楽天の電子書籍端末「Kobo」はなかなか苦戦しているようだ。発売直後にセットアップできない人が多く出たり、ラインアップの拡充に苦労している様子だったりで、Koboユーザーとしては心配の種がつきない。
考えてみると楽天はネットモールのサービス会社であってメーカーではない。自分のところでものを作って売るのはKoboが初めてなのだ。
AmazonのKindleが発表される前にと大あわてで仕事をした事情もあっただろうとはいえ、あれほど大きな会社でも会社として新しいことを始めるのはなかなか難しいものなのだな。
新しいことといえば、これから電子書籍を売っていかなければならない出版社にも新しいことが求められてくる。
電子書籍の時代になっても、企画と制作の部分はそう大きく変わらないだろう。こんな本を作りたいと企画を立て、できた原稿を編集し成果物にする制作を行う。
しかしその先、できあがったものを売る段階が紙の本と電子書籍では大きく異なる。
本の価格は再販制度によって決められている。再販制度についてはいろいろ言われるが、決して悪いことばかりではない。再販制度のおかげで、新刊やベストセラーが日本全国の書店にある程度きちんと行き渡るなどメリットもある。
一方、電子書籍は再販制度の対象外と決められている。出版社は電子書籍の値付けをあとからいつでも自由に変更できることになるが、今まで本の値下げキャンペーンを打ったことなどない。
iPhoneのアプリはよく値下げキャンペーンが行われている。時には期間限定で無料にしたりもする。そうやって認知を高め、実際に使ってもらうことで最終的な収益を上げようという売り方である。
しかし本は値段を変えてはいけない商品だったから、出版社はそういうダイナミックな値付けをしたことがない。これはなかなか大変だ。
電子書籍の自主出版として話題になった『ジーン・マッパー』は、Bookアサヒコムに紹介されたのを記念してセールを行った。
- BOOK asahi.com掲載記念キャンペーン(http://genemapper.info/about-gene-mapper/book-asahi-com-campaig/)
- 掲載された記事:日本人初? 「コボ」「キンドル」でデビューした新人作家が1位を獲得するまで - 林 智彦 - 本のニュース | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト(http://book.asahi.com/booknews/update/2012082100001.html)
個人が作って売っている電子書籍だからこそ、機を見てそれこそiPhoneのアプリのように期間限定のセールを打つことができる。このような臨機応変な値付けが、電子書籍時代の出版社には求められる。
そういえばKoboイーブックスではオープン当初、笹本祐一さんの『ミニスカ宇宙海賊』が全巻半額セールを行っていた。
笹本さんは以前、『妖精作戦』の改訂版が出るのに会わせてJコミで旧版を無料公開した。
このプロモーションには手応えがあったそうで、続いて『星のパイロット』もJコミで無料公開している。
- 笹本祐一先生のSF小説、『星のパイロット』(1997年ソノラマ文庫版)を公開しました (イラスト:鈴木雅久) - (株)Jコミの中の人(http://d.hatena.ne.jp/KenAkamatsu/20120718/p1)
こういう流れがあったから、『ミニスカ宇宙海賊』の半額セールもすんなり決まったのではないかなー。
ほかにKoboイーブックストアでは、『聖剣の刀鍛冶(ブラックスミス)』が1巻に限り無料で公開されている。
聖剣の刀鍛冶(ブラックスミス) 1 By: 三浦勇雄,屡那 - eBook - Kobo
- 著者: 三浦勇雄, 屡那
- 出版社: メディアファクトリー
- ショップ: 電子ブック楽天<kobo>イーブックストア
- 価格: 無料※記事掲載時の価格です
こんなふうに、電子書籍では今まで紙の本ではできなかった売り方ができるしもう行われている。
できることが増えるというのは、仕事が増えるということでもある。楽な商売などないのだから面倒がらず、電子書籍の売り方をいろいろ工夫していってほしい。
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