- 作者:戸井 十月
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2005/07/28
- メディア: 単行本
本の内容は、少し前にNHKハイビジョンで放送された、インタビューを中心にしたドキュメンタリーとほぼ同じ。本と番組は同じ企画として作られたようで、インタビュアーがこの本の著者である。
小野田寛郎は、中野学校で訓練を受け、ルバング島で29年間にわたって作戦行動を取り続けた。その行動原理はきわめて聡明で柔軟、冷静にして合理的だ。
つかまったらこわいから隠れつづけた、というようなことではない。除隊の命令が来ないこと、朝鮮戦争やベトナム戦争でアメリカ軍が活発に動いていたこと、情報の行き違い、空からまかれたビラのささいだが見過ごせない誤植、いろいろな要素が重なってこうなった。
そして日本に戻ってわずか1年で、彼はブラジルへ行き農場を始める。「戦後」を脱した1974年の日本は、彼にとってとても居づらい場所になっていた。農場は軌道に乗り、今は日本とブラジルを往復している。今年82歳になるとのことだが、馬に乗る姿勢は背筋がぴんと伸びていて歳を感じさせない。
こんなに面白い人だとは知らなかった。
今年が戦後60年。戦後29年間ルバング島にいたということは、彼がルバング島で過ごした期間よりも長い時間が、すでに彼の帰還から流れたことになるのだなと思った。長いような短いような。