- 「マツド・サイエンティスト・ナイト3 宇宙で芸術だ!!」 -- LOFT PROJECT SCHEDULE(http://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/19646)
- 宇宙に芸術:彫刻と詩。
- 誰が見るんだ? 誰が聞くんだ?
- これ本当に飛ぶんだぜ。
- 来年、ディープスペースに向けて、GO!
「マツド・サイエンティスト・ナイト3 〜宇宙で芸術だ!! 〜」 – LOFT PROJECT SCHEDULE
- 【出演】
なにがなにやら、と思うだろうか。
画像で見てみよう。これが「ARTSAT2 深宇宙彫刻Despatch」だ!
DESPATCH (FO-81) |
もっとわけがわからなくなったかもしれない。
Despatchはこう見えて人工衛星、いやいや、はやぶさ2と一緒に惑星間空間へ飛び出していくから衛星ではなく、人工惑星になる宇宙機だ。信じがたいことにこれが実機のデザインだという。
しかし話を聞いてみるとこれはこれで合理的な設計になっているのだった。
この宇宙機を初めて見たのは、はやぶさ2の相乗り衛星候補が3機決まったという告知だった。
- 「はやぶさ2」相乗り小型副ペイロードの選定結果について|トピックス(2013年)|JAXA産業連携センター(http://aerospacebiz.jaxa.jp/jp/topics/2013/topics130919.html)
募集の告知はこちら。
- 打ち上げ予定・実績・リンク|相乗り小型衛星|JAXA産業連携センター(http://aerospacebiz.jaxa.jp/jp/ainori/results.html)
選定結果のPDFを見るとこんなページが。
ここなに!? とびっくりしたのだった。
人工衛星には普通、太陽電池パネルが貼られている。深宇宙へ出ていくはやぶさや、はやぶさ2も同様だ。一方Despatchには太陽電池パネルがない。
Despatchのミッション期間は打ち上げから1週間に限られている。地球周回軌道をぐるぐる回るのではなく惑星間空間へ飛んで行き、すぐに地球から離れて通信できなくなるからだ。1週間しか使わないのならいっそのこと電池(充電池でもない普通の電池)だけでいいだろうという考え。なるほど合理的だ。そして太陽電池パネルがいらない設計のため外見の自由度が高くなった。
深宇宙へ送り込まれる芸術作品であるDespatchは「深宇宙彫刻」、つまり彫刻作品でもある。その彫刻のガワは3Dプリンタで出すそうで、3Dプリンタの本を作ってからも3Dプリンタのネタを追っている身としては聞き捨てならない。色を塗りたいが野田司令いわく「宇宙で大丈夫とわかっている塗料しか使えない」からちと大変かもとのこと。
3Dプリンタで出した1/5の模型。
このガワは見た目だけを考えて作られているわけではなく、機体の重心をずらすように設計されている。姿勢が不規則に変化するようにして、アンテナが地球を向かないまま落ち着いてしまわないようにしているそうだ。
Despatchは通信についても割り切っていて、アンテナは送信のみ。地上からDespatchへコマンドを送って受信させたりはしない。Despatchのミッションのひとつは宇宙からの詩の送信で、その内容はDespatchが宇宙で取得したセンサ情報から自動生成する。詩の送信には一番簡単なビーコン信号を用い信頼性を上げる。周波数はアマチュア無線の430MHz。世界中のアマチュア無線家の協力を借りて、宇宙から届く詩を協調受信する。
とまあ、いろいろな点でぶっ飛んでいるこのDespatch、JAXAで行われた選定会議は紛糾した。最高点をつける選考者がいた一方、最低点をつける者もあったという。
人工衛星プランの公募となると、JAXAの中の人にとってはたいてい想像の範囲内となる。「こういう軌道をとる宇宙機の相乗り衛星をこういう条件で募集したらまあだいたいこういうプランが上がってくるよね」てなもんである。しかしDespatchはJAXAの人たちにも予想外のプロジェクトだった。そこがいいという人もいれば、「これは税金の無駄遣いと言われるのでは」と難色を示す向きもあったそうだ。
芸術の使命の一つに、作品を通じて人々に新しいものの見方を提示し、議論を起こさせるというものがある。Despatchは応募の段階でさっそくその意義を発揮したわけで、その意味では打ち上げる前に、もっといえば採択されなくてもすでに成功したプロジェクトといえるのではないだろうか。
アートの話題の関連でこんな話も。
地球の重力圏を離れ、太陽を回る人工惑星になるDespatchを宇宙人が見たらどう思うか。地球人以外にも美が伝わるか。野田司令が就学前のお子さんにサグラダ・ファミリアを見せに行ったときの話をしてくれた。現地に行くまでは時差ボケで眠いとか不機嫌だったのに、いざそこに着くと芸術についての知識を持たない子供でも圧倒的な美をちゃんと受け取って目を見張っていたとのこと。となれば普遍的な美があるかもしれない。
宇宙で自分撮りをする難しさについて。
「いぶき」(GOSAT)の切り離し時の写真はアングルや露出が絶妙である。これはNASDAがロケットにカメラを初めて搭載したときのもので、カメラをこう向けてこのタイミングで撮ればよいと計算するのに数か月かかったとのこと。
- JAXA|いぶき搭載カメラ-運用管制室の画像・映像(http://www.jaxa.jp/countdown/f15/live/control_cam_j.html)
Despatchに先駆けて「ARTSAT1 INVADER」(http://artsat.jp/invader/)が来年はじめにGPM/DPRの相乗り衛星として打ち上げられる。こちらはわりと普通のキューブサットでおとなしめ。
- GPM-DPR スペシャルサイト(http://www.satnavi.jaxa.jp/gpmdpr_special/index.html)※公式アニメーションは「シュタインズ・ゲート」のアニメ制作スタジオによる
はやぶさ2の打ち上げは2014年末で、1999JU3というC型小惑星へ向かう。野田司令いわく「打ち上げが遅れると重量が厳しくなり、相乗り衛星を3つは載せられなくなるかもしれない。そうなったらごめんなさいということで募集している」。
ほかにも、Despatchのらせん形状の理由についてアートの文脈から詳しい話を聞けたり、休憩時のBGMはグレンラガン(螺旋力!)だったりして楽しいイベントでした。
でですね、こんなに面白い話を聞けるイベントだったにもかかわらず空席が目立ったのはまったくもったいない。もったいないよ。次も多分面白いと思うからみなさんぜひ。
関連リンク
- DESPATCH(http://artsat.jp/despatch/)
- ARTSAT project - facebook(https://www.facebook.com/artsat)
- 「マツド・サイエンティスト・ナイト3 宇宙で芸術だ!!」 - Togetter (http://togetter.com/li/594352)
関連キーワード
- 第三インターナショナル記念塔(別名タトリンの塔:Tatlin's Tower)
- ロバート・スミッソンのランドアート「スパイラル・ジェッティー」(http://www.robertsmithson.com/earthworks/spiral_jetty.htm)
- ダーシー・トムソン「生物のかたち」
- フェラン・アドリアのレストランとそのドキュメンタリー「エル・ブリの秘密」
- 公式サイト:美味しい映画「エル・ブリの秘密」!(http://www.elbulli-movie.jp/)
エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン [DVD]
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2012/10/05
- メディア: DVD
(11月29日記)