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「はやぶさ2」衝突装置の運用結果の記者会見

日時

  • 2019年4月5日(金)16:30〜

登壇者

はやぶさ2プロジェクトチーム

  • ミッションマネージャ 吉川真(よしかわ・まこと)
  • プロジェクトマネージャ 津田雄一(つだ・ゆういち)
  • プロジェクトエンジニア 佐伯孝尚(さいき・たかなお)
  • サンプラー担当 澤田弘崇(さわだ・ひろたか)
  • 航法誘導担当 三桝裕也(みます・ゆうや)
  • 探査機システム担当 武井悠人(たけい・ゆうと)
  • 神戸大学/SCI・分離カメラ・科学観測担当 荒川政彦(あらかわ・まさひこ)

(image credit:NVS

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(左上から津田氏、佐伯氏、澤田氏、中段左から三桝氏、武井氏、荒川氏、下段が吉川氏)

中継録画(NVSによる)

(上は午前9時からぶっ通しの中継、16時30分からの会見は7時間29分24秒ごろ開始)

関連リンク

津田プロマネから


津田:うれしい報告をさせていただきます。本日わたしたちは、宇宙探査の新しい手段を確立しました。
JAXA小惑星探査機はやぶさ2に搭載した衝突装置、SCIを小惑星リュウグウへ向けて分離する運用を実施しました。
はやぶさ2から分離したカメラ「DCAM3」がSCIの作動時刻に撮影した写真に、リュウグウ表面からの噴出物の様子をとらえたことから、SCIが計画通り作動したと判断しています。

(会場から拍手)

津田:さっそくお見せしたいと思います。はやぶさ2の状態は現在正常です。

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はやぶさ2」から分離されたDCAM3が捉えた画像。

SCIが作動してリュウグウに衝突し、リュウグウ表面からの噴出物の様子が確認できる。

JAXA | 小惑星探査機「はやぶさ2」衝突装置の作動の確認について

津田:これはリュウグウの赤道のリッジ、山の部分です。少し北側を狙って衝突装置を作動させました。結果として噴出物がこのように出ていることをご覧になれるかと思います。
これが明らかに小惑星の表面からの噴出物であること、この撮影時刻がSCIの作動時刻であることから、宇宙での衝突運用、SCIを衝突させることに成功したと判定しています。
今回の運用に際してJAXAの運用メンバーに加えて国内外の大学のメンバー、国際的な宇宙機関、政府関係者の皆様を含めてはやぶさ2の実現に尽力していただきました。世界で初めての成果につなげることができたいへん興奮している。こんなに早くこの情報を出せるとは想像していなかったので、我々としてもベストの中のベストの結果が出たと考えている。

佐伯プロジェクトエンジニアから

佐伯:プロジェクトエンジニアと衝突装置の開発を担当していた。面白いことを言おうと思って考えてきたがなかなか言えない。本日、太陽系で我々が一生懸命開発してきた衝突装置が消え去った。これは悪いことではなく、予定通り動作して小惑星に弾丸を当てることができた。この運用に関して今言えるのは、(タッチダウンの時も言ったが)心からほっとしている。肩の荷が少し下りた。
ネガティブな考え方をよくするので、このような危険な運用でなにかあったらどうしようと考えていたが、朝からの運用で開発時にご協力いただいたメーカーさんも駆けつけてくださり、顔を見て勇気を出して運用することで無事成功を収めることができた。
メーカーさんや開発時の方のご尽力、それから運用に関しては若い人たちを含めたチームが運用計画から実施までしてくれた。チームとしてこのような大きな仕事ができたことを心から誇りに思っている。
(運用は)まだまだ続くので油断してはならないが、今日は素直に喜びたい。

澤田氏(DCAM3担当)から

澤田:まずは何よりも成功の報告を皆さんにできることがうれしい。なかなか言葉が出てこないくらい感動していた。
DCAM3ははやぶさ2に搭載した機器の中では特殊で、はやぶさ2本体とは電気的に切り離されて搭載した。打ち上げ後は4年間、正常かどうかテストもできず一発勝負でミッション本番という設計。実際動くのを確認するまで安心できなかった。今日の運用では姿勢系、軌道制御、SCI自身もパーフェクトに動作して、これでDCAM3だけミスったらいやだなと思っていた。
DCAM3も時間通りにきっちり動いて電波を出してくれて、探査機で受信できたのを確認できたときは声が出ないくらい感動しました。
この(イジェクターが広がっている写真の)データを先に下ろして皆さんにお見せしたかったので、優先順位を上げてもらってまずアナログ系の画像を下ろした。
DCAM3にはカメラが2つ載っている。両目がある。片目はアナログ系でこの通り画質は悪い。デジタル系はものすごく画質がよいので(今村註:2,000✕2,000ピクセルとのこと)これから今日、明日でデータを下ろしてイジェクターを詳しく解析することになっている。
人類の小さな目が、はやぶさ2本人では見られなかった実験をちゃんと見て使命を果たせた。開発を担当した本人としてもうれしく、感無量の気持ち。

三桝氏(航法誘導担当)から

三桝:姿勢軌道制御系を担当。今回はタッチダウン運用と異なり小惑星の表面に到達しない。小惑星に当たってどこかが壊れるということはない。一方で退避に失敗するとSCIの飛散物などが衝突し探査機が全損する可能性すらあった運用。なかなか難しい運用だったが姿勢軌道制御系としてもほぼパーフェクトの運用ができ、探査機を無事に安全なところへ退避させることができた。
このような歴史に残る運用の場面に、メンバーの一員として立ち会えたことを誇りに思っている。

武井氏(探査機システム担当)から

武井:探査機システム担当。登壇者の中では一番若く、はやぶさ2プロジェクトに加わったのも打ち上げ後の2015年。インパクタ運用は「本当にやるのか」というくらい複雑なもの。いろいろな人がいろいろなことをしなければ整合せず成り立たない。システム担当はサイエンス系、姿勢制御系、メーカーさん、アンテナを貸してくださっているNASAの方々とも調整し運用の手順を作り上げる。
運用の直前、最後に行うシミュレータの検証も通って、手順が整合した。その手順で運用に臨み、このような報告をできていることをうれしく思うし、さまざまな方々の力が一つにならないと手順は整合しなかった。仲間と一緒にここまでやってこれたことを幸せに思う。

荒川氏(SCI・分離カメラ・科学観測担当)から

荒川:科学検討の担当。どういうことがリュウグウで明らかになるかを検討してきた。宇宙衝突実験を模擬した室内実験を数百回くり返してきた。リュウグウのボルダーだらけの表面に対してさまざまな状況を想定した室内実験をくり返して、その結果どういったイジェクターカーテンができるかを調べてきた。
実際に今日の宇宙衝突実験が成功して初めてイジェクターを見て本当に興奮している。自分が見たのも今はこの画像だけ。これからこの画像とこれまでの研究を通してリュウグウのいろいろなことが深くわかってくるだろう。わくわくしている。

質疑応答

産経新聞くさか:津田さんのお話の冒頭、マイクの具合が悪くて聞こえなかったためもう一度おっしゃっていただきたい

津田:私たちは宇宙探査の新しい手段を確立しました。(中略)リュウグウにクレーターができたかの確認結果は改めてお知らせしますが、はやぶさ2の目的は衝突装置を衝突させること。その意味で予定よりかなり早くなりましたが今回のSCI運用を成功判定とさせていただきます。

くさか:横からの画像でクレーターそのものは見えていないが、クレーターはほぼほぼできただろうという感触?

津田:少しニュアンスが違う。クレーターが作られたことが強く期待はされるが、特定の形態で表面に変化が起きるかは相手次第。見てみなければわからない。はやぶさ2のプロジェクトとしては衝突器を小惑星表面に衝突させること、その反応を見ることが目的。
衝突させることができたのでホームポジションに戻ってから降下運用をし、クレーターを探す。衝突したことが明らかにわかったので、その状態を見るフェーズに移った。SCIを衝突させる運用としては成功と判定したということ。

くさか:率直な所感は

津田:たいへん興奮している。一発もの、やってみなければわからない、くり返しがきかない運用ですから非常に綿密に、それこそ7年間かけて計画してきた。打ち上げてリュウグウに着いたあともいろいろな検討を進めてきた。それらをすべて整合した形で計画通りにできた。
予定した地点に衝突の反応が観測できている。これ以上望むものはない成功だと思っています。

毎日新聞永山:佐伯さんに。SCIの開発は短期間の新規開発で大変だったと思う。打ち上げ後は訓練の設計もするなど二足のわらじをはいて今日SCIが無事起動し探査機も順調に運用できた。その感想を

佐伯:開発時はSCIの開発に注力させてもらい、打ち上げ後はプロジェクトエンジニアとして探査機全体のことを考えなければならない立場に変わった。
衝突装置としてはイケイケでどんどんやっていきたいが、一方で探査機の安全も最優先に考えなければならない。両肩にずっと重荷が乗っていたがこれがとれたかなと思っている。心からほっとしている。

永山:この経験で佐伯さんが学んだことは

佐伯:この手の大きなミッションは一人ではできない。自分一人でできることは限られていて、それをチームで分けあって進めることが大事。そういうことをうまくやっていけばこういう成果が出ると自信がついた。

永山:DCAM3は当初アナログカメラのみの予定だったのがデジタルを加えて、さらにきれいな画像が期待できる。DCAM3の位置づけ、意義について改めて

荒川:DCAM3はSCIが衝突したところをアナログカメラで確認するという目的だった。わたしがメンバーに入り、高解像度で見ることでさらに高いレベルでサイエンスのアウトプットを得ることができる、科学的な貢献のために無理を言って作ってもらった。
当初の科学的検討では、こんなにりっぱなイジェクターカーテンが見えると想定していなかった。今回とてもいいものが見られたが、場合によってはもっと小さくアナログでは見づらいだろうということもあってデジタルも作ってもらった。
結果的にはアナログカメラでここまで(きれいに)見えるのだから、デジタルでは数倍高解像度でクリアな画像が見られるだろう。科学研究に十二分な成果を得られるのではないか。期待している。

澤田:過去にDCAM3を取材してくださった方はよくご存知と思いますが、非常に苦しかったというか泣きそうになりながら作った機器。はやぶさ2のミッション機器の中で一番開発期間が短いのではないか。
今は荒川先生の人柄も研究に対するまじめさもよくわかっているが、開発している当時は「なぜこの時期に(機能の追加を)!?」とずっと思っていた。苦しんで開発して、しかも打ち上げたあとは状態がまったくわからず、今日本番を迎えるまでずっとモヤモヤした気持ちがあって…。
あまり多く語っていると涙ぐんでくるのでやめますが、本当に電波が受かったときはうれしかったですね。使命を果たせたというか。
工学実験としてはゼロ/イチで、当たったか当たらないか、その画像を撮ればいいと思って作っていたので、それは使命を果たせた。それプラスDCAM3にデジタル系も持ってきて、これ(アナログの写真)を見る限りすばらしい画像を撮っているはずなので、有名な論文誌の表紙を飾ってくれるように期待している。
肩の荷が下りたどころではなく、4年間ずっと不安でモヤモヤしてきたものがすっきりしてよかった。

ライターあらふね:SCI運用ではやぶさ2の独自ミッションが成功した。初号機を超えたといっていいのか。どんな感想か

津田:SCI運用は初号機を含めどこでも考えられたことがない、はやぶさ2でまったく新しく検討され搭載された運用、機能だった。新しいチャレンジの部分と初号機から受け継いだ部分、やり直さなければならない部分などいろいろな使命があった。その中でSCI運用はチャレンジの部分が実った成功だと考えている。
運用の成功は初号機を含む過去のたくさんの宇宙探査ミッションの土台の上に立っている。その上に新しい橋頭堡きょうとうほを作れたというのは、はやぶさ2として誇れる成果だと思っている。

あらふね:DCAM3の映像はきれいに噴出物が出ている。この段階でどんなことがいえるか

荒川:推測で言うのは科学者としてはよくないが、今日はこういうめでたい日なので少し言わせてもらう。まず右側がけっこうはっきりと見えていて、左側が薄く見えているのが特徴。室内で衝突実験をするとラッパ型のイジェクターカーテンになるが写真では片側が見えていない。局所的に斜めの場所に当たってこのようになったか、太陽光の加減で片方だけが濃く見えているかもしれない。3つめに面白い仮説がある。きれいなイジェクターカーテンが出ている側は小さい粒子が噴き出ているということ。砂礫や大きなボルダーではない。一方左側には大きなボルダーがあってイジェクターカーテンの生成が妨げられている、不均一性を表しているという仮説。
リュウグウ表面と内部の不均一性もあって、表面はボルダーだが内部には細かい粒子があるためにはっきりした大きい(数十メートルの)イジェクターカーテンができたかもしれない。
クレーターができたかはまだわからず、ONC-W1で観測してはっきりさせたい。科学者としてこれまでの経験からいうと、ボルダーが壊れただけではこういうきれいなイジェクターカーテンはできない。人工クレーターができた確率は高いのではないかと一個人としては思う。

あらふね:はやぶさ2に声をかけるとしたら

津田:生きててよかったなと声をかけたい。

フリーランス秋山:これから出てくるデジタル画像は衝突の前後どのくらいの時間撮れていそうか

澤田:DCAM3はSCIが作動する5分前から撮り始める。アナログ系はSCI作動から15分後には止めるが、デジタルは電池が終わるまで観測し続ける。電池は地上試験では一番いいときで4時間、通常3時間くらいだった。実際は4時間以上生き続けていて、自分がここに来るときはまだDCAM3は画像を送り続けていた。画像はたくさん撮れた。視野もアナログ系と同じほうを向いているので、この写真と同じものが高解像度で撮れているはず。画像が下りてくるのを楽しみにしている。

秋山:イジェクターに速度の違いがあったり根元の形が空気中と真空中では異なるなどといった話を聞いた。現時点でいえることは感想レベルであるか

荒川:写真では高速で出ている破片が見えていてたぶん毎秒数十メートルと思う。低速の破片が出ているかどうかはこの写真ではわからない。微小重力の影響やリュウグウに特有の特徴は今後時間がたってイジェクターカーテンの形状の変化を追いかけるとわかるだろう。
SCIが当たったところの不均一性によってイジェクターカーテンの濃いところと薄いところができている。

秋山:イジェクターカーテンが形状を保っている時間はどのくらいか

荒川:リュウグウの重力は地球の10万分の1ですからかなり長時間形状を維持するはず。ただイジェクターカーテンが成長すると密度が下がり、カメラに写りにくくなる。見える場所は太陽光がよく散乱する場所。根っこは形が変わらず上は薄くなって見えづらくなる。数分くらいは形状を保っているのではないか。

NHK水野:イジェクターは高さと幅はどのくらいか。ごつごつの岩なのか、砂のような細かいものか

荒川:計測前だが高さは70~80メートルと思う。それ以上のことはこの画像だけからはわからない。

澤田:この画像はSCIが作動してから1秒から2秒くらいで撮影したもの。その短時間でこれだけのものが出ている。

水野:「探査の新しい手法を確立した」というのは、探査機本体をぶつけなくてもこのような衝突体をぶつけることで天体の内部を調べられるということか

津田:そういう意味もあるが、ほかの惑星に行って穴を掘削することが初めてと考えている。小惑星へ行ってその地下状態を調べるために穴を掘る、その手段としてSCI運用をしている。その動作が確認できたことを言った。

水野:これまでも探査機をぶつけるなどの方法があったと思う。SCIを使うメリットは

津田:掘削後も探査機が生きているということ。探査機が戻ってきて、じっくり時間をかけて観測できる。調べたことをもとに別の調べ方も含めて…調べてみないと次にどう調べればいいかわからない部分もあるので、そういうことができる状態を作れた。

NHKたかい:目隠ししてやぶさめ、難しいプロジェクトだったと思うがチームに対してどう感じているか。チーム内で喜びをどうわかちあったか

津田:今回は記者会見としてはたくさんのメンバーを出させてもらっているが、たくさんのメンバーが非常にいいチームワークでやってきたためになしえたことと思う。高度20キロから500メートルまで持って行くのは姿勢系担当の三桝など。全体の手順の統括はシステム系の武井。SCIやDCAM3を作るところは佐伯や荒川先生、澤田。佐伯は全体の統括も二足のわらじで。
こういうそれぞれまったく違った専門性を持ったメンバーが、有機的にコミュニケーションよくできる状況で今日にピークを持ってくることができた。
いいチームワークを成長させている、これがはやぶさ2プロジェクトチームの強み。
今回はタッチダウンと異なり、明らかな成功判定ができる情報がなかった。探査機がSCIやDCAM3を分離したところでそれぞれの担当は喜んでいた。次に探査機が安全な場所へ退避したところで三桝は仕事が終わったような感じに。そのあとSCIの分離画像が出てきたときチームは大きくわき上がった。
一番のピークは今日撮れるか、期待が五分五分以下だった画像、ベストオブベストのシナリオならもしかしたら撮れるかもと考えていた画像が不意打ちのように出てきた。
画像解析は、登壇者の中では荒川先生しかいない別室でしている。その部屋にいるプロジェクトサイエンティストの渡邉先生から「なんか見えてるよ」という一報が来た。管制室のメンバーが「本当か」とみんなでそちらへ移動し確認、大きな歓喜の渦がわき上がった。プロジェクトとしては大きなマイルストーンで、一時運用を忘れるすばらしいひとときだった。

時事通信かんだ:クレーターを確認しタッチダウンすると思うが、プロジェクトとしての考えは

津田:プロジェクトとしては計画通り淡々と進めていく。SCI運用が成功したので考えていたシナリオの一つが自動的に決まった。3週間後にクレーター付近の探索運用を行う。
はやぶさ2はいま初めて小惑星の裏側にいる。そこから2週間ちょっとかけてホームポジションへ戻る。今までにない誘導の運用を行う。
クレーターが見つかったら着陸に適しているか、クレーターそのものに着陸しなくても、噴出物があると思われるいい場所がないかを探す。
その上で最初のタッチダウンと同じようにターゲットマーカを置くか、リハーサルを行うかなどを決めていく。
はやぶさ2の内部には第1回のタッチダウンでサンプリングしたサンプルがある。探査機の価値が上がっている状態。どのリスクを許容して、着陸をするかしないかも含めてプロジェクト内外のメンバーで考えていきたい。

かんだ:タッチダウンするかどうかは別として接近観測でどういう結果が出たかが興味深いと思う。吉川先生の考えは

吉川:これまでも何回か記者説明会で「どのくらいのクレーターができるか」という質問には「わからない、あまり大きなものはできないのではないか」と答えてきた。
しかしこの画像を見ると表面に大きな変化があったことを期待できそう。本当に楽しみ。すぐにでもそばへ行って確かめたいくらい。
科学的な鑑定についても荒川先生をはじめグループの科学者で世界最先端の解析をお願いしたい。
個人的にはどんな形のクレーターができたのか、イジェクターがどのようにばらまかれたのかを一刻も早く見たい。

ライター林:佐伯さんに。今年1月号のISASニュースで「小惑星に穴を開ける前に自分の胃に穴が開きそう」と書いていた。胃に穴が開くほどの思いをする一番大変だったことはなにか

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【PDF】2019年1月号(No.454)p5「リュウグウの乙姫殿、お宝をいただきます。近日参上『はやぶさ2』」連載第10回

※強調は引用者による

佐伯:この運用の難しさはやり直しがきかないこと。タッチダウンでは探査機が危険と判断すれば上がってくれば探査機を守ることができる。SCI運用はいったん衝突装置を分離したら安全な場所へ逃げるほかない。そこがプレッシャーになっていた。
衝突装置の開発担当としては、SCIはずっと寝かせておく。DCAM3と異なり動作チェックはできるが火をつけるわけにはいかないのでちゃんと分離してくれるか、ちゃんと点火してくれるかというのが今日の一発勝負だった。いろいろなことを考えて…自分はネガティブな人間で夕べも眠れないくらいだったので、胃に穴が開く前に運用を成功できてよかった。

林:荒川先生は7年間にシミュレーションを数百回してきた経験と最初のタッチダウンから、今日の運用結果をどう予想していたか、結果はどうか

荒川:今はこの画像一枚なので結果がどうだったかは言いづらいが、リュウグウの表面はボルダーだらけなので当初はインパクターが当たっても岩が壊れるだけでイジェクターカーテンは見えないのではないか、薄くて速いイジェクターになるのではと考えていた。
タッチダウン時に弾丸を撃つとボルダーが粉々に壊れてたくさんの噴出物が撮影された。はやぶさ2が上昇するスラスター噴射で、かなり多くの破片が舞い上がった。表面は非常に流動的で動きやすい、ボルダーは強度が低くもろいのではないかと考えた。室内実験の経験からいうと、ボルダーがあっても容易に破砕され、衝撃によって周囲のボルダーが微小重力下でかなり舞い上がり、大きなクレーターができるのではないかと期待した。
結果としてああいった立派なイジェクターカーテンが見えたため、サイエンス担当としてはクレーターの観測やDCAM3の画像のダウンリンクに期待している。

林:画像はSCIが起爆して1~2秒後とのことだが、イジェクターカーテンはここからもっと成長すると考えられるのか

荒川:はい。重力が弱いのでイジェクターカーテンはもっと成長して、速度が遅い物質が噴き出してくることを期待している。この先何十秒かこのような噴出が続き、さらに大きくなる。粒子が大きくなると見えづらくなるのでどこまで見えるかわからないが。

林:大きくなるのは面積が横に広がるのか、高さも高くなるのか

荒川:全体的に高さも広がりも大きくなっていく。ただし見える場所は限られる。

林:1~2秒後の噴出物としては予想より大きかったのか

荒川:初期にゴツゴツして硬い岩でおおわれていると想定したときに考えたものよりはくっきり、はっきり見えている。

林:衝突場所は想定通りだったか

三桝:高度500メートルでSCIを分離していて速報値としては数メートルの精度で誘導できていた。

津田:噴出物が出ている場所はリッジの山の少し北側(画像では右側)。緯度6度を狙ってSCIを射出している。リッジは緯度0度。そこから少し北に当たっている。詳細な計測はこれからだが、狙った位置へ正確に行ったことが期待される。

読売新聞とみやま:衝突装置は初号機になくはやぶさ2に独自の装置。今回で名実ともに初号機を超えたといえるか

津田:超えたというよりは…はやぶさの土台の上にはやぶさ2として方向性を示し、ミッションを果たすことができたという思いが強い。はやぶさは新しい世界を開いたように、はやぶさ2もオリジナルで別の新しい世界を開けたと思っている。

とみやま:NASAディープインパクトで衝突装置を打ち込んだが、今回衝突装置の運用に成功したことが日本の探査技術の高さを示しているか

津田:ディープインパクトもすごいミッションで、同じ宇宙探査の技術者として非常に勉強させてもらった。我々はまったく違う手法で、利点も欠点もあるが我々なりに穴を掘る条件を満たす技術はSCIだと思ってやってきた。SCIの技術に追加して当時はオプションとしていたDCAMの技術もはやぶさ2向けにアレンジして、SCIとDCAM3の技術のセットでいち早く穴を作ることの確認ができ、かつ次の運用につなげられた。このあと調査するべきことがたくさんできた。これが我々にとっては非常にうれしいこと。誇れる結果だと思う。

NVSさいとう:現在出ているDCAM3の画像は今までのものより色が乗っていると感じる。カラーなのか

澤田:DCAM3のアナログ系カメラはCAM-Hと同じカラーカメラを使っていて、伝送がアナログテレビと同じ方式。受信して静止画にするときいろいろな処理が入っている。ここに出ている色がそのままリュウグウの色というわけではなく、色補正は解析が必要。
デジタルカメラは白黒。

さいとう:この画像の色は偽色?

澤田:正しい色を表しているわけではなく、形状を見てほしい。

さいとう:今まで太陽を背後にした写真ばかりだったので新鮮。はやぶさ2本体でリュウグウを側面方向から撮影するようなことは考えているか

津田:それは興味があるところだが今のところ計画はない。ただし横から見るとわかることがあるし、この画像は魅力的。今後11月までの滞在運用でなにをするかは議論していくが、この画像からなにをするかはチーム内でも考えていきたい。

ニッボン放送はたなか:津田さんはリュウグウが牙をむいてきたと語ってきた。今回のハードルを越えてきて認識はどう変わったか

津田:自然のものなので向こうが変わったわけではないが、半年以上滞在してだいぶ慣れてきた。牙は依然とがっているが見慣れてきた。取り扱い方がわかってきた。今後はクレーター付近に着陸できるか検討していく。隠れた牙がないかしっかり調べていきたい。

はたなか:配布された画像の中に黒い大きなだるまがあったが、目はいつ入れるのか

広報:このあとこの場で入れさせていただきます。

(以上)