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クローズアップ現代6月10日放送「傷だらけの帰還〜探査機はやぶさの大航海」書き起こし

昨日のクローズアップ現代では、13日に地球に帰還する小惑星探査機「はやぶさ」の旅路が紹介された。せっかくなので書き起こし。

7年の宇宙の旅を終え、6月13日、地球に帰ってくる日本の小惑星探査機「はやぶさ」に注目が集まっている。小惑星イトカワの岩石を持ち帰れば史上初の快挙だが、それ以上に人々を惹きつけているのは、想定外のトラブルを乗り越えてきた「はやぶさ」と、地球から支え続けた日本の技術者たちの決してあきらめない姿である。4つあるエンジンのすべてが正常に作動しなくなると、壊れたエンジン同士を組み合わせて復活させた「知恵」。一か月以上、通信が途絶した際、広大な宇宙空間で行方不明になった「はやぶさ」を探し続けた「執念」。小惑星への着陸の際に受けたダメージで、機体がバランスを失ったとき、地球に戻るための貴重な燃料ガスを機外へ放出して立て直した「決断力」など。残された機能をフルに活用し、地球への帰還を目指す「はやぶさ」と技術者たちの姿を追い、多くの人々を勇気づけているその魅力に迫る。

NHK クローズアップ現代 傷だらけの帰還

書き起こし

※言葉はなるべく正確に聞き取りましたが、文章として理解しやすくするために句読点や単語の挿入、入れ替えなどを施しています。またその際、聞き違いや誤解にもとづいて修正しているところがあるかもしれません。

※画面の説明は特に、筆者の主観によっています。画面に映っているものすべてを描写するのは不可能だからです。なるべく制作者の意図をくむように書きましたが、そうではない部分がある可能性も大いにあります。


N(ナレーター):今、各地のプラネタリウムで上映されている大人気のブログラムがあります。

府中市郷土の森博物館プラネタリウムと思われる上映前、行列を作る人たち)

N:間もなく地球へ帰還する小惑星探査機、「はやぶさ」。7年間におよぶ、宇宙の旅の物語です。

プラネタリウムのドームに投影されるはやぶさ、それに見入る観客席の様子)

観客(女性、目が潤んでいる。涙を拭くジェスチャー)「感動ものです、すごくよかったです」

N:「はやぶさ」の使命は、3億キロかなたの小惑星に着陸し、地表の石を持ち帰ること。人類初の挑戦の結果に、今、世界が注目しています。

(「HAYABUSA -BACK TO THE EARTH-より、はやぶさイトカワに着陸する場面)

NASAの研究者「はやぶさは各国の宇宙計画に大きな影響を与えるでしょう」

N:はやぶさの旅路は、絶体絶命のピンチの連続でした。

イトカワに迫るはやぶさ

N:相次ぐエンジンの故障。

イオンエンジンがプスンとなって噴かなくなる)

N:着陸の衝撃による燃料もれ。

イトカワの地表でスラスターを噴くが飛び立てないはやぶさ

N:そのたびにはやぶさを救ったのは、地球から指令を送り続けた技術者たちの知恵と執念でした。

ISASの管制室の様子。國中均教授、川口淳一郎教授がアップになる)

川口教授(テロップ「プロジェクト責任者」)「やれるだけのことはやってみようと、いう気持ちでした」

N:はやぶさが苦難の旅を終え、地球へ帰ってくるまであと3日。今夜は、7年間の技術者たちの知られざるドラマに迫ります。

(地球へ向かって飛ぶはやぶさ)(臼田宇宙空間観測所の通信室、通信担当の目のアップ)(イオンエンジンをのぞきこむ國中教授)

タイトル「傷だらけの帰還〜探査機はやぶさの大航海(No.2902)」

森本健成アナウンサー:こんばんは、クローズアップ現代です。はるか3億キロのかなたにある小惑星の石のかけらを無人の探査機が地球に持ち帰る。日本の宇宙技術が、人類初の快挙を成し遂げるかもしれません。気の遠くなるような旅を終えようとしているのはこちら。小惑星探査機、はやぶさです。

(スタジオに合成で、実物大のはやぶさ

テロップ:傷だらけの帰還/探査機はやぶさの大航海

森本:幅6メートル、高さ2メートル。この中には、日本が独自に作り上げた技術の粋が詰め込まれています。

たとえば、太陽電池を利用して長距離を飛行できる画期的なイオンエンジン。また、自分で判断しながら天体に着陸できる高度なロボット技術など、この技術が、アメリカやロシアも成し遂げていない快挙を実現しようとしているのです。

森本:7年前、地球を飛び立ちはやぶさが向かったのは、イトカワという小惑星です。イトカワは太陽を中心に、地球の外側の軌道を1年半かけて回っています。

(太陽を中心に、地球とイトカワの軌道図)

森本:なぜ小惑星の石を持ち帰るのか。それは、小惑星が、太陽系ができたころの状態を今もとどめていると考えられているからです。もしイトカワの石を分析することができれば、地球誕生の謎を解明する手がかりになると期待されているのです。はやぶさが地球に帰り着くのは3日後。しかし、7年間にわたる旅はピンチの連続でした。さまざまな困難を乗り越えてきた、はやぶさと技術者たちの物語をご覧ください。

M-Vロケット5号機の打ち上げ映像)

N:7年前の2003年5月。はやぶさは地球を旅立ちました。往復4年。45億キロにおよぶ大航海の始まりです。

テロップ:当初計画 往復4年 45億キロ

(地球近傍で太陽電池パネルを展開するはやぶさ

N:はやぶさを見守り続けてきたプロジェクトのリーダー、川口淳一郎さん。

(廊下を早足で歩く川口淳一郎教授)

N:はやぶさの計画は、日本の技術力を世界に示すチャンスだと考えていました。

(川口教授、管制室で國中教授が画面を指さし「ここがこうなって…」のような様子の話を聞く)

テロップ:打ち上げ前のはやぶさ(組立室で出発を待つはやぶさ

N:開発に力を入れてきたのは、最新型のイオンエンジンです。

はやぶさ実機のイオンエンジンのアップ)

N:イオンエンジンは、電気の力によって燃料のガスからプラスの粒子とマイナスの電子を発生させ、それぞれ別の装置から噴出させます。プラスの粒子が、マイナスの電気に引き寄せられることで推進力が生まれます。

イオンエンジンの模式図)

N:太陽電池で電力さえ得られれば、きわめて少ない燃料で長距離の飛行を可能にする画期的なものでした。

はやぶさイオンエンジンが稼働中の想像図)

川口「他の国がやっていないということももちろんですし、これが開く惑星探査の世界は途方もなく広がるんですよね。今までの活動よりも非常に幅が広くなることですので、ぜひ獲得したいと。ま、やりとげてやるぞというふうな気持ちで取り組んできました」

N:打ち上げから2年後の2005年。はやぶさはほぼ計画通りイトカワに接近。その姿を鮮明にとらえました。

(次第に大きくなるイトカワの写真。やがて至近距離からの全景へ)

テロップ:2005年9月

N:全長500メートル。ピーナツのような形の、ごつごつした岩の固まりでした。

テロップ:小惑星 イトカワ

N:そして2005年11月、プロジェクトのメンバーが見守る中、はやぶさは着陸しました。

(活気にあふれる管制室、はやぶさの状態を示す画面を何人もが見ている)

テロップ:イトカワに着陸/2005年11月

(管制室で笑顔の的川泰宣名誉教授、周囲の人々にも笑みがあふれる)

N:世紀の快挙。しかしはやぶさはこのとき、大きなトラブルに見舞われていたのです。

(管制室でジーンズ姿の川口教授、アップになるとモノクロ映像に)

N:はやぶさは、まっすぐ着陸して岩石を採集したら、すぐに上昇する予定でした。

サンプラーホーンをイトカワに押しつけ、サンプル回収する想像図)

N:ところが実際には、着陸したあとに横倒しになり、すぐには上昇できませんでした。

イトカワ表面でスラスターを噴かすものの、飛び立てないはやぶさ

テロップ:HAYABUSA -BACK TO THE EARTH- より

N:その後、なんとか飛び立ったものの、新たなトラブルがはやぶさを襲います。

イトカワから上昇するはやぶさ

N:着陸から一か月後、地球から呼びかけても、はやぶさは応答しなくなりました。

(管制室の画面アップ、奥には画面を見つめる研究者たち)

N:機体の向きを変える補助エンジンで燃料もれが発生、機体の制御ができなくなり、太陽電池パネルを太陽に向けられなくなった上、アンテナの向きもずれてしまったのです。

(機体からスラスターの燃料が噴出、くるくると回転するはやぶさ

N:通信ができなくなり、行方不明となったはやぶさ。いったん途絶えた惑星探査機の通信が復旧した例はこれまで一度もありません。

(管制室で、疲れ切った様子の研究者)

はやぶさプロジェクト 國中均さん「なんと言うかな、僕らの船がなくなったなという感じです。僕は絶対見つからないだろうなと思っていました。いやあー、普通見つからないですよねえ。(間)生き返らないと思います」

N:もう、あきらめるしかない。誰もがそう思ったとき、リーダーの川口さんがひとつの作戦を打ち出します。

(川口教授のアップ)

N:川口さんは、はやぶさが宇宙空間をさまよううちに、太陽電池に光が当たり、電力が回復する瞬間が必ずあるはずだと考えました。絶えず指令を送り続ければ、いつか応答が返ってくる。そのわずかなチャンスにかけたのです。

(宇宙空間で回り続けるはやぶさ)(地球から見た星空)

川口「ここで終わるわけにはいかないと、いうのが率直な気持ちです。勝算があったかというと、まあやれるだけのことはやってみようと、いう気持ちでした」

テロップ:臼田宇宙空間観測所/長野

(臼田のパラボラアンテナ全景)

N:はやぶさからの応答を待ち続けるこの作戦は、忍耐を強いられる持久戦となりました。

(臼田観測所内の様子)

N:プロジェクトで通信を担当する狩野光夫さんたちは、宇宙から送られてくる電波の監視を続けました。

(狩野さんの表情)(スペクトラムアナライザーの画面)

N:宇宙ではさまざまな電波が行き交います。はやぶさからの電波はきわめて弱く、ほかの電波に埋もれてしまうことが予想されました。

(スペアナの画面で上下する電波強度のグラフ。「はやぶさからの電波イメージ」はほかの雑電波と同じくらいの高さしかない)

N:はやぶさの電波を見逃さないよう、ひたすらチェックする日々が続きました。

通信担当/狩野光夫さん「やっぱりつらい感じもありましたけれども、ずっと信号がいないかというのを毎日毎日探しておりました」

N:行方不明になって一か月半後、ひと筋の電波をキャッチしました。はやぶさからの信号です。

(グラフの中にひときわ高く立ち上がった部分がある)

狩野さん「まさかと思いましたけれども、でもまあ、本当にうれしくて仕方がなかったですね」

N:しかし、通信回復の喜びもつかの間、はやぶさは深刻な事態に陥っていることがわかりました。

(太陽を背にして回転しているはやぶさ

N:はやぶさの、11個あるバッテリーはすべて空っぽで、電気ヒーターは切れ、機体はマイナス50度で凍りついていました。

テロップ:バッテリー切れ/機体はマイナス50度

N:この時点で、機体の向きを修正するのは不可能です。しかし、太陽電池のパネルを安定して太陽に向けられなければ、地球に帰還できません。なんとか機体の向きを変える手だてはないのか。川口さんたちは検討を重ねました。

(川口教授のアップ、沈んだ雰囲気)

N:その結果、目をつけたのがイオンエンジンの装置でした。イオンエンジン自体は電力不足のため動きませんが、燃料をそのまま放出させることは可能でした。放出の際の力で、機体の向きを変えようというのです。

イオンエンジンの中和器からキセノンガスを噴射、はやぶさの姿勢が安定していく)

N:作業は容易ではありませんでした。本来とはまったく違った使い方をするため、燃料の放出のしかたなど誰にもわかりません。

(管制室での研究者たち。渋い表情)

川口「腰をすえて考えなくちゃいけないし、やはり最後の最後まであきらめずに可能性を追求していくような姿勢が大変大事だろうと。やっている当事者があきらめちゃったら、誰もやりませんからね」

N:さまざまな試行錯誤をすること2か月。はやぶさは姿勢の制御に成功。太陽電池パネルに光が安定して当たるようになりました。しかしこの時間のロスが、はやぶさにさらなる試練をもたらします。

はやぶさイオンエンジンが稼働し、移動を始める)

(スタジオへ)

森本:スタジオには宇宙航空研究開発機構名誉教授の的川泰宣さんにお越しいただきました。こんばんは。

的川:こんばんは。

森本:的川さんは宇宙工学が専門で、はやぶさの発足にもたずさわれているわけですけれども、燃料もれや行方不明のトラブル続きで、どんな心境でしたか。

的川:いったんものすごく喜んだあとだけに、反動も大きくて、おそらくほとんどの人がもう地獄に落ちたような、心境であきらめていたと思うんですよね。まその中にあって、プロジェクトリーダーの川口淳一郎さんのあきらめの悪さ。(笑い)

森本:(笑い)

的川:だいたいあの顔をごらんになってみるとわかりますけれど負けず嫌いでですね、絶対にあきらめないと。そういうふうにリーダーがしっかりとしていると、周りの人がそうだ、我々は世界で初めてのことをやっているんだと、だから我々もあきらめるわけにはいかないというんで気持ちがついていくわけですね。そうすると、そこでちょっとなにかいいニュースがあれば、どんどん事態がよくなっていって、チーム全体がリーダーを軸にしてズーッと団結の強い、固まりができていくような感じになりましたね。あとは科学衛星のチームというのは、注文主の国の機関である宇宙科学研究所とメーカーの人が一体になって、わけへだてなくみんなが意見を出し合って平等にチームを作っているという雰囲気があったんですね。やはりひとつのプロジェクトにかける思いというものを共有できているということが非常に強かったと思いますね。

森本:なるほど、本当にチームの強さということなんですが、さてそのはやぶさ、行方不明になったあと発見されて再び飛行を始めたわけですか、さまざまなトラブルに巻き込まれたために当初4年で帰ってくる計画が大幅に狂って、7年かかることになってしまいました。想定外の長い路が、はやぶさの旅路をさらに苦しいものにします。

(VTRへ)

テロップ:探査機はやぶさ/絶体絶命

N:去年11月、はやぶさにまたしてもトラブルが発生しました。電力を得て復活したイオンエンジンが立て続けに故障。すべてのエンジンが正常に動かなくなってしまいました。はやぶさの飛行が予想以上に長引き、エンジンが耐えられなくなったのです。

イオンエンジンがひとつずつ止まっていく様子)

N:はやぶさプロジェクトのリーダー、川口さん。これまで多くのトラブルを乗り越えてきましたが、このときは打開策を見いだせませんでした。

(暗い表情の川口教授)

テロップ:はやぶさプロジェクトリーダー/川口淳一郎さん

N:絶体絶命と思われたとき、エンジンの開発チームから画期的なプランが提案されました。チームを束ねる國中均さんです。イオンエンジンを20年以上にわたって研究してきました。

イオンエンジンの実験装置で様子を見る國中教授)

テロップ:イオンエンジン開発担当/國中均さん

N:イオンエンジンを動かすには、燃料のガスからプラスの粒子を生み出す部分と、マイナスの電子を発生させる部分の二つが必要です。

(再び、イオンエンジンの模式図)

N:動かなくなった4つのエンジン。この中に、マイナスの電子を放出する部分と、プラスの粒子を発生させる部分の壊れていないものが別々にありました。

はやぶさに向かって、右上にあるマイナスの電子を放出する部分:中和器と、右上のプラスの粒子を発生させる部分:イオン源のハイライト)

N:國中さんたちは、この生き残った部分を連動して動かせば、ひとつのエンジンとして使えるはずだと考えました。

(互いに離れた中和器とイオン源の粒子が組み合わさって、推進力を生み出す図)

N:実は國中さんたちは、こんなこともあろうかと、隣どうしのエンジンを連動して動かす部品を万一に備えて取り付けていました。それがこの部品。長さ5センチ、重さわずか1グラムです。

(異なるエンジンをつなぐダイオードの実物)

N:はやぶさは打ち上げロケットが小さく、機体の重量は500キロまでに制限されていました。

(組み立て中のはやぶさ

N:トラブルに対処する予備の装備を十分積めない中、軽い部品を使って、いざという時に備えようとしていたのです。

イオンエンジンの実験装置をのぞき込む國中教授)

國中「500キロの非常に小型の探査機なものですから、新しいコンポーネントを追加したりですね、コマンドや電力を追加したりすることはご法度で、とてもできるようなキャパシティがないんですね。決められたそこまでの設計をバイオレートしない、壊さない範囲で工夫をしていかないといけない」

N:しかしこの方法にはリスクがありました。地上での試験を一度も行っていなかったのです。ひとつ間違えば、探査機全体が壊れてしまう恐れもありました。

(会議室で運用チームが会議中の様子)

川口「最後の最後はこれをやるんだねと、だけど動くかどうかわからないしなと。地上試験もしてないし、これに今切り換えても勝算はないねえと。心の中では8割方もうダメだと。残るわずかな確率にかけてみようということで」

N:半月後、大きな賭けに出ます。結果は成功。壊れていたエンジンが再び動き始めました。

イオンエンジンが正常に噴き、彼方へ飛び去っていくはやぶさ

N:そして今月。はやぶさは最終段階の軌道調整に成功しました。これで75時間後、地球に帰還することが確実となりました。相次ぐトラブルに対し、決してあきらめず、さまざまな工夫をこらして乗り越えた技術者たちのもとに、間もなくはやぶさは帰ってきます。

(管制室のTCM-3完了時と思われる様子。画面を見ていた担当者が大きくマルを作り「はい完了です」の声に拍手。川口教授らが周囲の人々と握手。)

はやぶさプロジェクトリーダー/川口淳一郎さん(記者会見にて)「ミッションというか使命を全うできたということで非常にほっとしている。はやぶさ自身に助けられたと思っています。たいへん忠実にいろんなこと、指令に従ってくれるということ以上の反応を示しているんだと私は思っていました。我々が乗り越えられたというよりは、はやぶさが協力してくれたというような印象がありますね」

(スタジオへ)

森本:いやあ、あの小さな装置を事前に組み込んでいたというのは驚きましたが、技術者たちのファインプレーというのはどうして起きたんでしょうか。

的川:そうですねえー、世界初のことに挑戦するので、いろんなことをよく知っていなきゃいけないということはありますけれどもそれに加えて、日本の場合は予算が少ない(笑い)中でやっている。それで探査機も小さい。そうすると、プロジェクトをやっている中心部分の人たちが非常にすみずみまでいろんなことを知っているわけですね。システムの。するとなにかが起きたときに、そうだ、あれとあれを組み合わせてこうすればいいんじゃないかというふうに、全体が見えているということがあると思いますね。予算が存分にあって、たとえばこれ作ってくださいと誰かに頼む場合だと、おそらくシステムの細かいところまでわからないですから、しっかりとシステムの細かいところまで知り尽くしているということがこれにつながったし、予算が少ないからよかったというとちょっと語弊がありますけれども(笑い)

森本:それはね(笑い)

的川:苦労して、やっぱりシステム全体を理解しているということ。これはプロジェクトマネージングのたいへん大事な点だと思っていますけれどもね。

森本:さて、ここでですね、はやぶさのカプセルが落下してくる予定のオーストラリアにいる、春野記者と中継がつながっています。春野さん、いまそちらはどんな状況でしょうか。

春野和彦/科学文化部:はい。わたしははやぶさのカプセルが落下する、ウーメラ砂漠から車で10分ほどの位置にあるプレスセンターにいます。はやぶさはその最後の軌道修正に成功し、日本時間の13日、午後11時前にウーメラ砂漠の中の、東西100キロの楕円形の区域に落下することが決まりました。

(ウーメラ砂漠の昼間の様子。荒れ地が広がり、カンガルー注意の標識が立っている)

春野:日本からは40人規模のカプセル回収隊が現地入りし、今日もリハーサルを行うなど入念に準備を進めています。

森本:春野さん、カプセルには本当に小惑星の石が入っているんでしょうか。

(「JAXA PRESS CENTER」の貼り紙が建物の入り口に貼られている)

春野:イトカワに着陸した際、石を回収するための装置がうまく作動しなかったため、カプセルを回収し、中身を分析してみないと、はっきりとしたことはいえません。カプセルを回収すると、厳重に密閉された箱に入れて日本に持ち帰られることになっています。カプセルに岩や砂が入っていたとしてもごく微量とみられていて、研究チームは、結果が判明するまでには数か月程度はかかると話しています。

森本:はい。的川さん、はやぶさはカプセルを地球に落としたあと、実は自分自身は燃え尽きてしまうということなんですけれども。

的川:そうなんですね。

森本:ちょっと悲しい気持ちもするんじゃないですか。

的川:そうですね。まあチームのみんなが、苦労した人たちはそう思っていると思いますね。さみしい思いをしていると思います。一般の人たちからも、この間届いた手紙ですね、5歳になるあすかちゃんですけれども、「あすかははやぶさ君が大好きです。でも、はやぶさ君がもうじき消えてなくなるという話を聞きました。でも、あすかははやぶさ君が大好きなので、一生はやぶさ君のことを思い続けます」と書いてあってですね、すぐそばにお父さんのただし書きで「うちの子は今、涙をぽろぽろ流しながら手紙を書いております」と書いてありました。こんな手紙に、チームはずっと励まし続けられてきたんですね。

森本:はやぶさのプロジェクトが我々に教えてくれたことっていうのは、いったいなんなんでしょうね。

的川:そうですね、先ほどもあったように、やっぱりチームリーダーがしっかりと目標を定めて意志を強く持っていて、周りの人たちがそれを支えることで、人を育てチームを育て、それからはやぶさの場合特徴的なのは、イオンエンジンという、世界で初めて惑星間飛行に本格的に使ったエンジンですね、このあとたいへん小型で高性能だということで、アメリカの企業が目をつけてですね、アメリカの企業と担当した日本の企業とが一緒になって、これから世界に売り込んでいこうと、そういうふうな産業化、商業化ということに役立つ最終段階を迎えているんですね。だいたい、宇宙というのはたいへん保守的な技術だと思われているんです。成功しなければいろいろ批判されるので、できるだけ使い古したもの、安定したものを使おうということがあるんですけれども。

森本:ほう。

的川:でも、これに取り組んだ企業の方は、やはり先端的なものを取り組むことによって、世界にそれを売り込めるような要素があるんだということでですね、先端産業、先端技術に取り組もうというムードが非常に高まっていて、やはり高い技術に取り組むことによって我々がもっともっと力をつけていく、国民に対する訴えとしてもたいへんいいんじゃないかなと思っていますね。

森本:チャレンジする姿を教えてくれたはやぶさということですね。はやぶさは3日後に戻ってきます。石は入っているんでしょうか。今夜のクローズアップ現代、これで失礼します。

(以上)

参考

今後のはやぶさ動向はこちらで

イオンエンジンの運用についての論文。「こんなこともあろうかと」が出てくる。

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