- これまでの流れ
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- 8月25日:鹿児島へ(d:id:Imamura:20130825:epsilon)
- 8月26日:Y-1ブリーフィングとロケットまつり in 内之浦(d:id:Imamura:20130826:epsilon)
朝5時半に起床、6時に鹿屋市を内之浦へ出発。車には火山灰がうっすら積もっていた。
天気は快晴。打ち上げ取材は今まで5回してきて、打ち上げを見られたのは4回。M-Vロケットの8号機(d:id:Imamura:20060222)と7号機(d:id:Imamura:20060923)はロケットが雲にときどき隠れながら上がっていくのを見た。H-IIAロケット9号機(d:id:Imamura:20060218)とH-IIBロケットの3号機(d:id:Imamura:20120721)は打ち上げ後10秒ちょいで雲にズボ。雲ひとつない空へロケットが溶けていくのを一度見てみたい。今日の快晴ならいけそうだ。
内之浦へ抜ける国見トンネルの手前では検問のようにして車を止め、見学情報などの書かれたチラシと絵はがきを配っていた。
鹿屋市から1時間ほどで内之浦宇宙空間観測所のプレスセンターに着くと、待望の性能計算書が。まさに宇宙研の伝統。
- くわしくは:物語「性能計算書」 | 日本の宇宙開発の歴史 | ISAS(http://www.isas.jaxa.jp/j/japan_s_history/chapter10/06/)
今回はプレス観覧席に入れる人が厳しく制限されていた。幸い宮原(みやばる)一般見学場の駐車券が当たったため、宇宙作家クラブのメンバーとやりくりしてこちらで見ることに。
- イプシロンロケット打ち上げに係る一般見学について/肝付町(http://kimotsuki-town.jp/5443.htm)
一般見学場に着いたのは7時半すぎ。射点が見える場所を確保できた。13時45分の打ち上げ予定時刻まで6時間ちょい。これをX-6時間という(エックスマイナス6時間と読む)。うわー、長丁場だ。
見学場に入るとき、紙製のリストバンドを渡された。見学場を出入りするときに識別するためのもの。コンサートみたい。(写真はプレスセンターに戻ってから撮影したもの。毛が濃くてお見苦しいところをお見せしてます)
宮原一般見学場は階段上と下の広場に分かれている。駐車スペースになっている下の広場にはイプシロングッズの物販のほか臨時のファミリーマートもできていた。上の広場へ向かう階段の手前で、熱中症やエコノミークラス症候群に注意する旨リーフレットを渡された。水分補給はファミマでバッチリだ。
物販ではイプシロンロケットをあしらったペットボトルの水が売られていた。いい感じ。
階段を上がるのはこんな感じ。
報道がたくさん来ていてたくさん取材をしていた。これは「ミヤネ屋」の取材。
ヘリコプターがすごく低空に来て、「地獄の黙示録」的というと物騒だけど地上で手を振る人々を撮っていった。
今日は本当に快晴で日差しがギンギンで、日焼け止めをたっぷり塗った。首筋を保護する幕がついた帽子をかぶる。さらに傘を三脚に立て、ゴリラポッド(の模造品)で固定するといい日陰ができる。この中にいるとかなり楽だった。湿度が低めで蒸し暑くなかったからかも。またときどき涼しい風が流れてきてそのたびに生き返ったりして。待っている間は折りたたみ椅子が役に立った。
後ろをふり返ると傘の日よけがたくさん。
10時45分、X-3時間。整備塔の扉が開いて、いよいよイプシロンロケットが姿を見せた。双眼鏡でよく見える。
ふと思い立って、持ってきた双眼鏡にiPhoneを押しつけて写真を撮ってみた。
- 関連記事:ロケットのために双眼鏡を買う(d:id:Imamura:20120707:binoculars)
おお、これはいい感じ。ここと射点の中間にあるプレス観覧席もよく撮れてる。
(これは双眼鏡とiPhoneをがんばって手で持ったけど、双眼鏡用のアイピースとiPhoneのハードケースをうまく接着させられればワンタッチで撮れていいかも。いっそモデリングして3Dプリンタで出してもよさそうだ)
時間がたつにつれて日が動き、影の向きが変わるので三脚に固定した傘も動かしていく。打ち上げまで6時間は長いと思ったが、日差し対策はなかなかうまくいっているしJAXAからプレス向けに「Go/NoGo判断はGoです」というメールが数時間おきに来る。また風を見るためにカウントダウンつきで頻繁に放球される気球を見たり、上空を旋回する飛行機を見たりしていたらあまりつらくはなかった。
そうこうするうちX-1時間になりX-10分になった。広場にはレジャーシートがたくさん敷かれ、椅子を置いている人もたくさんいる。打ち上げが近づくとそのすき間をするするっと通って前に出ようとする子供や親が増えてきた。ちゃっかりな人たちは後ろめたいのもあるのか、決して背後を確認しない。すぐ後ろに撮影用の三脚が立っているかもしれないのに。前で見たい気持ちもわかるけれど、後から来て行列に横から入るようなのはいかんよ。
X-5分くらいに、三脚から傘を外してカメラをセットした。オートフォーカスだとピント合わせでカメラが迷うことがあるので、マニュアルフォーカスに切り換えて射点にピントを合わせる。周囲に人は増えてきたが一応射点が入る構図を取れた。
しかしこれはピントが手前に合ってしまっている。いったん電源を切るとフォーカスが移動してしまうのだろうか。
宮原の一般見学席には男性の声で、内部向けのアナウンスやカウントダウン音声が入ってくる。X-2分くらいに女性の声で「打ち上げ10秒前になりますとロケットの横から煙が吹き出し始めます。あらかじめご承知おきください」と親切な案内があった。これはイプシロンロケットの最下部にある、姿勢制御用の固体モーター「SMSJ」(固体モーターサイドジェット)のことだ。姿勢制御用の小さなロケットモーターはヒドラジンなどを使うことが多く、イプシロンも2段目のSJ(サイドジェット)などに使っている。一方SMSJは固体燃料を使っていて、火を入れたら燃え尽きるまで噴射ガスが止まらない。ガスが出っぱなしでどうやって姿勢を変えるのかというと、ガスの噴き出し口を←↓→と3方向にしておく。機体は↓の字の上にあり、反対側にも同じように←↑→という方向にガスが出るSMSJがついている。まっすぐ飛んでいるときは3方向に均等にガスを流しておき、姿勢を変えたいときはガスの流量バランスを変えてあげればよい。
イプシロンロケットのSMSJについては以下に詳しい。
- ISAS | 第5回:イプシロンロケットの推進系 / イプシロンロケットが拓く新しい世界(http://www.isas.jaxa.jp/j/column/epsilon/05.shtml)
で、このSMSJは打ち上げ10秒前に点火されて煙がシューッと出てくる。これはM-Vのときも同じで、知らないと「ロケットから煙が出ているのに上がらない?」と思ってしまいそう。
- 参考映像(SMSJの煙は0分43秒あたりから):M-V-5(打ち上げシーン特集) - JAXAデジタルアーカイブス(http://jda.jaxa.jp/result.php?lang=j&id=7cc8b0ca1c8fda28e23f8926ff1d8d6d)
ということで「10秒前に煙が吹き出し始めます」とアナウンスしたのだろう。SMSJについて長々と説明した理由はもうちょっとあとで。
M-Vロケットでは、カウントダウン音声は1分前から入り始める。言い始めがちょっと面白くて、「よぉーい、はい1分前、59、58…」という言い方なのだった。
イプシロンロケットでも同じだと思っていたので、カウントダウンが「70秒前」で始まったのはちょっと驚いた。三脚にセットしたデジカメでムービーを撮影し始める。カメラに気を取られていると打ち上げを体感できないので、録画を始めたら放っておく。双眼鏡で見る射点はテレビで見るのと同じ映像になってしまうから、双眼鏡も使わない。「30、29…」だんだんテンションが上がってくる。10秒前には一般見学席の人たちからも唱和の声が上がり始めた。おや? 打ち上げまで10秒を切ったのにSMSJの煙が出てこない。しかしカウントダウンは続く。
「5、4、3、2、1、ゼロ」
……………あれ?(しーん)
「逆行シーケンスに入ります」とアナウンスが入った。外していった安全装置を逆の順序で入れていくということだろう。打ち上げは中止だろうか。
デジカメの液晶画面を見ると「書き込みエラーです」。なぬ! なぜ今この時に。電源を入れ直すと「認識できません、フォーマットしますか」。しません! 直射日光の熱でメモリカードへの書き込みが変になってしまったらしい。電源を切って自分の影で直射日光をさえぎり、少し待つと撮影できるようにはなった。しかしカウントダウンの動画は「再生できません」だった。こういうことがあるんだな。なにごとも事前のリハーサルが重要だ。ぶっつけ本番はいけません。
X+5分くらいに「搭載機器オフ手順へ移行して下さい」のアナウンス。今回のロケットを打ち上げられる時間帯(ウィンドウ)は13時45分から14時半まである。13時45分にストップしても45分以内なら打ち上げることはできるが、今日の打ち上げは中止かな。
NHKは13時52分には「今日は打ち上げ中止」のニュース速報を出した。
14時を回ったところでアナウンス「現在衛星オフ手順続行しています」。その数分後、女性の声で会場向けと思われるアナウンスが「本日の打ち上げは中止になりました」と告げた。これで確定、今日の打ち上げはなくなりました。残念。みんな広場をぞろぞろ降りていく。
双眼鏡で射点を見ると、報道席の端に人だかりができている。写真は14時6分。打ち上げ中止から20分くらい。
Twitterによると、報道席では記者たちが阪本成一先生(@sakemotto_)を取り囲んで状況説明を求めていたらしい。
拡大するとこんな感じ。こちらから見て左側に集まっている人たちの中心に阪本先生がいるようだ。
今この段階では阪本先生も詳しい状況はわからないだろうが、情報を求めて先生に食ってかかりたくなる気持ちもわかる。新聞記者はすぐに原稿を送らなければならない。どう書けばいいのか、今後の見通しを知りたいのだろう。
打ち上げが無事行われたときも、見学場からの退場にはしばらく時間がかかるという説明をされていた。射場の安全が確認されるまで交通規制が解除されないからだ。ロケットがいなくなってもそうなのだから、ロケットがまだ立っている今はもっと危ない。すぐには出られないだろう。それでも打ち上げ中止から30分くらいたつと内之浦方面とは逆方向へなら出てもよいということになり、車はどんどん出て行った。我々の車は内之浦方面のプレスセンターに戻りたいので、残る車の駐車場所へ移動してまた階段を上った。
14時19分の様子。イプシロンロケットは外に出ている。このあと整備塔内へ戻っていった。
一般見学場に残っていた親子連れの子供がぽつりと「イプシロンかわいそうに」。お父さんが「なあに壊れたわけじゃない」と言っていてかっこよかった。
15時ちょうどの様子。イプシロンロケットは整備塔内に格納された。車はほとんどいなくなっている。
このあと15時5分に「総員退避解除」のアナウンス。直後に「国道の通行規制は解除されました」とアナウンスされ、プレスセンターへ戻ることができた。
プレスセンターへ戻ると、JAXAの人も報道陣もみんな疲れた表情。早朝からずっと待って、いよいよというところで中止になってしまったから仕方がない。16時から記者会見が行われた。その様子は以下に。
- イプシロンロケットの打上げ状況に関する記者会見 - ただいま村(http://ima.hatenablog.jp/entry/2013/08/27/160000)
- 参考(お急ぎの方はこちらを):打ち上げ直前に中止となったイプシロン - そのとき何が起きたのか | マイナビニュース(http://news.mynavi.jp/articles/2013/08/28/epsilon_stop/index.html)
事前にチェックできないところで不具合が起きてしまった。しかしそれをちゃんと検知して打ち上げシーケンスを止めることができたのだからよかった。気がつかず打ち上げてしまってドカーンよりはよほどよい。次の打ち上げは最短で3日後とプロマネの森田泰弘先生は言った。しかし台風が近づいてきている。3日後の金曜はちょうど雨の予報だ。となると最低でも1週間くらいは延びるんじゃないかなー。
会見が終わったらもう今日ここでできることはない。ホテルへ戻りましょう。
今日はまったくいい天気だった。この空の中へイプシロンロケットが打ち上がっていったらよかったがやむを得ない。日焼け止めはこうかばつぐんで、塗り忘れた手のひらの一部を除いてまったく焼けなかった。JAXAのある若い職員は顔から腕から真っ赤になっていて痛々しかった。山本一太大臣のSPも顔が真っ赤に焼けていた。
ホテルで朝日新聞を開いたら、地方面で夕べのロケットまつりが記事になっていた。「パネルディスカッション」とある。そういえば今朝のNHKで鹿児島放送局からのニュースの時間、「イプシロンロケットの準備が進む内之浦でパネルディスカッションが」みたいなことを言っていた。これはロケットまつりのことかなあ、でもパネルディスカッションかなあと思っていたのだった。肝付町がそういうふれこみで案内を出していたのかもしれない。
追記:肝付町からの案内を発見
- ロケットまつり in 肝付町・内之浦〜ロケット打ち上げを支えてきた人たち〜/肝付町(http://kimotsuki-town.jp/item/8942.htm)
「パネルディスカッション・トークライブ形式で語る」とあった。
(8月28日記)
- このあとの流れ
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- 8月28日:桜島を見つつ鹿児島から帰る(d:id:Imamura:20130828:epsilon)