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勝手な正誤表を6冊分追加

『三体』については下に書いた。おすすめです。

『三体』は尻上がりに面白くなっていった

(ネタバレ全開ではありませんが内容には触れています)

『三体Ⅲ しんえいせい』を読み終わった。最終巻はいろいろな方向へスケールが大きくなり、予想外の終わり方だった。とてもSF的で満足。

1巻が出たときは反響が大きくて、10年に一度の傑作が出てきたという雰囲気を感じた。

なので楽しみに読んでみたのだが……むむむ……これはちょっとむむむのむ。

面白くなかったわけではないのだが、そもそもあのような世界で知的生命体が誕生するだろうか。そこがどうしても引っかかる。地球の歴史を見る限り、十億年単位で安定した環境が続かない限り無理じゃなかろうか。そうでないと、もし運よく生命が誕生しても、知的生命体に進化して過酷な世界の処世術を身につける前に簡単に絶滅してしまうだろう。

物語は現代の謎の事件と、文革の時代から極秘のSETI計画の時代という過去の物語が語られる。特に過去の話は人間の感情が細かく描かれていて好ましい。そしてVR内のコンピュータや表紙の船が登場するシーン、謎の種明かしなどはダイナミックなアイデアで面白い。でももうちょっとこう、もうちょっとなにかがほしかった。期待が大きすぎたのだろうか。こちらの感受性が弱っていたのだろうか。

第1巻がそんな感じだったので、やや身構えながら第2部「黒暗森林」(上下巻)を読み始めた。

第2部は1巻で明らかになった状況をもとに異星文明との戦いが始まる。1巻で明かされた謎によって、人類が圧倒的に不利とわかる。敵の侵略にどう対抗するか? さまざまな方策が立てられる中、第2部では奇策ともいえる「面壁計画」が描かれる。人類と敵の違いをもとに、人類が有利かもしれない方法で対抗していく。「面壁計画」以外にもさまざまなアイデアがどんどん出てきて楽しい。でもそれぞれのアイデアはわりと単発で、それぞれが有機的にからんで大きなうねりを作り出す感じではないなあとも思った。上巻ラストのすさまじいピンポイント攻撃が、下巻になるとあっさり解決していたり。

とはいえ第2部は1巻より面白かった。「暗黒森林理論」は中国では一般的な考えとなり、それまでのファーストコンタクトものの常識がくつがえったそうだ。この調子で完結編はどうなるか? と読み始めたのだった。

第3部「死神永生」(上下巻)を読む前に第2部までの話を思い出したい人のために、早川書房が「これまでのあらすじ」を公開した。もちろんネタバレ全開、閲覧注意である。

  • 【第一部・二部ネタバレ注意!】これで発売前の予習は万全! 『三体』『三体Ⅱ 黒暗森林』これまでのあらすじ|Hayakawa Books & Magazines(β)(https://www.hayakawabooks.com/n/n1337352e1a34

第3部はさらにスケールアップし、人類のさらなる未来が描かれる。ちょっと面白いと思ったのが、大変なことが起きる→意外な解決→また大変なことが起きる→意外な解決、というくり返しがあること。これが『よかったねネッドくん』という絵本を思い出させた。

あるひ、ネッドくんに てがみが きた。「びっくりパーティーに いらっしゃい。」よかったね。

でも、たいへん! パーティーは とおい とおい フロリダで やるんだって……。

よかった! ともだちが ひこうき かしてくれて。

でも、たいへん! ひこうきが とちゅうで ばくはつ。

よかった! ひこうきに パラシュートが あって。

でも、たいへん!……

こんな調子で、ページをめくるたびに「でも、たいへん!」と「よかった!」がくり返される楽しい話である。「三体」の第3部はわりとこういう感じだった。そして意外で面白いアイデアが次々に出てきて、ダイナミックなことが起きるたびにスケールが上がっていった。すごい。特に終盤のスペクタクル描写は大したものだ。これこそSFだ。よかった。満足しました。

早川書房のnoteには、『三体Ⅲ 死神永生』から以下も掲載されている。どちらも第2部までは読んでいることを前提にし、第3部の内容もにおわせている。

著者の劉慈欣によるエッセイが紹介されていて、第1部と第2部はSFファン以外にも読んでもらえるよう「現代もしくはそれに近い時代を背景とすることで物語の現実感を高め、SF的要素を現代的なリアリティに立脚させようとした」とのこと。しかし純粋なSF小説として書いた第3部がシリーズ全体の人気につながったのだそうだ。いいですね。

『三体』の内容紹介に入るまでは、藤井氏が『三体』と著者の劉慈欣をどのように知っていったかが書かれている。『三体』を未読の方もそのあたりまでは読んで大丈夫なのではないでしょうか。

第1部は自分にはいまいち合わないと感じたが、第2部と第3部はとても楽しめた。皆さんもぜひ読んでみてください。

勝手な正誤表

例によって勝手な正誤表を作りました。増刷時修正の参考になればと思います。

東京都の緊急事態宣言が終わる9月12日までに感染者が十分減るとは思えない

これまでの記事

緊急事態宣言が発出された日や延長される前の最終日を区切りに、上のように現状をまとめている。前回と今回では深刻度がだいぶ変わってしまった。

4月25日から7月12日までのグラフ
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7月13日から8月22日までを追加したグラフ
f:id:Imamura:20210822165952p:plain

2つとも始まりと終わりは同じ日だが、8月22日まで来ると縦のスケールがとても大きくなった。2枚目のグラフでは7月までの線がずいぶん下に押し込められている。右軸の感染者数は当初1,250人までだったのが6,000人までになってしまった。約5倍である。1日の新規感染確認者数が1,000人を超えたのはグラフの最初のころ。それがいったん下がったあと、オリンピックの期間を含む7月中旬から8月にかけては1,000人を軽々と超えてしまい、それは今も続いている。

8月に入ると1日の新規感染確認者数が4,000人や5,000人以上になる日が珍しくなくなった。7日間平均の前週比がいったん2倍以上になったあと今は1.2倍前後に落ち着いているのがせめてもの救いだが、これも1倍を切らないと感染者は減っていかない。

今までは、新規感染確認者数が1,000人を超えるとさすがに危ないという雰囲気が広がるのか、少しずつ減り始めることが多かった。しかし自粛疲れなのかオリンピックのせいなのか、今回は減る様子がぜんぜん出てこない。7月下旬の4連休も一因かもしれない。2,000人、3,000人と増えていって、あれよあれよという間に4,000人台や5,000人台が珍しくなくなってしまった。

Twiterなどで「今回の第5波では直接の知人が感染したという話をよく聞くようになってきた」という話を見かける。感染者が毎日4,000~5,000人増えていく勢いは恐ろしい。

医療はますます逼迫している。千葉県では新型コロナウイルスに感染した8か月の妊婦が搬送先が見つからないまま自宅で早産し、新型コロナウイルスに対応したNICUを備えた病院に搬送できず赤ちゃんが亡くなるという痛ましいできごとがあった。ほかに必要な治療を受けられないまま自宅で亡くなる人も出ている。

こうなると新型コロナウイルスだけでなく、ほかの病気やけがでも搬送先がなかなか見つからなくなる。突然の脳卒中や事故のけがで一刻を争うときに致命的になるかもしれない。あるいは事故で他人をけがさせてしまうと、ふだんのような治療ができずに亡くなってしまって過失傷害が過失致死になるかもしれない。医療崩壊に定義はないというが、すでに崩壊していることは明らかだ。

8月22日までとされていた東京都の緊急事態宣言は、いったん8月31日までに延長されたあと9月12日までに再延長された。

7月30日付の記事(8月31日まで延長)
【詳細】菅首相会見「今回の宣言が最後となるような覚悟で」 | 新型コロナウイルス | NHKニュース(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210730/k10013171341000.html
8月16日付の記事(9月12日まで延長)
「緊急事態宣言」7府県を追加へ 6都府県の宣言も延長の方針 | 新型コロナウイルス | NHKニュース(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210816/k10013206461000.html

4月25日から8月22日までのグラフは1日分の幅が狭い。さらに9月12日までを足すのはやめて、新しく6月21日から9月12日までのグラフを作った。

f:id:Imamura:20210822193951p:plain

6月21日は前回の緊急事態宣言が蔓延防止等重点措置に切り替わる一方、7日間平均の前週比が1倍を超えた日である。この日の新規感染確認者数の7日間平均は391.9人だった。それが8月22日には4,732.9人。さて、ここから新規感染確認者数を減らしていけるだろうか。

8月22日から9月12日までに1,000人に減るペースは、8月22日時点で週4割減(0.60倍)である。これでも今の約1.2倍より相当に下げなければ達成できない。

8月22日から9月12日までに100人に減るペースとなると毎週約7割減(0.28倍)にしなければならない。このように低い数字になったことはあるだろうか。調べてみると第1波の終わりごろ、2020年5月13日に0.26倍、翌日に0.29倍という記録がある。がそのくらいしかない。

今から感染者が減っていったとしても100人はまず無理、1,000人に減らすのだってまあ難しいですよね。この感じだと9月12日には緊急事態宣言が再延長されるだろう。こま切れの延長にどのくらい意味があるかはわからない。

今年に入って、東京都が緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置でなかった期間は1月1日から7日(7日間)と、3月22日から4月11日(21日間)だけである。そもそもこんな長期にわたる緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置に意味があるのだろうか。

今回、宣言を発出してから新規感染確認者数が増えるのは、宣言に伴う施策が間違っているからだ。デルタ株の感染力は今までの新型コロナウイルスとは比べものにならない。にもかかわらず今までとあまり変わらないように見える感染対策ではこのような結果になるのも無理はない。

こんな記事があった。削除されたため魚拓でどうぞ。

国が休業補償を出さないため営業せざるを得ないデパートの話が書かれている。匿名ダイアリーだから信憑性はわからないが、いかにもありそうな内容である。

つまりこれはデパート側にとっては「自助」なのだ。国が補償してくれないなら生き残り策を自分で立てなければならない。なにをどうごまかしてもかまわないからとにかく営業するというのは今の状況下で合理的な判断である。このあとどうなるかは知ったことではない。休業協力金がなかなか支払われないので休業要請を無視する飲食店と同じだ。

本来はこういうことが起きないよう、国がきちんと休業補償をしなければならない。生活のために家を出て仕事に行かざるを得ない人を減らす必要がある。異常にケチで「金は出すから家にいろ」が弱すぎる国の責任は重い。

ワクチンの進捗状況はどうか。

(この段落、初出時から修正)「新型コロナワクチンの接種状況(一般接種(高齢者含む)) | 政府CIOポータル」によると8月23日現在で東京都の接種率は1回目46.87パーセント、2回目33.97パーセントだった。全国の平均は1回目44.92パーセント、2回目34.99パーセントで東京都は平均値に近い。ゆっくりだけどちゃんと進んでいるという印象。

しかしデルタ株は感染力が強く、ワクチンの接種率が高くてもそれだけで感染拡大を防ぐのは難しいとわかってきている。「デルタ株とワクチン集団免疫の夢と現実(小野昌弘) - 個人 - Yahoo!ニュース」によれば、イギリスでは成人の75パーセントが2回の接種を終えたのに感染が広がっているという。「デルタ株まん延、遠い収束 「集団免疫」困難か―新型コロナ:時事ドットコム」には、「感染研の脇田隆字所長は『8、9割の接種率でもどうなるか分からない。接種が進む英国やイスラエルなどの状況を見る必要がある』と慎重な見解」とある。

(ここから追記)

今月号の「数学セミナー」(2021年9月号/719号)に西浦博教授が寄稿した「予防接種完了時の新型コロナウイルス感染症流行をどのように見通しているか」によると、現在のワクチンの接種率が100パーセントになってもデルタ株は感染拡大を続けるそうだ。


(ここまで追記)

ワクチンの接種を進めなければ感染はより拡大するが、接種が進んでも完全に抑え込めるわけではない。新型コロナウイルスと1年半つき合ってきて、なんとなく対処方法がわかった気がしてきたのに変異株が出てきて認識を変えなければならない。これは相当なストレスだ。

いま心配なのは学校で、デルタ株は子供に感染しやすくなっているそうだ。「横浜市 小中学校は夏休み後も今月いっぱい臨時休校へ|NHK 首都圏のニュース」には「夏休みに入ってからの1か月間で、去年1年間を上回るおよそ800人の感染が確認されたということです」というくだりがある。記事では横浜市に加えて相模原市川崎市の市立小中学校も8月いっぱい休校にすると決めているとのこと。

子供が感染すれば大人にうつるのを防ぐのは難しいだろう。小学生の親はいま30代から40代くらいで、ワクチンの接種が遅れている世代である。子供が軽症でも両親が中等症以上になったら誰が子供の面倒を見ればいいのか。新学期が始まるのが恐ろしい。

新型コロナウイルスは子供には安全という認識を改めて、感染を防ぎつつ子供の教育を進めていかなければならない。タブレットを全生徒に配ってTeamsによる遠隔授業の練習をしている公立学校もある。ネット環境がよくない家庭にはモバイルルータも貸与されたりするとのこと。

個人でできる対策はあまり変わらない。ワクチン接種をすませていても感染することがあり、自分は軽症でも人にうつしてしまうかもしれない。なるべく家を出ない、マスク、手洗い、3密の回避を続けるしかない。公共交通機関で出かけると周囲の乗客から感染するかもしれない。車で出かけると事故を起こしたりもらったりしたとき治療が遅れるかもしれない。もうとにかく家でじっとしている以外に道はない。マスクはウレタン製を避けて不織布のものを。

諏訪中央病院の玉井道裕医師がイラストで解説する「新型コロナウイルス感染をのりこえるための説明書」はわかりやすく参考になる。

ここにマスクの種類についても記載がある。

関連記事

7月29日にファイザー製ワクチンの2回目を打ちました。8月12日に抗体が完成して少しだけ安心。

関連リンク

毎日の新規感染確認者数をもとにしたグラフのツイート

画像だけを見るなら:id:Imamuraのはてなフォトライフにある「covid-19」フォルダ(CC-BYにしてありますのでルール内でどうぞご利用ください)

追記

続きを書きました。

火星生命探査における火星衛星探査計画「MMX」の役割に関する説明会

開催日時

  • 2021年8月19日(木)10:00~11:00

登壇者

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(左から川勝氏、臼井氏、菅原氏、黒澤氏、倉本氏)

中継録画

関連リンク

ミッション紹介動画

概要

(川勝氏より)

今日は8月13日にサイエンス誌に掲載された論文「火星とその衛星で生命を探す」をテーマにした説明会。

通常の研究論文は実験や解析結果が載った10ページ程度のもの。今回の論文はperspective(見解)という1ページのもの。このカテゴリは既存の問題や概念、考え方に新しい見方、将来の方向性、その意義について述べたもの。そのテーマに深い理解と観察をもつ著者が分野の成果や状況を俯瞰した上で今後の方向性を指し示す。通常の研究論文の一段階上で、その研究分野において重要な意味を持つ。

そのperspectiveというカテゴリにおいて「火星とその衛星で生命を探す」というタイトルの論文がトップ科学誌のサイエンスに採択され掲載されたことが重要なニュース。

この論文について内容、意義、価値を説明するため今回の説明会を準備した。

火星衛星探査計画MMXが持ち帰る試料の惑星検疫検討

(黒澤氏より)

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続きを読む

筒井康隆の「超虚構(メタフィクション)」について覚えていること

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こんな記事を読んだ。

TikTokで本を紹介している人が筒井康隆の『残像に口紅を』を採り上げたところ、書店のPOSデータでわかるほど売れたため版元が重版を決めたそうだ。

文庫版
Kindle

残像に口紅を』は世界から文字が消えていくという物語である。「あ」がなくなると文章に「あ」が出てこなくなるだけでなく、「朝」や「愛」といった「あ」を含む言葉も消えてしまう。そうやって少しずつ文字が消えていくと、いろいろな物や概念も消えていく。文章もだんだん同じ音がくり返され、スカスカした印象になっていく。これで最後はどうなるのかと思ったら、単行本では半分ちょっとから先が袋とじになっていた。

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「ここまでお読みになって読む気を失われたかたは、この封を切らずに、中央公論社までお手持ちください。この書籍の代金をお返しいたします。」

袋とじの直前が濡れ場が始まるところで、続きを期待させているのが面白かった。丁寧に袋とじを切って読んだ。

このころの筒井康隆には「超虚構メタフィクション」を目指した実験的な作品がある。せっかくなので超虚構について覚えている範囲で紹介したい。記憶に頼って書くため間違いがあったり、「この作品を紹介しないなんて」ということがあるかもしれません。そういうときはブコメTwitter優しくご指摘ください。

「超虚構」は現実の引き写しではなく、フィクションでしかできない物語や表現ができないかと考えて出てきた概念で、普通のフィクションの特徴としてこんな例が紹介される。

  • 物語の登場人物は物語が始まる前から存在し、物語が終わっても存在し続けるかのようにふるまっている
  • 登場人物は自分が物語の中の存在であることを自覚していない
  • 現実に起きそうにない出来事は物語でも起きない
  • 文章の進み方に対して時間の進み方が一定でない(一瞬の出来事を長々と描写したり、「それから3年」といった表現が可能)

これらの特徴を全部裏返して盛り込んだ小説が『虚人たち』である。

  • 物語の登場人物は物語が始まると同時に現れ、物語が終わると消える
  • 登場人物は自分が物語の中の存在であることを知っている
  • 現実にはまず起きない事件として、主人公の妻と娘が同時に別の犯人に誘拐される
  • 原稿用紙1枚を1分とする。主人公が眠っている間は白紙になる

虚人たち』は上のような理屈を知ってから読むと面白いのだけれど、中公文庫版は解説にすらこれらの説明がまったくない。何も知らずに手に取った人は戸惑うばかりではないだろうか。あの解説は今もそのままなのかなあ。

そして、こういった「超虚構」をめぐる考察は『着想の技術』に掲載されている。

文庫版
Kindle

こちらを読んでから『虚人たち』を読むととても楽しめるでしょう。

虚人たち』は実験小説で物語の面白さは二の次だが、虚構と現実が入り交じりながら不思議な読後感と文学的な満足感をもたらす作品もある。

『エロチック街道』は短編集。

文庫版
Kindle

『夢の木坂分岐点』は長編。

文庫版
Kindle

これらはなにも考えずにつるつる読める本ではない。内容も独特で「面白くない、わけがわからない、ついていけない」という人もいるだろう。でもこういうのが大好きな人にはたまらない。(と鏡を見る)

最後に『虚航船団』を紹介しておきたい。「まずコンパスが登場する。彼は気がくるっていた。」で始まる長編である。

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文庫版
Kindle

新潮社の「純文学書き下ろし特別作品」という枠で5年かけて書かれたもので、超虚構について考えてきた筒井康隆の集大成の趣がある。3章構成になっていて、第1章は文房具を(外見はそのままで)擬人化した乗組員が搭乗する宇宙船団、第2章はイタチが知的生命体になっている星の歴史が描かれる。第3章はその2つが融合してたいへんなことになる。よくわからないと思うがたいへん面白いのでぜひ読んでほしい。

筒井康隆の代表作は? というと『時をかける少女』や「テレパス七瀬」シリーズなどの知名度が高く、これらが紹介されがちだ。でも『虚航船団』は知名度こそ低いが、これこそ筒井康隆の代表作だと思う。

文庫版
Kindle
文庫版
Kindle

筒井康隆は作品がとても多く、全部を読むのは大変だ。『虚人たち』の増刷の記事から『虚人たち』や『虚航船団』を紹介したツイートには『驚愕の曠野』を勧める引用ツイートがついた。すいません、読んでないんです。今読んでる本がひと段落したら読もう。


文庫版(1997年刊行)
文庫版その2(2002年刊行)

「ルックバック」の修正に際しての編集部の声明は不誠実

この記事の続きです。

(上の記事は何度か追記しているので、すでに読んだ方もできればもう一度確認してみてください)

7月19日に「少年ジャンプ+」で公開された藤本タツキ作「ルックバック」について昨日、作中のセリフなどが一部修正された。

修正されたところは以下(だと思う。見落としがなければ)。絵の修正はなし。

88ページ
  • 初出…新聞記事の小見出し:「大学内に飾られている絵画から自分を罵倒する声が聞こえた」
  • →修正後…何かの記事の一部:「誰でもよかった」と犯人が供述して
111ページの犯人のセリフ
  • 初出…「オマエだろ 馬鹿にしてんのか? あ?」「さっきからウッセーんだよ!! ずっと!!」「うるせええええええ」
  • →修正後…「今日自分が死ぬって思ってたか? あ?」「今日死ぬって思ってたか!?」「なああああああああ」
111ページの事件の経過を説明する文字
  • 初出…男はこの時も被害妄想により自分を罵倒する声が聞こえていたと供述
  • →修正後…男は最初に目についた人を殺すつもりだったと供述
113ページの犯人のセリフ
  • 初出…「ほらア!!」「ちげーよ!! 俺のだろ!?」「元々オレのをパクったんだっただろ!?」「ほらな!! お前じゃん やっぱなあ!?」
  • →修正後…「見下しっ」「見下しやがって!」「絵描いて 馬鹿じゃねえのかああ!?」「社会の役に立てねえクセしてさああ!?」

初出時のセリフは幻聴や妄想の精神疾患を表現していて、これは統合失調症患者のステレオタイプ的表現だと感じた。そしてそういう人間が無差別殺人を起こすという展開になっている。これはよくないと思って前の記事を書いたのだった。

あの記事の主眼は「統合失調症の誤ったステレオタイプにもとづく描写はしないでほしい」だったんだけれど、書き方が悪くて炎上気味になってしまい反省している。どういう描写ならそう感じなかっただろうかと考えて、出てきたアイデアも詳しく書いてしまったので「こう修正しろ」「絶許! 描き直して当然!」と詰め寄っていると感じる人が多くなってしまった。「真意が伝わらず誤解を招いた」と謝罪したくなる人の気持ちがよくわかった。

ともかく、今回の修正によって犯人から統合失調症ステレオタイプ的な描写はなくなったと思う。そこは歓迎したい。修正による犯人像の変化とそれが作品に与える影響についても思うところがあるがそれは別の話。

さて、ここからがこの記事のタイトルの話である。

上のツイートの文言は「ルックバック」本編の冒頭にも描かれている。そのクレジットが「少年ジャンプ+編集部」で、作者である藤本タツキの名前がないのが気になった。しかし修正は作者からの申し出であるそうだ。

集英社広報部によると、「作者側から修正したいと申し出があり、編集部と協議の上で決定した」という。修正部分や理由については「説明することで偏見や差別を助長する恐れがあるため、回答を差し控える」とした。

京アニ事件想起か、表現を修正 話題漫画「ルックバック」―集英社:時事ドットコム

どこをどう修正したか、またなぜそうしたかはノーコメント。ツイートでも「作中の描写が偏見や差別の助長につながることは避けたいと考え」とあるが、どの描写がどんな偏見や差別の助長につながると編集部が考えたのかの説明はない。これはたいへん不誠実な態度で、作品を修正した意味がないのではと感じた。

時事通信の記事では「精神障害と犯罪をめぐる描写への問題も指摘され、統合失調症患者を名乗る人からは『人を殺す可能性がある存在として描かれるのはつらい』との抗議が寄せられた」とはっきり書かれている。これを読めば「そう感じた当事者の人がいて、そこに配慮して修正したのね」とわかる。しかしそういう事情を編集部や集英社の広報が説明していない。

ツイートや作品冒頭の「不適切な表現があるとの指摘を読者の方からいただきまし​た」も、具体的にどういう指摘があったのかを示していない。いきさつを知らない人からしたら編集部の対応は、「偏見や差別の助長につながるというクレームがあった」ことだけが示唆されることになる。これだと「圧力に屈して作品を修正した」ととる人もいるだろう。そこから「作品を修正しろと迫ったのは誰だ」となってしまっては、意見を表明した精神疾患の当事者への偏見や差別がかえって助長されるのではないか。

また編集部の書き方や広報の回答は現状だと、当事者に対して「修正したのはあなた方に配慮してのことかもしれないし、そうではないかもしれない」というメッセージにしかなっていない。

この状態は編集部なり集英社の広報なりがきちんと説明すれば改善できる。「ルックバック」に対してどんな指摘があって、編集部はそれをどう受け止めたのか。どこをどう直すことによって、誰に対するどんな偏見や差別の助長を防ぐつもりなのか。そういうことをちゃんと説明して初めて、「ルックバック」をあのように修正した意義が出てくるのではないだろうか。

追記

単行本を読みました。

新型コロナウイルスのワクチン接種(第2回)

この記事の続きです。

今日、第2回のワクチン接種に行ってきた。会場が前回と同じなので手続きも基本的に同じで、「2回目ですね」「2回目ですね」とよく聞かれた。ひょっとすると前回も「1回目ですね」と何度も聞かれていたかもしれない。

予診票を確認して受付、問診、ワクチン接種、接種完了の手続き、待機とどんどん進む。待機のとき「12分待ちます」と言われた。15分じゃないんだ。聞いてみると「接種したあとの手続きやここに歩いてくるまでの時間を考慮して、ここでの待機時間は12分にしています」とのことだった。なるほど、少しでも回転をよくしたいんだな。ひょっとすると前回もキッチンタイマーは12分だったかもしれない。

待機時間が終わって、気になる症状は今回もなし。これで新型コロナウイルスワクチンの接種は無事に終わった。あとは2週間待てば抗体が十分にでき、感染しない効果や感染しても発症しない効果を約90パーセント得られる。また重症化もしにくいそうだ。ああよかった。

感染症専門医が解説! 分かってきたワクチンの効果と副反応|新型コロナワクチンQ&A|厚生労働省

とはいえ絶対感染しなくなるわけではないので、感染すると自分は軽症でもほかの人へうつしてしまうかもしれない。今のように感染者がたくさんいる状況では2週間たってもマスクや手洗いは欠かせない。自分はもう安心でも、周囲の人たちがもっとワクチンを接種するまでもうしばらくのがまんだ。

追記:副反応について

第1回、第2回とも左腕を上げると少し痛くなるのが1日ほどあったくらいで、熱が出たりはしなかった。ファイザーは副反応が小さいと聞いたことがあるが、それでもここまで楽だとは思わなかった。

副反応の大きさはどうやって決まるのだろうか。もしワクチンを打つまでに新型コロナウイルスにどのくらい曝露したかで決まるのだとしたら、感染対策がうまくいっていたことになる。(実際どうなのかは調べてみないと)

追記:第3回のワクチンを打ちました