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9月30日には東京都の新規感染確認者数はかなり減りそう

これまでの記事

案の定、9月12日に緊急事態宣言を解除することはできなかった。9月8日には、30日まで宣言を延長するという話になった。

前回の記事を書いた8月22日時点のグラフはこんな感じ。

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8月22日は、新規感染確認者数の7日間平均の前週比は1倍より少し大きかった。これが1倍を切れば新規感染確認者数は減少傾向にあるといえる。

その後、9月12日にはこうなった。

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7日間平均の前週比は8月25日に1倍を切った。そのあともどんどん下がっていき、9月12日には0.54倍まで来ている。この水準まで下がったのは2020年5月、1回目の緊急事態宣言の終盤以来である。都が発表する陽性率も最大約25パーセントから10パーセント程度まで下がった。どうやら第5波は乗り切ったようだ。

ここまで下がると毎日の新規感染確認者数はぐんぐん減っていく。とてもいい傾向だ。とはいえ12日の新規感染確認者数の7日間平均は1,384人で、緊急事態宣言を解除するにはまだ多かった。今回の第5波は1日の新規感染確認者が5,000人以上と今までになく上がってしまったため、減るのにも時間がかかっている。

6月16日に新規感染確認者数の7日間平均が上がり始めてから9月12日まで、感染者数の累計は約20万人である(166,915人→366,553人)。1日の新規感染確認者がこれまでで一番増えた第3波の始まりを去年の10月26日、終わりを今年3月8日とすると、この期間の感染者数の累計は約83,000人だった(30,013人→113,571人)。第5波の3か月間の感染者は、第3波の4か月半の2.4倍にもなった計算となる。

9月30日までに、新規感染確認者数の7日間平均はどのくらい減るだろうか。下のようなグラフができた。

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これは右の軸の一番上が6,000人と高いので、最近の数字に合わせて一番上を1,500人にしてみると下のようになる。

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この中の赤い線、7日間平均の前週比が9月12日の0.53倍を維持したまま減っていくとどうなるか。下のような計算になった。

  • 9月17日に新規感染確認者数の7日間平均が1,000人を下回る
  • 9月24日に新規感染確認者数の7日間平均が500人を下回る
  • 9月30日に新規感染確認者数の7日間平均は277人になる

7日間平均の前週比が今後さらに下がっていけばこれらはもっと早まるし、30日の予想人数も小さくなる。そしてそれはあり得ない話でもなさそうだ。

ところで、そもそもなぜ第5波ではここまで数字が上がり、そして急激に下がっていったのだろうか。すべては緊急事態宣言下で起きたことなので、もはや宣言そのものに感染者を増やしたり減らしたりする効果はないように思える。

今までと異なり、1日の新規感染確認者数が5,000人になるまで増え続けた理由はなんだろうか。やっぱりオリンピックがかもし出すゆるみの雰囲気があったからか。政府がどれだけ自粛を要請しても、オリンピック開催が「私は好きにした、君らも好きにしろ」というメッセージになっていたことはまず間違いがないだろう。それに開会式のために祝日を移動した結果の4連休や閉会式の3連休も外出を後押ししただろうから、これも間接的にオリンピックが原因といえる。本当は自粛なんてしたくない人たちに「オリンピックもやっているのだから」と口実を与えてしまったのではないだろうか。

一方急激に減った理由についてはこちらの記事で考察されている。

この記事で減少の原因としてありそうなのは、「リスク認識による自粛と緊急事態宣言での接触減」および「ワクチンの普及」とされている。

つまり感染者が増えるとびっくりして感染対策を思い出すのと、ワクチン接種が進んできたからというもの。リスク認識の話は個人的な感覚でも思い当たるものがある。お店の入口で手にアルコールをシュッとやる人が7月ごろは減っていたが、8月以降はまた増えてきたと感じる。こういう細かいことの積み重ねとワクチン接種によって、感染者が減ってきたという話は納得がいく。

一方デルタ株は子供に感染しやすいから、9月の新学期でまた増えるのではないかという意見もあった。しかし今のところ減少傾向は続いている。新学期での増加分は減少傾向をひっくり返すほどではなかったようだ。

ワクチンの効果は、亡くなる人の数が減っていることでもわかる。先ほど第5波の感染者数は第3波よりずっと多いと書いた。一方で同じ期間の死亡者数を見ると、第3波が1,032人(447人→1,479人)だったのに対し、第5波は495人だった(2,171人→2,666人)。これは高齢者から順にワクチン接種が進んだ結果ではないだろうか。

この調子で9月30日に緊急事態宣言は解除されるだろうか。少なくとも新規感染確認者数は100人とまではいかなくてもだいぶ少なくなりそうだ。でも今回は「減ったから解除しまーす」と単純なことにはならない。新型コロナウイルス感染症対策分科会は9月8日、緊急事態宣言の解除を新規感染確認者数ではなく医療負荷から判断するよう変更するとした。

医療負荷については以下の指標を確認する。

  • 病床使用率:50%未満
  • 重症病床使用率:50%未満
  • 入院率:改善傾向にあること
  • 重症者数:継続して減少傾向にあること
  • 中等症者数:継続して減少傾向にあること
  • 自宅療養者数及び療養等調整中の数の合計値:大都市圏では60人/10万人程度に向かって確実に減少していること

また、救急搬送困難事案が、大都市圏で減少傾向にあることも確認する。

新規陽性者数については、「2週間ほど継続して安定的に下降傾向にあること」を前提とする。

緊急事態宣言の解除基準は「医療負荷」重視に - Impress Watch

(上の指針は「新型インフルエンザ等対策推進会議|内閣官房ホームページ」の「第16回資料(PDF/15.98MB)」内、185ページにある)

ワクチンの接種率が上がると感染確認者数は減っていく。でもそこが減ったからといって医療提供体制が厳しいまま緊急事態宣言を解除するわけにもいかない。病床の使用率から判断するよう変更するのは妥当に思える。

ワクチンの接種は毎日進んでいる。「新型コロナワクチンの接種状況(一般接種(高齢者含む)) | 政府CIOポータル」によると9月12日現在で2回接種した人は44.64パーセントだそうだ。そろそろ半数がワクチン接種済みということになる。

追記
今日「ワクチン2回接種 人口の50%超に 接種開始から7か月 政府公表 | 新型コロナ ワクチン(日本国内) | NHKニュース」という記事が出ました

ただしワクチンの接種率が上がっても、それだけではデルタ株を克服できないらしいという話は前回も書いた。これがいよいよはっきりしてきたようだ。

デルタ株の感染力が思った以上に強いことと、ワクチンの効果が案外早く落ちてくるとわかってきた。もちろん、だからワクチンを打っても意味がないということはない。ワクチンでつく抗体はとても強いから、それが半分や1/4になってもワクチン未接種よりはずっといい。

感染後の後遺症について、ちょうど忽那医師が記事を書いた。

生活への影響が大きい後遺症としては、息苦しさや倦怠感、意識障害(ブレインフォグ)、味覚障害、そして脱毛などがある。いわゆる慢性疲労症候群になったという報告もある。注射が怖いとか副反応がいやだという人もいるようだが、そんなことを言っている場合ではない。注射は一瞬、副反応は長くても数日だけだ。一方後遺症はいつまで続くかわからない。ワクチンを打たない選択肢はないと考えてほしいものだ。

それにしても、新型コロナウイルスが出てきてどうなるかと思ったらmRNAワクチンが爆速で開発された、しかし今度はデルタ株が出てきた、という具合でなかなか抑え込むことができない。人間と新型コロナウイルスのせめぎ合いはまだ続くようだ。

私は、そういった流行対策を続けていけば、数年から(長くて)5年くらいの時間をかけて次第に未来が切り開かれていくものと見込んでいる。どこかで頓挫して流行が大きくなるリスクもあるかもしれない。どこかで新しい展開が生じるかもしれない。それでも、大枠は変わらないものと考えている。

西浦博教授が考える「ワクチン接種が進む日本」でこれから先に見込まれる“展開”(西浦 博) | 現代ビジネス | 講談社

長くて5年か。でもわかったことははっきり言ってくれたほうがいい。

あとそうそう、これは書いておかないと。田村厚生労働大臣は10日、この調子なら9月30日に緊急事態宣言を解除できそうと話したそうだ。

「感染者数は減少傾向に入っているので、順調に減っていけば、多くの地域で解除できる水準まで下がってくることが見えてきている」だそうだ。これ自体は悪い話ではない。当然そうだろうと思っていたが、やっぱり上で出したグラフのようなのを作って傾向を見ているんだなと確証を得られた。

ここで以前の記事から引用しよう。

ところで、こういう試算は東京都や政府も行っているはずである。5月11日に緊急事態宣言を解除するのはまず無理と最初からわかっているだろう。ではなぜ期限を5月11日までとしたのか。

東京都の緊急事態宣言は5月11日には解除できないでしょう - ただいま村

ここまでの計算を見ると達成は難しいのではないかなーと思うと同時に、上のような計算を政府がしていないわけがないと思う。でも月末を期限にしてしまうし、その日に解除したいと言ってしまう。

東京都の緊急事態宣言は5月31日の解除も難しそう【追記あり】 - ただいま村

で、毎回書いているが政府もこういう計算をしていないはずがない。でも最初から無理とわかっている6月20日を期限にしてしまう。これは一体なんなんでしょうね。

東京都の緊急事態宣言を6月20日に解除するのはやっぱり難しいのでは - ただいま村

毎回書いているが、上のようなグラフを政府関係者が作っていないわけがない。これを見れば緊急事態宣言を解除できるタイミングではないのは明らかだ。にもかかわらず知らんぷりして解除してしまう。

東京都の新規感染確認者数を7月11日までに100人程度に減らすのはまず無理 - ただいま村

毎回書いているが今回も、政府が設定した期限までに新規感染確認者数が十分減ることはなさそうだ。そしてこれも毎回書いているが政府がこういうグラフを作っていないわけがない。でも8月22日を期限にしてしまうんだな。

東京都の緊急事態宣言を8月22日に解除するにはどうしたらいいだろうか - ただいま村

今まで緊急事態宣言の期限と設定された日付に納得がいったことはない。感染者数の傾向を見ていれば、期限とされた日が解除できるタイミングでないことはすぐにわかる。でもとりあえずその日にしてしまい、案の定解除できず延長する。テレビではお店の人が「また延長か、もうもたない」と話している。緊急事態宣言の期限は、ちゃんと解除できると見込んでいる日にしてほしい。

緊急事態宣言をいよいよ解除できそうになったら傾向の話をするが、まず解除できないとわかっているときは傾向の話などおくびにも出さず、恣意的な期限を設定してしまう。そういう姿勢が政府の信用をなくすんですよ。

関連リンク

毎日の新規感染確認者数をもとにしたグラフのツイート

画像だけを見るなら:id:Imamuraのはてなフォトライフにある「covid-19」フォルダ(CC-BYにしてありますのでルール内でどうぞご利用ください)

追記

続きを書きました。

アメリカの同時多発テロから20年

もう20年も経ってしまったのか。思えば遠くへ来たものだ。年を取ると本当に時の流れが早くなっていく。1秒の長さは変わらないはずなのに。

このブログにはいわゆる個人サイト時代の日記も転記してある。2001年9月11日はどんなことを書いただろうか。

2001年9月11日の記事
https://ima.hatenablog.jp/entry/20010911/newscheck

当時はニュースのリンクを紹介して短いコメントをつけるという、個人はてなブックマークのようなことをしていた。その前は普通のウェブ日記を書いていたが、転職で忙しくなり更新しやすい体裁にした。このページのオリジナルはプロバイダから提供されている掲示CGIを利用して、タイトルやURL、コメントをフォームに入力するとページが生成されるようにしていた。原始的なブログである。HTMLを手打ちしてFTPでアップロードする必要がなくて便利。そういう時代だった。

さて、この日は富士通の2足歩行ロボットと、ソニーPDACLIE」の新機種というニュースについて書いていた。ソニーのPEG-N750Cはたしか3代目じゃないかな。PDAという商品ジャンルはすっかり消えてしまった。

2001年9月11日の記事なのに同時多発テロとは関係がない。テロがあった時刻は日本では夜だった。その前に更新したのかもしれない。じゃあ次の日はどんなことを書いているかな。

2001年9月12日の記事
https://ima.hatenablog.jp/entry/20010912/newscheck

あっ、Rezの紹介記事だ。これを遊びたくてプレイステーション2を買ったんだった。これもつまり20年前か。なつかしい。でも同時多発テロとは関係がない。

2001年9月13日の記事
https://ima.hatenablog.jp/entry/20010913/newscheck

9月13日になるとようやく、同時多発テロ関連のニュースを紹介している。

残念ながらリンク先はNot Foundだった。「アメリカで発生した連続テロでニュースサイトへのトラフィックが激増し、サイトにほとんどつながらなくなったという話と、関連のリンクを多数紹介している記事」だそうだ。

2001年9月26日の記事
https://ima.hatenablog.jp/entry/20010926/newscheck

ちょっと飛んで9月26日になると、「WingDing」フォントに同時多発テロにからむ絵文字が仕込まれているのでは、という噂についてWIREDが書いていたのを紹介している。

こういうやつです
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でも同時多発テロの直後に書いた関連記事というとそのくらいだ。

日記とは別につけていたメモを読み返したらこんな記述があった。当時はNHKで23時くらいからドラマ「アリーmyラブ」が放送されていたのだが、9月10日は台風で放送されずテロップは「『アリーmyラブ』は11日の×時×分から放送します」。

9月11日は同時多発テロが起きてニュースに差し替えられ、テロップは「『アリーmyラブ』は12日の×時×分から放送します」。

9月12日になってもニュースは続いていて「『アリーmyラブ』は明日放送します」。

9月13日もたぶんニュースで「『アリーmyラブ』はお休みです」。

9月14日になると「『アリーmyラブ』は日を改めて放送します」。

アリーmyラブ」はたぶん、翌週の9月17日まで放送されなかったのではなかろうか。

同時多発テロアメリカは大変なことになったし世界の様相が一変したのは確かだが、日本に住んでいる個人の生活がそう急に変わるわけではない。事情がまだ判明しておらず、ことが大きすぎて書きようがなかったのだと思う。仕事に影響がないか気にはしつつ、普通に働いていた。仕事どころではなくなる体験というと10年後の東日本大震災だろう。

その後、同時多発テロ関連の記事として9月11日にこんなことを書いていた。

それから10年。同時多発テロから20年、東日本大震災から10年経ったら世界は新型コロナウイルスの脅威に立ち向かっていた。こんな未来が来るとはね。仕事している場合じゃないというほどではないが、外出は最低限だし感染者が増えていくとどこまで行くのかわからず不安になり、ものごとへの意欲がなくなりがちだ。

今はワクチンを2回打って2週間経っているので少し安心ではあるし、東京都の感染者数も減少傾向なので気分がやや上向いている。でもまたそのうち第6波が来るのだろう。次はワクチン効果で軽く済んでほしい。

2021年はそんな世の中だ。10年後にはどんなことが起きているだろうか。2031年にこれを読み返すときは平穏な社会になっていてほしい。

勝手な正誤表を6冊分追加

『三体』については下に書いた。おすすめです。

『三体』は尻上がりに面白くなっていった

(ネタバレ全開ではありませんが内容には触れています)

『三体Ⅲ しんえいせい』を読み終わった。最終巻はいろいろな方向へスケールが大きくなり、予想外の終わり方だった。とてもSF的で満足。

1巻が出たときは反響が大きくて、10年に一度の傑作が出てきたという雰囲気を感じた。

なので楽しみに読んでみたのだが……むむむ……これはちょっとむむむのむ。

面白くなかったわけではないのだが、そもそもあのような世界で知的生命体が誕生するだろうか。そこがどうしても引っかかる。地球の歴史を見る限り、十億年単位で安定した環境が続かない限り無理じゃなかろうか。そうでないと、もし運よく生命が誕生しても、知的生命体に進化して過酷な世界の処世術を身につける前に簡単に絶滅してしまうだろう。

物語は現代の謎の事件と、文革の時代から極秘のSETI計画の時代という過去の物語が語られる。特に過去の話は人間の感情が細かく描かれていて好ましい。そしてVR内のコンピュータや表紙の船が登場するシーン、謎の種明かしなどはダイナミックなアイデアで面白い。でももうちょっとこう、もうちょっとなにかがほしかった。期待が大きすぎたのだろうか。こちらの感受性が弱っていたのだろうか。

第1巻がそんな感じだったので、やや身構えながら第2部「黒暗森林」(上下巻)を読み始めた。

第2部は1巻で明らかになった状況をもとに異星文明との戦いが始まる。1巻で明かされた謎によって、人類が圧倒的に不利とわかる。敵の侵略にどう対抗するか? さまざまな方策が立てられる中、第2部では奇策ともいえる「面壁計画」が描かれる。人類と敵の違いをもとに、人類が有利かもしれない方法で対抗していく。「面壁計画」以外にもさまざまなアイデアがどんどん出てきて楽しい。でもそれぞれのアイデアはわりと単発で、それぞれが有機的にからんで大きなうねりを作り出す感じではないなあとも思った。上巻ラストのすさまじいピンポイント攻撃が、下巻になるとあっさり解決していたり。

とはいえ第2部は1巻より面白かった。「暗黒森林理論」は中国では一般的な考えとなり、それまでのファーストコンタクトものの常識がくつがえったそうだ。この調子で完結編はどうなるか? と読み始めたのだった。

第3部「死神永生」(上下巻)を読む前に第2部までの話を思い出したい人のために、早川書房が「これまでのあらすじ」を公開した。もちろんネタバレ全開、閲覧注意である。

  • 【第一部・二部ネタバレ注意!】これで発売前の予習は万全! 『三体』『三体Ⅱ 黒暗森林』これまでのあらすじ|Hayakawa Books & Magazines(β)(https://www.hayakawabooks.com/n/n1337352e1a34

第3部はさらにスケールアップし、人類のさらなる未来が描かれる。ちょっと面白いと思ったのが、大変なことが起きる→意外な解決→また大変なことが起きる→意外な解決、というくり返しがあること。これが『よかったねネッドくん』という絵本を思い出させた。

あるひ、ネッドくんに てがみが きた。「びっくりパーティーに いらっしゃい。」よかったね。

でも、たいへん! パーティーは とおい とおい フロリダで やるんだって……。

よかった! ともだちが ひこうき かしてくれて。

でも、たいへん! ひこうきが とちゅうで ばくはつ。

よかった! ひこうきに パラシュートが あって。

でも、たいへん!……

こんな調子で、ページをめくるたびに「でも、たいへん!」と「よかった!」がくり返される楽しい話である。「三体」の第3部はわりとこういう感じだった。そして意外で面白いアイデアが次々に出てきて、ダイナミックなことが起きるたびにスケールが上がっていった。すごい。特に終盤のスペクタクル描写は大したものだ。これこそSFだ。よかった。満足しました。

早川書房のnoteには、『三体Ⅲ 死神永生』から以下も掲載されている。どちらも第2部までは読んでいることを前提にし、第3部の内容もにおわせている。

著者の劉慈欣によるエッセイが紹介されていて、第1部と第2部はSFファン以外にも読んでもらえるよう「現代もしくはそれに近い時代を背景とすることで物語の現実感を高め、SF的要素を現代的なリアリティに立脚させようとした」とのこと。しかし純粋なSF小説として書いた第3部がシリーズ全体の人気につながったのだそうだ。いいですね。

『三体』の内容紹介に入るまでは、藤井氏が『三体』と著者の劉慈欣をどのように知っていったかが書かれている。『三体』を未読の方もそのあたりまでは読んで大丈夫なのではないでしょうか。

第1部は自分にはいまいち合わないと感じたが、第2部と第3部はとても楽しめた。皆さんもぜひ読んでみてください。

勝手な正誤表

例によって勝手な正誤表を作りました。増刷時修正の参考になればと思います。

東京都の緊急事態宣言が終わる9月12日までに感染者が十分減るとは思えない

これまでの記事

緊急事態宣言が発出された日や延長される前の最終日を区切りに、上のように現状をまとめている。前回と今回では深刻度がだいぶ変わってしまった。

4月25日から7月12日までのグラフ
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7月13日から8月22日までを追加したグラフ
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2つとも始まりと終わりは同じ日だが、8月22日まで来ると縦のスケールがとても大きくなった。2枚目のグラフでは7月までの線がずいぶん下に押し込められている。右軸の感染者数は当初1,250人までだったのが6,000人までになってしまった。約5倍である。1日の新規感染確認者数が1,000人を超えたのはグラフの最初のころ。それがいったん下がったあと、オリンピックの期間を含む7月中旬から8月にかけては1,000人を軽々と超えてしまい、それは今も続いている。

8月に入ると1日の新規感染確認者数が4,000人や5,000人以上になる日が珍しくなくなった。7日間平均の前週比がいったん2倍以上になったあと今は1.2倍前後に落ち着いているのがせめてもの救いだが、これも1倍を切らないと感染者は減っていかない。

今までは、新規感染確認者数が1,000人を超えるとさすがに危ないという雰囲気が広がるのか、少しずつ減り始めることが多かった。しかし自粛疲れなのかオリンピックのせいなのか、今回は減る様子がぜんぜん出てこない。7月下旬の4連休も一因かもしれない。2,000人、3,000人と増えていって、あれよあれよという間に4,000人台や5,000人台が珍しくなくなってしまった。

Twiterなどで「今回の第5波では直接の知人が感染したという話をよく聞くようになってきた」という話を見かける。感染者が毎日4,000~5,000人増えていく勢いは恐ろしい。

医療はますます逼迫している。千葉県では新型コロナウイルスに感染した8か月の妊婦が搬送先が見つからないまま自宅で早産し、新型コロナウイルスに対応したNICUを備えた病院に搬送できず赤ちゃんが亡くなるという痛ましいできごとがあった。ほかに必要な治療を受けられないまま自宅で亡くなる人も出ている。

こうなると新型コロナウイルスだけでなく、ほかの病気やけがでも搬送先がなかなか見つからなくなる。突然の脳卒中や事故のけがで一刻を争うときに致命的になるかもしれない。あるいは事故で他人をけがさせてしまうと、ふだんのような治療ができずに亡くなってしまって過失傷害が過失致死になるかもしれない。医療崩壊に定義はないというが、すでに崩壊していることは明らかだ。

8月22日までとされていた東京都の緊急事態宣言は、いったん8月31日までに延長されたあと9月12日までに再延長された。

7月30日付の記事(8月31日まで延長)
【詳細】菅首相会見「今回の宣言が最後となるような覚悟で」 | 新型コロナウイルス | NHKニュース(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210730/k10013171341000.html
8月16日付の記事(9月12日まで延長)
「緊急事態宣言」7府県を追加へ 6都府県の宣言も延長の方針 | 新型コロナウイルス | NHKニュース(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210816/k10013206461000.html

4月25日から8月22日までのグラフは1日分の幅が狭い。さらに9月12日までを足すのはやめて、新しく6月21日から9月12日までのグラフを作った。

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6月21日は前回の緊急事態宣言が蔓延防止等重点措置に切り替わる一方、7日間平均の前週比が1倍を超えた日である。この日の新規感染確認者数の7日間平均は391.9人だった。それが8月22日には4,732.9人。さて、ここから新規感染確認者数を減らしていけるだろうか。

8月22日から9月12日までに1,000人に減るペースは、8月22日時点で週4割減(0.60倍)である。これでも今の約1.2倍より相当に下げなければ達成できない。

8月22日から9月12日までに100人に減るペースとなると毎週約7割減(0.28倍)にしなければならない。このように低い数字になったことはあるだろうか。調べてみると第1波の終わりごろ、2020年5月13日に0.26倍、翌日に0.29倍という記録がある。がそのくらいしかない。

今から感染者が減っていったとしても100人はまず無理、1,000人に減らすのだってまあ難しいですよね。この感じだと9月12日には緊急事態宣言が再延長されるだろう。こま切れの延長にどのくらい意味があるかはわからない。

今年に入って、東京都が緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置でなかった期間は1月1日から7日(7日間)と、3月22日から4月11日(21日間)だけである。そもそもこんな長期にわたる緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置に意味があるのだろうか。

今回、宣言を発出してから新規感染確認者数が増えるのは、宣言に伴う施策が間違っているからだ。デルタ株の感染力は今までの新型コロナウイルスとは比べものにならない。にもかかわらず今までとあまり変わらないように見える感染対策ではこのような結果になるのも無理はない。

こんな記事があった。削除されたため魚拓でどうぞ。

国が休業補償を出さないため営業せざるを得ないデパートの話が書かれている。匿名ダイアリーだから信憑性はわからないが、いかにもありそうな内容である。

つまりこれはデパート側にとっては「自助」なのだ。国が補償してくれないなら生き残り策を自分で立てなければならない。なにをどうごまかしてもかまわないからとにかく営業するというのは今の状況下で合理的な判断である。このあとどうなるかは知ったことではない。休業協力金がなかなか支払われないので休業要請を無視する飲食店と同じだ。

本来はこういうことが起きないよう、国がきちんと休業補償をしなければならない。生活のために家を出て仕事に行かざるを得ない人を減らす必要がある。異常にケチで「金は出すから家にいろ」が弱すぎる国の責任は重い。

ワクチンの進捗状況はどうか。

(この段落、初出時から修正)「新型コロナワクチンの接種状況(一般接種(高齢者含む)) | 政府CIOポータル」によると8月23日現在で東京都の接種率は1回目46.87パーセント、2回目33.97パーセントだった。全国の平均は1回目44.92パーセント、2回目34.99パーセントで東京都は平均値に近い。ゆっくりだけどちゃんと進んでいるという印象。

しかしデルタ株は感染力が強く、ワクチンの接種率が高くてもそれだけで感染拡大を防ぐのは難しいとわかってきている。「デルタ株とワクチン集団免疫の夢と現実(小野昌弘) - 個人 - Yahoo!ニュース」によれば、イギリスでは成人の75パーセントが2回の接種を終えたのに感染が広がっているという。「デルタ株まん延、遠い収束 「集団免疫」困難か―新型コロナ:時事ドットコム」には、「感染研の脇田隆字所長は『8、9割の接種率でもどうなるか分からない。接種が進む英国やイスラエルなどの状況を見る必要がある』と慎重な見解」とある。

(ここから追記)

今月号の「数学セミナー」(2021年9月号/719号)に西浦博教授が寄稿した「予防接種完了時の新型コロナウイルス感染症流行をどのように見通しているか」によると、現在のワクチンの接種率が100パーセントになってもデルタ株は感染拡大を続けるそうだ。


(ここまで追記)

ワクチンの接種を進めなければ感染はより拡大するが、接種が進んでも完全に抑え込めるわけではない。新型コロナウイルスと1年半つき合ってきて、なんとなく対処方法がわかった気がしてきたのに変異株が出てきて認識を変えなければならない。これは相当なストレスだ。

いま心配なのは学校で、デルタ株は子供に感染しやすくなっているそうだ。「横浜市 小中学校は夏休み後も今月いっぱい臨時休校へ|NHK 首都圏のニュース」には「夏休みに入ってからの1か月間で、去年1年間を上回るおよそ800人の感染が確認されたということです」というくだりがある。記事では横浜市に加えて相模原市川崎市の市立小中学校も8月いっぱい休校にすると決めているとのこと。

子供が感染すれば大人にうつるのを防ぐのは難しいだろう。小学生の親はいま30代から40代くらいで、ワクチンの接種が遅れている世代である。子供が軽症でも両親が中等症以上になったら誰が子供の面倒を見ればいいのか。新学期が始まるのが恐ろしい。

新型コロナウイルスは子供には安全という認識を改めて、感染を防ぎつつ子供の教育を進めていかなければならない。タブレットを全生徒に配ってTeamsによる遠隔授業の練習をしている公立学校もある。ネット環境がよくない家庭にはモバイルルータも貸与されたりするとのこと。

個人でできる対策はあまり変わらない。ワクチン接種をすませていても感染することがあり、自分は軽症でも人にうつしてしまうかもしれない。なるべく家を出ない、マスク、手洗い、3密の回避を続けるしかない。公共交通機関で出かけると周囲の乗客から感染するかもしれない。車で出かけると事故を起こしたりもらったりしたとき治療が遅れるかもしれない。もうとにかく家でじっとしている以外に道はない。マスクはウレタン製を避けて不織布のものを。

諏訪中央病院の玉井道裕医師がイラストで解説する「新型コロナウイルス感染をのりこえるための説明書」はわかりやすく参考になる。

ここにマスクの種類についても記載がある。

関連記事

7月29日にファイザー製ワクチンの2回目を打ちました。8月12日に抗体が完成して少しだけ安心。

関連リンク

毎日の新規感染確認者数をもとにしたグラフのツイート

画像だけを見るなら:id:Imamuraのはてなフォトライフにある「covid-19」フォルダ(CC-BYにしてありますのでルール内でどうぞご利用ください)

追記

続きを書きました。

火星生命探査における火星衛星探査計画「MMX」の役割に関する説明会

開催日時

  • 2021年8月19日(木)10:00~11:00

登壇者

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(左から川勝氏、臼井氏、菅原氏、黒澤氏、倉本氏)

中継録画

関連リンク

ミッション紹介動画

概要

(川勝氏より)

今日は8月13日にサイエンス誌に掲載された論文「火星とその衛星で生命を探す」をテーマにした説明会。

通常の研究論文は実験や解析結果が載った10ページ程度のもの。今回の論文はperspective(見解)という1ページのもの。このカテゴリは既存の問題や概念、考え方に新しい見方、将来の方向性、その意義について述べたもの。そのテーマに深い理解と観察をもつ著者が分野の成果や状況を俯瞰した上で今後の方向性を指し示す。通常の研究論文の一段階上で、その研究分野において重要な意味を持つ。

そのperspectiveというカテゴリにおいて「火星とその衛星で生命を探す」というタイトルの論文がトップ科学誌のサイエンスに採択され掲載されたことが重要なニュース。

この論文について内容、意義、価値を説明するため今回の説明会を準備した。

火星衛星探査計画MMXが持ち帰る試料の惑星検疫検討

(黒澤氏より)

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続きを読む

筒井康隆の「超虚構(メタフィクション)」について覚えていること

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こんな記事を読んだ。

TikTokで本を紹介している人が筒井康隆の『残像に口紅を』を採り上げたところ、書店のPOSデータでわかるほど売れたため版元が重版を決めたそうだ。

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残像に口紅を』は世界から文字が消えていくという物語である。「あ」がなくなると文章に「あ」が出てこなくなるだけでなく、「朝」や「愛」といった「あ」を含む言葉も消えてしまう。そうやって少しずつ文字が消えていくと、いろいろな物や概念も消えていく。文章もだんだん同じ音がくり返され、スカスカした印象になっていく。これで最後はどうなるのかと思ったら、単行本では半分ちょっとから先が袋とじになっていた。

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「ここまでお読みになって読む気を失われたかたは、この封を切らずに、中央公論社までお手持ちください。この書籍の代金をお返しいたします。」

袋とじの直前が濡れ場が始まるところで、続きを期待させているのが面白かった。丁寧に袋とじを切って読んだ。

このころの筒井康隆には「超虚構メタフィクション」を目指した実験的な作品がある。せっかくなので超虚構について覚えている範囲で紹介したい。記憶に頼って書くため間違いがあったり、「この作品を紹介しないなんて」ということがあるかもしれません。そういうときはブコメTwitter優しくご指摘ください。

「超虚構」は現実の引き写しではなく、フィクションでしかできない物語や表現ができないかと考えて出てきた概念で、普通のフィクションの特徴としてこんな例が紹介される。

  • 物語の登場人物は物語が始まる前から存在し、物語が終わっても存在し続けるかのようにふるまっている
  • 登場人物は自分が物語の中の存在であることを自覚していない
  • 現実に起きそうにない出来事は物語でも起きない
  • 文章の進み方に対して時間の進み方が一定でない(一瞬の出来事を長々と描写したり、「それから3年」といった表現が可能)

これらの特徴を全部裏返して盛り込んだ小説が『虚人たち』である。

  • 物語の登場人物は物語が始まると同時に現れ、物語が終わると消える
  • 登場人物は自分が物語の中の存在であることを知っている
  • 現実にはまず起きない事件として、主人公の妻と娘が同時に別の犯人に誘拐される
  • 原稿用紙1枚を1分とする。主人公が眠っている間は白紙になる

虚人たち』は上のような理屈を知ってから読むと面白いのだけれど、中公文庫版は解説にすらこれらの説明がまったくない。何も知らずに手に取った人は戸惑うばかりではないだろうか。あの解説は今もそのままなのかなあ。

そして、こういった「超虚構」をめぐる考察は『着想の技術』に掲載されている。

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こちらを読んでから『虚人たち』を読むととても楽しめるでしょう。

虚人たち』は実験小説で物語の面白さは二の次だが、虚構と現実が入り交じりながら不思議な読後感と文学的な満足感をもたらす作品もある。

『エロチック街道』は短編集。

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『夢の木坂分岐点』は長編。

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これらはなにも考えずにつるつる読める本ではない。内容も独特で「面白くない、わけがわからない、ついていけない」という人もいるだろう。でもこういうのが大好きな人にはたまらない。(と鏡を見る)

最後に『虚航船団』を紹介しておきたい。「まずコンパスが登場する。彼は気がくるっていた。」で始まる長編である。

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新潮社の「純文学書き下ろし特別作品」という枠で5年かけて書かれたもので、超虚構について考えてきた筒井康隆の集大成の趣がある。3章構成になっていて、第1章は文房具を(外見はそのままで)擬人化した乗組員が搭乗する宇宙船団、第2章はイタチが知的生命体になっている星の歴史が描かれる。第3章はその2つが融合してたいへんなことになる。よくわからないと思うがたいへん面白いのでぜひ読んでほしい。

筒井康隆の代表作は? というと『時をかける少女』や「テレパス七瀬」シリーズなどの知名度が高く、これらが紹介されがちだ。でも『虚航船団』は知名度こそ低いが、これこそ筒井康隆の代表作だと思う。

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筒井康隆は作品がとても多く、全部を読むのは大変だ。『虚人たち』の増刷の記事から『虚人たち』や『虚航船団』を紹介したツイートには『驚愕の曠野』を勧める引用ツイートがついた。すいません、読んでないんです。今読んでる本がひと段落したら読もう。


文庫版(1997年刊行)
文庫版その2(2002年刊行)