(旧タイトル:「年の初めの初スペランカー」)
1/2追記:文章の構成をちょっと変えました
何度も書いているように、自分はファミコンをリアルタイムで経験していない。で今日、ファミコンの「スペランカー」を初めてプレイする機会があった。なにを今さらかもしれませんが、これすばらしいゲームですね。アクションゲームの文法に対するアンチテーゼ。見た目は一般的なアクションゲームによく似ているのに、先に進むコツや死ぬタイミングがあまりに独特である。狙ってこういう作りにしたのだとしたら、作った人はむしろ、アクションゲームの本質を深く理解していると思う。だからこそ、クソゲー・バカゲー呼ばわりされると同時に、多くの人に愛されているゲームでもあるのだ。
ご存じの方には今さらなことだけれど、「スペランカー」は探検家の主人公を操作して洞窟を進んでいく、サイドビュー型のアクションゲームである。この主人公、ゲーム史上最も弱いキャラクターとして知られている。なにしろ、自分の身長より高いところから落ちる程度でも死んでしまう。しかもこの時、落ちたら死ぬ高さから落ち始めたらもう空中で死んでしまうのだ。普通は地面まで落ちてから、あいたたたと死ぬ演出になるはずでしょう。
横にジャンプして、はしごなどにつかまることがある。このとき、横にジャンプするためにはレバーを横に入れるのだが、はしごにつかまった後も横に入れっぱなしにしていると、そのままはしごからはみ出して落ちてしまう。はしごにつかまったら、レバーをすぐ中立位置に戻さないといけない。そんな面倒な。
アクションゲームで死ぬ原因は、多くが敵との接触や交戦である。しかし「スペランカー」では、敵といえるキャラクターに遭遇する機会が非常に少ない。その代わり、上記のような「ちょっと高いところからの落下」「はしごやロープなどからの落下」といった、移動中のささいな操作ミスで死ぬ。普通のアクションゲームでは平気なはずの、普通に移動中の動作で死んでしまう。フィールド内の移動が、そのまま死に直結しているのである。うまい人のプレイを見せてもらったが、そういう人はいかにもな難所はうまくくぐり抜ける代わりに、なんでもないところでの不慮の事故で死ぬことが多かった。
スクロール型のアクションゲームでは、周囲に敵がいない状態での移動中は比較的安全である。敵の接近によって死の可能性が上がり、同時にそれが報酬を得る機会にもなる。プレイ中の比較的長い時間が安全であり、ときどき危険がやってくる、という流れである。
一方「スペランカー」は、ゲームにおけるリスクとリターンのやり取りが敵の接近では発生しない。死の危険は、移動中に常に発生している。つまり「スペランカー」は、周囲に敵がいなくても安全とはいえない。ただ移動するだけで死の可能性が上がり、同時に報酬を得る機会にもなっている。
プレイ時間のほとんどが危険なので、うまくジャンプできた、うまく飛び移れた、といった一挙手一投足がプレイヤーにとって報酬になる。常に緊張感があり、同時にカタルシスがあることになる。普通のアクションゲームのセオリーを完全に裏返しにして、しかもゲームとして成立させている。まったくすごいゲームである。
余談:スペランカーにおける逆転の発想
上では、「スペランカー」の独特なゲームデザインについて説明した。ほかにも、ゲームの常識をひっくり返す作りがあちこちに仕込まれている。
たとえばファミコンのゲームでは一般的に、「スタート」ボタンを押すとゲームが一時停止する。ここは「スペランカー」も同様である。ひとつ違うのは、ゲームオーバーの際にスコアが表示されている状態で「スタート」ボタンを押しても、ゲームオーバーの画面が一時停止することだ。そんな演出、普通は必要ないでしょう。ゲームオーバーの音楽がひと区切りするまで操作は受け付けず、その後「スタート」ボタンを押すとタイトルに戻るとかにすればいいわけで。
そんな変な作りになっているところが、スペランカーの魅力なのだ。