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マスコミが自分に都合のよいストーリーを作れない時代

【元記事:マスコミが自分に都合のよいストーリーを作れない時代:d:id:manpukuya:20070129:tv

(初出時タイトル:「マスコミの『情報強者』状態が本格的に崩れていっている)

「あるある」の次は「プロジェクトX」?

今日のニュースでは、研究者の先生が「『あるある』には、自分が言ってないことを言ったことにされていて困っていた」のような話をしていた。

でも今まで、その声が拾われることはなかったわけか、と思った。

そこで思い出したのが「プロジェクトX」。ハレー彗星の探査機の回では、いろいろ事実と異なる採り上げ方がされたという話を以前、宇宙開発関係の方から伺ったことがある。「NHKに抗議したらこう言われましたよ。『これ(プロジェクトX)はエンターテインメントで、ドキュメンタリーではありませんから』」。えー!

いや「プロジェクトX」のお決まりの展開には、多くの視聴者が「都合よすぎ」と思ってはいただろう。けれど、NHKが自ら「話をうまいこと作ってます」ととれる発言をしてしまったとしたら、これはいくらなんでもまずいでしょ。

今回の番組捏造問題で、過去のそういうケースがたくさん発掘されるといいと思う。「期待はしていなかったけれど、よもやここまでとは」みたいな話になるんじゃないだろうか。

新聞の「識者コメント」もちゃんとやらないと

新聞社から電話がかかってきて、あるトピックについてコメントを求められたので答えた。できあがった記事を見たら、真意とは異なる書き方がされていた。

そんな話をよく聞く。でもこれも、個別のケースがときどき聞こえてくるだけで、「識者コメント」が本当にその人の意見を伝えているかというような、しくみ自体について考え直す話にはなかなかならなかったと思う。

夏目房之介のブログでも、同じようなことがあった。

でも、事前に記事をチェックさせてもらえない現状では、コメント取材を受けた時点で、こうした齟齬は必然的に生じます。オウム真理教が報道内容を事前にチェックしていたことが問題になって以来、新聞では原則事前に自分の発言でもチェックできないんですが、これもおかしな話です。

サンケイの知財取材 - 夏目房之介の「で?」 [ITmedia オルタナティブ・ブログ]

いつもと違うのは、取材をした記者の側がこの記事にコメントを寄せているという点だ。これはなかなか面白い。

また今回の一件をマスコミの側から考えると、ちゃんと仕事をしないといけない時代になったということでもある。いや、それ自体はいいことです。でもそのことが、マスコミ側のネットに対する本能的な反感にもつながりそうだとも思う。

近藤さんの出した針がこちらに向くとき

さらに思い出したのでもうちょっと。

はてなの近藤さんは、「それはなぜそうなってるの?」という疑問をよく発する人だ。ちゃんと考えるとおかしな話で、でも普段なかなか気づかないやり方を見て、そのおかしさにすぐ気がつく人なのだ。

そしてその疑問がこちらに向けられたとき、あの笑顔がとても恐ろしく見えるようになる。

つまり近藤さんが以前、「インタビュー音声を公開したい」と考えたのだった。インタビューをされても、記事に使われるのはごく一部なのはもったいない、と考えたから。

インタビューの内容を録音して、ポッドキャストで公開できないかなあ、なんて思いました。

編集前の元音声を公開すると出版社が困る、という風に心配されそうですが、僕はそのせいで本が売れなくなるなんてことは無いと思っています。売上が上がることはあっても落ちることは無いと思っているのは僕だけでは無いのではないでしょうか。

jkondoの日記 - インタビューをポッドキャスト

この記事を見た自分は、ブックマークページでこうコメントした。

「恐ろしいことをおっしゃる…」

これが、実際にインタビューをする側の反射的な考え方だと思う。

インタビューをするとき、たとえばこちらが見当違いの質問をして、相手の考えをうまく引き出せなかったとする。今までなら質問をし直して記事上でうまく編集すれば、自分の失敗は読者には露見しない。

でも近藤さんに「インタビュー音声を公開したい」と言われたら、ちゃんと断るのは難しい。

でもあの失敗を聞かれるのは恥ずかしいからできれば勘弁してほしい。

でも断るのは自分が無能であると言うのと変わらない。それはそれでいやだ。

近藤さんは、そういう痛いところを突くのが得意なのだ。

その針が、自分ではない誰かをつついている様子を見るのは面白い。「おお、よく考えたら学校全体で制服を統一すべき合理的な理由はないかも」とか。

でも、いったんその針が自分に向けられるとこれは怖い。ちゃんと仕事をしていないと、その隙を近藤さんの針が正確に狙ってくるのだった。

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