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「セデック・バレ」

早稲田松竹で鑑賞。1930年、日本統治下にあった台湾の山間部で起きた現地人の暴動、「霧社事件」を扱った4時間半の大作である。

武勇と名誉を重んじる先住民族が文明に飲み込まれようとする中、自分たちの誇りのために絶望的な戦いに向かっていくという物語はまさに王道である。

主人公に敵対する文明の側がわれわれの日本であるところはやや居心地が悪いものの、どちらかが一方的に良い悪いという描き方にはなっておらず、重層的で文化衝突の運命といった雰囲気を持っている。個人レベルでもある段階では理解者のように描かれてもその後復讐に手を染めてしまうことが示唆されたりする。人間はそうそうわかりやすく単純なものではない。こういう描き方ができるのもこの長い尺があってこそと思う。それでいてテンポはよく、アクションシーンは迫力があり、途中でだれることはない。

主人公モーナ・ルダオを序盤以降演じるリン・チンタイ(林慶台)は現地民の牧師さんで部族の長でもあるそうで、映画出演は初めてながら堂々としていて眼光は鋭く風格十分。ほかにもセデック族の少年バワン・ナウイ役のリン・ユアンジエ(林源傑)もとてもいい仕事をしていた。

セデック族はいわゆる首狩り族である。敵の首を持ち帰って初めて一人前の男に認められる文化や、戦士として堂々と死ぬことで虹の橋の向こうに行けるという考え方を持っていたりする。勇猛な戦士だけが死後いいところに行けるという思想はヴァイキングのいう天界(ヴァルハラ)に似ている。狩猟民に一般的なのかもしれない。深い森の中をはだしで縦横無尽に走り回り、片手剣、弓や槍、簡素なライフルといった武器を使い狩猟生活を送っている。

そういう人たちに日本人が「文明を教えてやって」もありがた迷惑であって、先住民に対する無自覚な侮辱が積み重なればテロを招いてしまうのは仕方がない。では先住民と日本人はどういう関係を築けばよかったのだろうか。

負けるとわかっていても自分たちの信義を貫こうと立ち上がるプロットはもう忠臣蔵であって、こういう浪花節が好きなのは日本人だけではないのだね。また劇中、セデック族に「日本が100年前に失った」武士道を見出す日本人がいる。これはこれで、日本側の価値観でしか相手をとらえることができない深刻なディスコミュニケーションであって面白いと思った。

劇場では林えいだい著『台湾秘話 霧社の反乱・民衆側の証言』(新評論)が売られていた。

台湾秘話 霧社の反乱・民衆側の証言

台湾秘話 霧社の反乱・民衆側の証言

霧社事件の本はほかにもたくさん出ている。

ウェイ・ダーション監督が霧社事件を知るきっかけになったマンガも邦訳があったとのこと。現在は絶版。

早稲田松竹での上映は22日(金)まで。平日でも結構混んでいた。新文芸坐では12月27日(金)に上映とのこと(http://www.shin-bungeiza.com/program.html)。ぜひどうぞ。

関連リンク

セデック・バレ」のキーワードから拝見した、id:freaky47さんの「セデック・バレ」にまつわる長い話はとてもよかった。