テレビ的でないが面白い演出のドキュメンタリー「農民工」

夕べのNHKハイビジョンで、「農民工」というドキュメンタリー番組が放送されていた。実は1時間半の番組のうち、1時間を過ぎたあたりで寝てしまい、最後まで見ることはできなかったのだけれど、独特の演出で引きつけられたのだった。

この番組で出てくる音は基本的に、現地で収録されたものだけである。ナレーションや吹き替え音声はまったくなく、すべて字幕で説明される。音楽もほぼ使われていない(最後まで見た人によると、ラスト近くで1曲だけ流れた由)。そのぶん、背景音がよく聞こえるようになる。

この演出、テレビ的にはとても人を選ぶと思う。

特に、ほかのことをしながらテレビを見る「ながら視聴」の人にとても厳しい。聞こえる音は中国語の声を含め、現地の風景音のみである。画面を注視していないと、番組の内容がわからない。声が出ていない間も目を離せない。字幕で説明が出ているかもしれないからだ。気が抜けない演出である。

こういう演出のドキュメンタリーは、映画館で上映するのに向いているように思う。見る人は上映時間のすべてを、このドキュメンタリーを見ることに集中する。テレビでそういう見方を求めるのは、けっこうな冒険だろう。

でも「農民工」という番組はその演出手法によって、登場する人々の心情をより実感をもって伝えているように感じた。

番組の内容は以下の通り。

ハイビジョン特集 遠い絆 〜中国・農民工たちの冬〜
BShi 5月20日(火)午後8:00〜9:30

オリンピックを成功させ、世界の一流国を目指す中国。中国発展の土台となった「世界の工場」の生産力を支えているのは、貧しい農村から出稼ぎにくる農民工たちである。当局発表では、その数2億人を越えたとされている。戸籍を分けられているために、都市住人とは区別され、住居も生活保障もない不安定な労働を強いられ、ひたすら郷里に仕送りをする。子どもと老いた両親が農村に残り、「留守家族」となる。

不安定な雇用、病気への不安、そして、郷里に残してきた子ども……。農民工の家族は、多くの苦労を抱えて生きている。その生活とはどんなものなのか。どんな思いを胸に日々を送っているのか。

巨大開発計画が次々と持ち上がり、東北や西部からの出稼ぎ農民を抱える天津市には、民工村と呼ばれる出稼ぎ農民だけが住む一角がある。内モンゴル自治区の農村から来ている農民工たちもここに固まって住んでいる。いつ追い出されるか分からない安アパートに住み、日雇い仕事を探し、病気になっても医者にかかれないという不安定な生活。故郷に帰って子どもに再会するのは、年に一度、旧正月の時だけである。

カメラは民工村の二家族を追う。10代から農民工人生を送り、故郷に病気の息子を抱える張健平夫妻、そして娘の学費を稼ごうと激しい港湾労働を続けるもアパート代にも事欠く杜文海親子……。張健平や杜文海は、民工出身のボランティア医師や手配師の親方、安アパートの女主人といった民工村の人々の間をもまれながら、綱渡りのように日々をやりくりしていく。

そして迎えた年に一度の旧正月、家族の再会の日。一家をさらなる悲劇が待ち受ける……。

番組は、天津民工村での日々から故郷への帰郷を丹念に追い、愛する家族のために農民工たちが繰り広げる小さなドラマを、巨大都市の喧噪と故郷の大自然をバックに描いていく。

NHK BSオンライン

農民工たちの暮らしは、まさに赤貧を洗うがごとし。賃金が安い仕事しかできず、それすら遅配や未払いにされたりする。収入が少ないぶん、やむなく生活費にちょっと上乗せするだけでも家計に大きく響く。「これじゃ仕送りするどころじゃない」といっても、内モンゴルの実家では仕事そのものがないから収入を得られない。

これはワーキングプアの典型である。仕事に追われ(または仕事が見つからず)、生活するのがやっと。別の仕事を見つける余裕もない。あるいはどうしても仕事が見つからない。

画面からは、中国のめざましい経済発展に乗れなかった人々の苦しい生活が、えんえんと流れてくる。つらい映像でも目を離せないのは、その内容もさることながら、ナレーションも吹き替えも音楽も入れない音声演出もひと役かっているように感じた。聞こえてくる音に余分な要素が入っていないために、臨場感が高まるのかもしれない。

すぐには再放送はないかもしれないが、ぜひもう一度見てみたい。終盤をきちんと見たいし、演出の効果を演出に負けずに研究したい。

追記:5月29日の午後に再放送あります

NHK 番組表 - ハイビジョン特集「遠い絆(きずな)〜中国・農民工たちの冬〜」
http://www3.nhk.or.jp/hensei/program/p/20080529/001/10-1410.html

追記:後日また紹介したときの記事