偶然日記

同僚のA氏に渡すものがある。少し大きいものなので、会社に持ってくるのは難しい。A氏はたまたま、実家から車で5分ほどの場所に住んでいる。実家に行く用事もある。実家の近くで待ち合わせることにした。

退社後にお互い車で、実家の近くのコンビニで落ち合った。荷物を受け渡して少しおしゃべりをしていると、背後で異音がした。振り向くと、50がらみで会社員風の男性が転んだところだった。抱き起こしてみると、鼻や額の傷から血が流れている。背広にコート姿。タバコと小銭、眼鏡が落ちている。男性は酔っていた。コンビニの前でタクシーから降り、自販機でタバコを買って振り返ったところで足がもつれて転んでしまったようだった。眼鏡で引っかいたらしき傷から、血がどんどん流れてきている。

一部始終を見ていたタクシーの運転手が降りてきた。「救急車を呼びましょうか」「呼んだほうがいいですよねこれは」という話になると、男性は自分の顔の血をしきりに拭きながら「大丈夫大丈夫」と「酔っぱらいの大丈夫」を繰り返す。自宅の場所を聞けば、「ここからもうすぐだから」と言うわりに、出てきた地名はここから歩くと15分くらいあるといった調子。A氏は救急車を呼んでもらおうと、コンビニの店内へ向かった。救急車を待つ間、何とか自宅の電話番号と名前を聞き出すと、A氏が「おや」という表情になった。男性の自宅へ電話し、ご主人がけがをされた、少々血が出ているが大怪我ではない、救急車を呼んだ、という話をする。電話に出た奥様らしき方が「やっぱり呑んでいるんでしょうか」というような言い方をしたのがちょっと笑ってしまった。

救急車でやって来た救急隊員に男性をまかせて待つ間に、A氏が衝撃の告白をした。「けがをした人、うちのお向かいに住んでる人ですよ」。

この現場はA氏宅からそう遠くないとはいえ、車で5分ほどはある。家から離れたところのコンビニに、たまたまお向かいさんどうしが同じ時間に居合わせただけでなく、たまたま一方が転んでそのことが露見したということだ。A氏とお向かいさんが、なにか不思議な力で引き寄せ合ったのではないかという気がした。

結局男性の傷は病院へ搬送するほどではなかったようで、顔にガーゼをたくさん貼られて救急車から降りてきた。「では私は帰ります」というタクシーの運転手に、まだ酔っている男性が「じゃあうちまで乗せていってよ」ともちかけ、これにて一件は落着したのだった。

気づいたこと
  1. けがをした人のご家族に状況を伝える時に、心配をかけさせない言い回しがあるはずだと思った。救急隊員や警察がそういう言い方に詳しいのではないか。
  2. タクシーの運転手は「念のため」と言って、A氏と連絡先を交換していた。「私がけがをさせてしまったと誤解される可能性がゼロではない」とのことだった。