地させることができなかった。今回はリュウグウに向かっていてまずはよかった。

久保田スポークスパーソンから

その後わかったことをお知らせしたい。MINERVA-IIの分離後、はやぶさ2は通信できている。はやぶさ2が上昇中にアンテナを切り替えるとき、いったん地球との通信が途切れる。はやぶさ2が地球と通信再開したときにMINERVA-IIとの通信もできていることを確認した。

その後MINERVA-IIの電圧が急に落ちている。降下地点が夜になった時刻と同じなので、リュウグウに接地して夜の側に入ったものと期待している。これはまだ状況証拠だが、無事に接地したと考えるとつじつまは合う。

はやぶさ2に蓄えられたデータははやぶさ2ホームポジションに来ないと地球へ下ろせないので、今日はこれ以上のデータを取得できない。

質疑応答

NHKすずき:初代は失敗したが無事に分離できたことへの受け止めと評価は

津田:1号機で起きたことを十分研究し、同じことが起きないよう臨んだ。降下は何度か行っているがアボートなどもありチームメンバーの経験値が上がった。熟練してきて計画を十分練って臨めた。初号機の経験が生きた。小さい逸脱はあったがすべて克服し、計画通りMINERVAを所定のところで分離しはやぶさ2ホームポジションへの帰路に載せることができたのは着陸(はやぶさ2タッチダウン運用)に向けて大きな自信になったと思う。

すずき:前回は高度600メートルでアボートしたが今回は高度55メートルまで下りることができた。来月のタッチダウン運用に向けた手応えは

津田:前回アボートしたのは、LIDARという高度を計測する機器がリュウグウへ送った信号が帰ってこなかったため。感度を高めて対応し想定通り動いた。LIDARを追加テストしたりリュウグウの特性を調べたりも。それが功を奏した。
着陸に向けてLIDARの心配はなくなった。これは今回の運用で得られた大きな副産物。
タッチダウンでは探査機が小惑星にタッチする。これはMINERVA運用でもやったことがない領域。MINERVAの運用結果も反映し最良の計画を立てていきたい。

すずき:着陸地点の画像はまだ上がっていない?

津田:楽しみにしているが我々もまだ見ていない。MINERVAを放出するまでの間撮影し、シャッターを切ったというデータは来ている。画像を地球へ下ろすのはこれから。我々も楽しみ。

産経新聞くさか:MINERVA-II1が着地したかの判断について。先ほど久保田さんが電圧が落ちてきたと話した。着地したからこそ夜を迎えたのか。「着地したとみられる」といえるのか。

久保田:事実として電圧降下がある。「着地したと推定できる」とまではいえないが、おそらく着地しただろうという可能性があり期待している。

読売新聞とみやま:はやぶさ2の探査全体で現在どういう段階へ来たといえるか。

津田:MINERVAの分離は技術的には我々にとって大きな一歩だった。最終目標はタッチダウン。それに向けてすれすれの55メートルまで予定通り下ろすことができた。大きな自信になった。想定したことが3億キロメートル先で正しく動いた。この先は小惑星にタッチしなければわからない領域が残るだけ。そこに注力できるという意味で技術的には大きなハードルを越えたと思う。

とみやま:タッチダウンへの意気込みを

津田:前回の記者説明会でMINERVAの担当者が「我々が意気込んでも仕方がない」と言ったが(http://ima.hatenablog.jp/entry/2018/09/05/110000#ikigomi)今は冷静に、得られたデータを分析し次回に生かしたい。
半分は意気込みすぎないところもある。リュウグウは非常にでこぼこしている。タッチするところは非常に難しいハードル。これをどう克服するかは少しずつ情報を増やし熟練度を上げていきながらやっていかなければならない。
このあとMASCOTの運用やタッチダウンのリハーサル運用などもあるがうまくやりたい。

とみやま:久保田先生、先代と比べてどうか

久保田:初号機では残念ながら小惑星に下りられなかったが起きたことを真摯に受け止めて計画を作り直し、2機搭載したり自律で分離したりした。前回は探査機が脱出速度を出したのがよくなかったので、今回は探査機に(横方向の動きを)キャンセルする方向に動いてもらった。赤道から少し離れた着地点へ移動する必要があり、その移動中に逆方向へMINERVA-IIを分離するのをうまくやった。探査機チームが燃料を温存しつつMINERVA-II1をうまく降下させる方法を考えたのはすばらしい。
今回はたぶん下りているだろうと思うが、データが来るのが楽しみ。いいチャンス(ローバーを小惑星に下ろすミッションへの関わり)が2回来た。これを生かしたい。

日刊工業新聞とみい:MINERVAの着地時の姿勢はわかるのか。データは最速でいつ来るのか

久保田:分離するときはばねで押し出すので回転しながら飛び出す。これはジャイロやフォトダイオードのデータから確認している。どういう姿勢で着地したかは神のみぞ知る、だがどういう姿勢でも通信できる。
朝方に通信が再開するがボルダー(岩塊)が多いと陰になって充電に時間がかかったりするので担当者はクリアする方法を考えている。
CGでお見せしたように横になっているのかもしれない。昼の側に来れば通信できるだろう。通信アンテナは2本ついている。つながる方を自動的に選ぶ機能もある。
写真は2種類ある。分離時のはやぶさ2が撮像したもの、MINERVA-IIが着地時に撮影したもの。はやぶさ2が安全な場所、リュウグウの重力が影響しないところ(ホームポジション)に来てからデータを送信するので明日になるだろう。

ニッポン放送はたなか:MINERVA-IIの分離は細心の注意と高いハードルだったのではないかと思うがそれについて詳しく

津田:低高度に行くということは、探査機と小惑星の表面の距離は小さくなる。一方で探査機と地球の距離は3億キロ。地上から探査機の様子を知って「危ないから逃げろ」と言えなくなる(今村註:間に合わない)。探査機が自律で機能することになる。低高度では計算の誤りや計画とのずれが1つあったら探査機が地表に加速してぶつかってしまうようなことが容易に起きる。探査機の自律機能に頼るがその設定は我々がさせている。誤りがないよう何重にもチェック。また一つ間違いがあっても次でリカバリーするように幾重にもプロテクションをかける。それらがうまく動作した。
リュウグウはでこぼこしているので読み切れないところがある。技術陣の想定とサイエンスチームからのリュウグウの性質についての情報から細かいチューニングをしていく。今回はそれがうまく動いた。
ここまで何十人もの科学者、技術者と話をして一つひとつの設定を見てきた。功を奏したことが自信になった。

はたなか:神頼みの面はあったか

津田:技術者としてはそういうのはないようにしたい。しかし未知の領域へ踏み込む最後はどうしても想像が入る。我々の考えてきたことに自信を持って臨むところが出てきてしまう。探査の難しいところだが面白いところでもある。

はたなか:分離を確信した瞬間の心境は

津田:嬉しかった。初代でMINERVAを分離した現場に自分もいてなにが起きたか知っていた。あのときの悔しさを現場で感じ取った者として、10年以上経ってこの場に居合わせ、今回正しく分離できたのはそれだけで純粋に嬉しかった。

毎日新聞永山:久保田先生に。電圧の変化のときまでMINERVA-IIは生きていた、とするなら電位差による放電はなかったのか

久保田:電圧がプツッと切れるのではなく、しばらく通信してから電圧が下がった。放電の結果電圧が下がったとも考えられるが放電は着地と同時に起きる。着地から電圧低下まで時間差があったため無事だったものと思われる。
データを早く見たいが探査機の安全が第一。まずは探査機のデータを下ろしてから順に。期待している。

永山:ここまで着実に進めてこられた秘訣は

津田:秘訣といえるほどやりきっていないのでおこがましい。まだまだやることはたくさんあると思っている。リハーサルのアボートはあったが、すぐに原因を特定して今回のMINERVA-IIの分離に臨んだ。
初代も起きた事象への対応をすぐに行った。今回それを計画的に行っているほかチームワークが非常によい。皆で一つの方向に向かって認識を共有し、それぞれの専門性で解決しようとしてきた。今回のMINERVAの運用には冷静に、安心した状態で臨むことができた。
あせらず計画的にやれている源はチームワークかと思う。

永山:熟練度という言葉が先ほどあった。タッチダウンは100メートル四方の範囲で狙っていく精度が必要と言っていた。今日の運用でそれは変わらないのか、それとももっと絞り込めそうな感触があったりはしたか

津田:今日は着陸より難しい誘導をした。着陸候補地点は赤道域に近いところが多いが、今回は着陸地点とかぶらないよう赤道から離れたN6に下ろした。北半球や南半球にずらすのは誘導制御上は少し難しい。非常に精度よく探査機を導くことができた。大きな自信になった。
精査しないと何メートルとはいえないが、100メートル四方の内側には十分入れることができる感触を得ている。

永山:さらに狭いところを狙えるのか

津田:ぜひ範囲を狭めたいと思っている。リュウグウの表面は100メートル四方で見るとやはりボコボコ。最下点近くの写真を公開したのでわかるかと思うが、期待できる地形かと思ったらそうではなくデコボコしている。

(上の画像は最下点に近い高度80メートルで撮影)

着陸地点も同様だろう。少しでも平らなところを探すとなるとできるだけ精度がほしい。精度を見極めた上でそれに見合った場所を100メートル四方の中から精査していく。

日経サイエンスなかじま:電圧が落ちたのはMINERVA-IIの2つのローバーでほぼ同時だったのか。また誘導がうまくいったというのはN6のエリア内に両方とも確実に到達したと考えているのか

津田:N6に持っていくのは探査機の役目でうまくいった。N6エリアは下図で円形ではなく不定形な領域になっている。

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小惑星の表面でMINERVAが何度もバウンドするので、地形の影響を大きく受ける。表面の凹凸を細かく再現しないとN6内におさまるかどうかは読み切れない。我々が持っているリュウグウの最良の形状モデルから考えて、MINERVAはN6内にいるだろうと考えている。

久保田:2つのローバーの電圧が下がったのはほぼ同時。それまでのデータは探査機に送っているのでそれを見たら詳細がわかってくるだろう。
先ほどお見せした落下テスト用モデル。

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ローバーは1Aと1Bの2台入っていて、カバーが外れたら2つを同時に分離。MINERVA-IIは(初代はやぶさに対する)2代目ということであり、このシステム全体の総称。その中に1Aと1Bというロボット、ローバーが2つ入っていて今回は2台同時に分離した。

(ここからしばらくローバーのしくみ解説。既出のため省略)

ライターあらふね:MINERVAとはやぶさ2から送られてくるデータに不審な点はないか。

津田:その通り。

あらふね:誘導精度を高める方法を知りたい

津田:リュウグウの形状を正確に知ることが大事。探査機の動きはリュウグウの重力の影響を受けるが、リュウグウの表面形状を正しく知っていないと正確な重力を計算できない。そのために近接画像をよく見ておくことが大事。
もう一点、探査機が完全に自律になるのは高度500メートルから下。そこまでは我々が探査機をうまく持っていかなければならない。我々の腕の見せ所。練度を上げていかなければならない。

あらふね:MASCOTの分離に向けての戦略は

津田:MINERVAの運用結果のデータをこれからダウンリンクしてよく精査したい。今日のところの感想としては自信が持てる結果だった。MASCOTはMINERVA-IIと異なり南半球に下ろす。MINERVA-IIは赤道から140メートルほど離れていた。MASCOTはもう少し離れて200メートルほど。さらに少し難しくなるが今日のことをきちんとふまえれば十分できる範囲と思う。

あらふね:2回目の降下リハーサルに向けてのチェックポイントは

津田:リハーサルの手前まではMINERVAでやったことと同じ実力を出せるかに注力する。MASCOTの着陸に向けてはMINERVAと同じことがきちんとできるかが鍵。
リハーサルは着陸寸前まで行う。LIDARで測れない近距離を測るセンサーのLRF(レーザーレンジファインダー)を初めて使う。LRFが正しく動くか初めて見ることになる。その準備がリハーサルに向けて重要。

朝日新聞こみやま:MINERVA-IIの電圧が下がったタイミングは

久保田:はやぶさ2から分離後1時間から1時間半で電圧が下がった。予想していた時間の通り。分離後15分から30分ほどでファーストコンタクト(最初の着地)があり、その後回数はわからないがバウンドし、データも取れている。そして1時間から1時間半後に電力が落ちてきた。夜を迎えたということだろう。時間に幅があるのは今のところ間接的なデータしかないためで、はやぶさ2のデータレコーダからデータをダウンロードできればもう少し正確なところがわかるだろう。

こみやま:安定した状態にあるかはフォトダイオードの値でわかるとのことだったが

久保田:分離直後に太陽の光が当たり、フォトダイオードが光を検出したというデータがあった。回転しているので多少ばらつきがあった。フォトダイオードのデータが整定すれば整地かと思うがデータレコーダのデータのダウンロード待ち。着地点の環境によってはすぐホップするためホップをして動いている可能性もある。
データは完結的に届くため、連続して記録しているデータレコーダを再生すればわかる。

毎日新聞いけだ:通信が再開する時刻は。またそのとき着地しているのか

久保田:時刻はリュウグウの自転で決まる。19時ごろにリュウグウが朝を迎える。そうなれば通信できるだろう。着地点が暗いところだと電力を蓄えるのに時間が必要で機器の立ち上げに時間がかかる可能性もあるなど、場合によってはもっと遅くなるかもしれず、いろいろ想定している。

いけだ:ローバー1A/1Bに名称を与えるという話があったが

久保田:早く確証を得たい。今は間接証拠のみ。着地して写真を撮れれば決定的。移動後の写真があれば移動した証拠になる。
早くデータがほしいが探査機の安全が第一。楽しみはもう少し待ちたいと担当者と話している。
ちゃんと着地して活動したら名前をつけたい。名前の候補を考えている。

フリーランス秋山:降下後の上昇について。MINERVA-IIを分離してから少し待って上昇したシーケンスは、今後のインパクタを使った運用時と共通するものがあるのか

津田:クレーター生成運用に使うのと同じしくみ。インパクタを切り離して探査機が逃げるとき、まず横へ行きそれから小惑星の下側へ行ってということをする。その最初の一歩(今村註:横への移動のこと)と同じことを今回した。
MINERVAは速い速度で出ていくので探査機自身に(横方向に)打ち消す速度を持たせてから分離。MINERVAはリュウグウの重力だけですーっと落ちていった。探査機は横方向に大きな速度を持っているため分離後それを止めてから上昇するという運用。今までと違う複雑な運用だがこれをできたのは安心につながっている。クレーター生成の運用はこれをさらに何段階も組み合わせてシーケンスを組み立てる。

NHKすずき:着地の確認について。スケジュールと確認方法は

久保田:ホームポジションに到着するのが明日の午後くらい。遅くともそのくらいからデータを落とし始める。リュウグウに近づく前にホームポジションにいるところの写真から始める。古いデータから落としていくので分離やMINERVAのデータはだいぶあと、あさってになるかもしれない。
小惑星上からの写真なら着地した決定的な証拠になる。写真を撮れていなかった場合もフォトダイオードの値が一定なら着地。宇宙空間でじっと止まっていることはなかなかできないため。ジャイロのデータで回転しているかどうか、加速度データでどこで衝撃を受けたかやジャンプ、転がったときなどの状況がわかる。それらが揃うとMINERVAが整定していたりジャンプしていたりしたという情報もわかるようになる。

すずき:次に朝を迎えたときにMINERVAのデータは取れない?

久保田:MINERVAはボルダー(岩塊)がたくさんあるところにいる。影のところにいると充電に時間がかかる。19時くらいにMINERVAのいるところが朝になって通信できることを前提に運用を進めるつもりだが、通信できなかった場合はどういう状態か推定していろいろ考えたい。
通信できた場合ははやぶさ2にいったん蓄えられるので、ダウンロードの順番待ちとなる。

フリーランス大塚:小惑星表面のうち、はやぶさ2の着陸候補地点であるL08地点の写真はどのくらいの高度から撮れたのか

津田:数百メートルから望遠カメラ(ONC-T)で撮れた。今までより解像度が十分高い写真を撮れた。分解能は高度100メートルだと10メートル四方が見えるから分解能は1センチ。細かすぎるくらい見える。10メートル四方しか撮影できないのは狭いので、10数センチの分解能でより広い範囲を撮影する。

大塚:MINERVAの分離が高度55メートル。そのあとはやぶさ2が上昇するまで自由落下する1分間にどのくらい降下したのか

津田:分離後の降下速度は毎秒3センチなので、1分間で2メートル弱。高度55メートルが53メートルになったくらい。

ライター林:デコボコしたところにMINERVA-IIが着地したとしてどんな懸念があるか

久保田:リュウグウの重力は小さいので、車輪型のロボットと違って斜面に落ちてもホップはできる。大きなこぶも飛び越えられるがぶつかる可能性もある。とはいえそれで壊れるような衝撃ではない。何度もぶつかると太陽電池の劣化がある。朝や夕方になって影に入ると電力を作れなくなり休息。
昼間は電力の条件はよいが一方で高温が問題。コンピュータ自身が発熱するし小惑星表面も温度が高い。なるべく温度が低いところを選んだが、たとえば表面温度が60~70度あるとき自分も発熱すると温度が上がる。MINERVAはMLI(サーマルブランケット)で覆われているが80度を超えると機器に悪影響があるため休むモードに自分から入る。真っ昼間には活動できず朝夕がよいがその時間帯は岩の影に入るかもしれない。イトカワのときより活動時間は短い。19時にMINERVAのいる場所が朝になってもすぐには活動できないかもしれない。

林:ローバーを世界で初めて小惑星の表面に着地させることができそうだということについてコメントを

津田:それを目指してやってきたので期待しているし、はやぶさ2の半分は技術を見せていくミッション。リュウグウのことを知るとともにいい成功をみなさんにお見せしたい。着地の確証には至っていないがそう期待している。

林:津田さんがMINERVAに期待していることは。画像か、移動か

津田:まず画像が楽しみ。リュウグウの地表から空を見上げた画像がほしい。それは技術者としてというより人間として。技術者としては小惑星の表面に橋頭堡(きょうとうほ)を作り上げたという成果がほしい。MINERVAでそれを実現できれば。

林:発言からチームの成長を感じる。チームワークを高めるための工夫は

津田:いつも全員で考える。同じ課題をそれぞれの立場で一緒の場所で考える。専門でないところでも意見が出てきたり意外なアイデアが意外なところから出てきたりする。それをくり返しているとチームとして「あれはこうやろう」となる。チーム内はフラットに意見を戦わせ、ひとつのゴールがみなの目の前に見えるように心がけている。

林:吉川先生や久保田先生から見て、津田先生のプロマネぶりで川口淳一郎先生と違うところは

吉川:まったく違う。川口先生はなんでも知っている。従っていればうまくいくだろうというカリスマ的なところがある。津田プロマネは一緒になってミッションを作り上げていこうという雰囲気を強く出しているのでいいチームワークになっている。

久保田:やり方は違うがリーダーシップ、統率力は二人ともすごい。メーカーや大学などいろいろな人がいるのをうまく束ねてひとつの目標に向かわせる力は両者とも持っていると思う。

NVS齋藤:MASCOTの稼働時間は15時間と決まっている。分離運用のあと、続けて15時間MASCOTを運用すると思う。今回の運用からどのように考えているか

津田:分離までの運用と分離後の運用が連続しないMINERVAを先に行ったという面がある。MINERVAはタイムリミットが厳しくない。MASCOTは電池切れまでにすべてをやりきらなければならない。分離後も24時間くらいクリティカル運用が続く。
MINERVAでここまではうまくいったので運用チームも経験を得た。MASCOTでは次のステップに進めるという自信を得られたと思う。

齋藤:久保田先生へ。リアルタイムで公開されていた航法カメラではN6のボルダーが多いところへ下りていったように見えた。MINERVA-II1の開発・運用者としてどう考えるか

久保田:どこに下ろすかを選ぶとき一番重視したのは温度。暑いと活動時間が短くなる。ボルダーはどこも多いので、北側の比較的温度が低いところを選んだ。ある意味チャレンジ。影があってもまったく平坦なところより崖などいろいろなものがある場所の写真を撮れたらすごい。できたらはやぶさ2が写っているとよい。

フリーランス喜多:たくさんの資料で勉強するがイメージがわきにくい。そこの模型で分離運用シーケンスを再現してもらえないか

吉川:狙ったN6は赤道付近の大きなクレーターがある場所の北側(※写真は上が北極)。

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はやぶさ2はタイミングを見ながら大きなクレーターの真上へまっすぐ下りていく。

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最後に少し北へ移動しながらMINERVAを放出(放出は下の写真で左手の指先方向=南方向へ)。MINERVAがリュウグウへまっすぐ下りていくよう、MINERVAの南北方向への移動成分を相殺するために、はやぶさ2は北方向へ移動しつつ放出する。はやぶさ2はMINERVAを分離後、すぐにブレーキをかけて上昇する。

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南半球で同じことをすると、MINERVAの放出方向の関係で、はやぶさ2リュウグウの赤道のリッジ(ふち)に当たってしまう。

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MASCOTは逆なので南半球へ落とす。

喜多:SCI運用(クレーター生成運用)の時も極方向へ逃げる?

津田:SCI運用のときは赤道に反って経度方向へ逃げていく。

久保田:はやぶさ2が北方向へ移動する必要があるのを、MINERVA-IIの(水平方向の)分離速度をキャンセルするのに利用したうまい方法。

宇宙作家クラブ松浦:初代はやぶさではジャムセッションのような運用だった。はやぶさ2では8時間3交代でチームを組みたいと事前に言っていた。どのようなシフトを組んでいるのか

津田:ポジションによるが多くは8時間3交代。一部12時間2交代がある。徹夜はない。

松浦:前回はインタビューしても「あまりに忙しくて覚えていないんだ」という答えがけっこうあったが今回は大丈夫?

津田:忙しいは忙しいですが、記憶が飛ぶことはない。

(以上)

(会場から拍手)