初めて読んだ宮部みゆきの作品は新聞連載での『理由』だから、彼女の作品を読み始めてからそうたっていないことになる。
『理由』は、殺人事件が起きた理由を広く深く探っていく小説である。殺人事件に至った理由は。理由の理由は。またその理由は。主人公はおらず、たくさんの人間関係がゆっくりとじっくりと、ときには登場人物へのインタビューという破天荒な形式をとりながら明らかにされていく。力作である。
次に読んだのが『龍は眠る』と『火車』(いずれも新潮文庫)。これも良かった。『龍は眠る』は、宮部みゆきが得意な「超能力者の悲哀」を扱っている。一方の『火車』はカード破産の話で、人探しをするうち、一度も登場していない人物の人となりが浮き上がってくる様子が読ませる。さらに、短編集『地下街の雨』(集英社文庫)、ライトなライトなコメディ『ステップファザー・ステップ』(講談社文庫)、時代物でも超能力な『かまいたち』(新潮文庫)と読んだところで、宮部みゆきは直木賞を取ってしまった。ではまたなにか宮部みゆきの本を読もうと思えば、ちょうど本屋には『クロスファイア』(光文社ノベルズ)が並んでいる。これは『鳩笛草』に収められた一編の続編であるということで、超能力哀歌の『鳩笛草』(光文社ノベルズ)を読む。続編をすぐに読むと印象がだぶってしまいそうで、ごく最近出た『蒲生邸事件』(光文社ノベルズ)へ。現代から2・26事件のまっただ中へタイムスリップした少年の話。ラストがさわやか。で『クロスファイア』へとなだれこんだのだった。
1冊1冊はどれも面白く、こんなふうにさくさく紹介してしまうのがもったいないくらいなのだが、残念ながら『クロスファイア』だけはやや別格だった。1杯ぶんの濃縮ジュースを無理に2杯にうすめたような印象。ラストはさすが宮部みゆきの力量で、むりやりさわやかな気分にさせられてしまうが、消化不良なものごとがいくつもあり、さわやかな気分と治まりきらない気分がないまぜになって奇妙な読後感である。ここまで宮部みゆきは全部水準以上の面白さだったので、あれっと意外なところだった。
宮部みゆきは、形容表現に独特の技を持っている。『理由』で、弟に痛いところを突かれた姉がしゅんとなってしまう様子を「空気が抜けた風船のように、ぺしょんとなってしまった」(本は手元にないので、細部は違うかも)なんて表現してしまうのだ。突拍子もないものを引き合いに出しているようで、その場の様子を実に的確に描出している。こういうのが好きなのだ。
99/02/17 (Wed.)
【元記事:ただ日記−99/02/17 (Wed.)】