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『クロ號』の引っ越しと面白さ

【元記事:『クロ號』の引っ越しと面白さ:d:id:manpukuya:20030925:p3

[書影:クロ號]週刊モーニングで連載中のネコマンガ『クロ號』。先週木曜の発売号に「次回から『イブニング』へ引っ越します。ご愛読ありがとうございました」とあった。なんですと!!

イブニングよ、『ギャンブルレーサー』だけでは飽き足らず、『クロ號』までモーニングから奪っていってしまうのか。モーニングでいつも最初に読むマンガが『クロ號』だっただけに悲しい。

クロ號』の面白さは、主人公の猫「クロ」と、クロをとりまく世界とのコミュニケーションギャップにあると思う。

このマンガは、クロの完全な一人称で描かれている。物語は、コマの端に出るクロのモノローグで描かれる。一方、クロの周囲の状況は、クロの理解を上回る詳しさで描写される。つまり、クロをとりまく状況について、読者はクロ以上に正確に知ることができる。

たとえば、クロの飼い主である「ヒゲ」氏がアパートの部屋で、「隣に女性が引っ越してきたっていうけど、どんな人かな〜」とそわそわする場面がある。しかし人間の言葉を理解せず、事情を知らない猫のクロにとっては、ヒゲが「なぜか上機嫌で、隣を気にしてそわそわしている」ということしかわからず、モノローグでそのように語られるという描写方法だ。

このあと、くだんの女性の第一印象が期待ほどではなかったヒゲは「ちぇっ、残念」などとしゃべるのだが、この状況もクロには理解できない。その結果、「急にいつものタイドに戻った」とモノローグで語られるのである。

このディスコミュニケーションぶりは、ほかの猫との関係でも徹底している。

クロはしばしば、ほかの猫と交流する。エサの場所を教える代わりになにかを頼む、といった複雑な意思疎通も行う。しかしこれらはすべて、クロの一人称で語られる。そのため、クロの意志が本当に相手の猫へ伝わっているかどうかはわからない。

たとえば、「オイラは、オレンジ(という猫)をエサで釣ることにした」というクロのモノローグが入る。クロは、フキダシの中に入るセリフとしては「ゴチソウ イッパイ」というような稚拙な語彙しか持っていない。時には、ボディランゲージも使って相手に意志を伝えようとする。そして、クロ以外の猫のセリフは「ウニャニャ」といった猫語ばかりである。それでもクロは、相手の猫語や態度から「オレンジは、二つ返事で引き受けた」と、相手の反応をこれまたモノローグで自分なりに理解する。

このディスコミュニケーションの具合が、時としてシビアな現実を突きつける内容にうまくマッチしていて、独特の雰囲気を出している。

長々と説明してきたが、「クロの一人称視点」という面白い手法が一体どういうものかは、一度実際にマンガを見てみればすぐにわかると思う。でも、もうモーニングには載らないけどね。ううっ。

コメント

  • id:Crichtoso『「クロ號」移転ですか?私も楽しみにしてたのに…。ちなみに公園の野良猫にテキトーをクロとかハイイロ、トラキチ、チビコ、マサルさんなどと名前付けて呼んでます。さすがにチン子は使ってませんが(笑い』
  • id:manpukuya『作者の杉作が飼っている猫は、マンガと同じ「クロ」「チン子」のほか、「ポコ」もいるとか。まったく油断できません。』