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明治大学でナムコの開発資料を見る

これらの資料は2018年11月23日、明治大学アカデミックフェス2018で一般公開される。おそらく世界初のお披露目だ。往年のゲームに興味のある人は、自身の目で資料を見てみてほしい。

『マッピー』『ゼビウス』…… 日本ゲーム史の資料が散逸の危機 - 日経トレンディネット

これを読んで、いてもたってもいられず明治大学へ行ってきた。展示のタイトルは「『パックマン』『マッピー』とナムコ・アーカイビング小展〜ゲーム研究の基盤整備のために」。

会場には「パックマン」と「マッピー」のアップライト筐体が設置され、自由に遊ぶことができた。パックマンを遊んでみたら3面くらいまでで終わった。プレイ時間は短かったがちゃんと楽しく、「こうすればもっと続けられたかも」という感触もあり、もう一度遊びたくなった。いいゲームはそういうところが優れている。

展示を解説していたのは岸本好弘(KISSY)氏と兵藤岳史氏が中心で、当日飛び入りで佐藤英治氏も加わった。佐藤氏は自分で保管していた「マッピー」の資料を持参した。

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(左から佐藤氏、岸本氏、兵藤氏)

トークセッション「ビデオゲーム黎明期の開発資料を紐解く———ナムコ開発資料のアーカイブ化とその活用」ではまず、兵藤氏がプレゼン資料を用いて発表を行った。

これはCEDECで兵藤氏が発表した際と同じ資料ということで、CEDECでの発表についての記事をご紹介。

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以下、トークセッション内や直接聞いた内容を箇条書きで。

マッピー」について

  • マッピーは佐藤英治氏がナムコで最初に手がけたゲーム。
  • マッピーの企画時タイトルは「パニックハウス」。
  • 当初の企画書ではトランポリンがなく、階段で階を上下する構想だった。しかし課長が「開発に入ってよい」のハンコを捺してくれない。会議を重ねて1週間後、トランポリンのアイデアを盛り込んだ企画書を提出しハンコをもらった。
  • 印象的なBGMはプログラムの前に完成していた。新しい曲が流れているとほかの社員が「おっ、新しいゲームができてるの?」とのぞきに来る。まだ曲だけと知るとがっかりしていた。
  • マッピーのBGMを作った大野木宣幸氏はナムコプログラマーとして入社したのち音楽担当に。作曲は独学。このあと入社した慶野由利子氏(「ゼビウス」や「ドラゴンバスター」などのBGMを担当)は絶対音感の持ち主で、東京藝大で音楽を専攻していた。マッピーのBGMはいろいろと「ありえない」らしく、慶野氏はあまり聴きたい曲ではないらしい。
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    このドット絵は佐藤氏が自分で描いたもの。マッピーは完成したものに近いが猫の敵キャラはずいぶん異なる。「Mr. ドットマン」こと小野浩氏にクリーンアップをお願いした。
  • ボーナスステージは企画書にはなかったが、ある日佐藤氏が出社すると「作っておいたよー」と言われた。
  • テストプレイではプレイ時間が長くなりがちと指摘された。ゲームセンターに設置するゲームは1コインで満足させつつ、長時間のプレイにならない工夫が必要。苦肉の策で「ご先祖様」という永久パターン防止キャラを出すことにした。1ステージで時間がかかりすぎると登場し、マッピーへまっすぐ向かってくる。マッピーがご先祖様に触れるとミスになる。「でも本当は、こういうしくみがなくても成立するゲームデザインにしなければいけない。悪い先例を作ってしまった」。
  • 開発の終盤になって、ベルや落とし穴などの要素を追加した。この段階ではドット絵を入れる領域の空きが少なく、ベルは少し傾いた絵を1枚だけ用意し左右反転させて動きを表現した。落とし穴に至っては単なる色のついた床になった。
  • 日本のゲームセンターは1コイン100円か50円だが、アメリカでは1コインが25セント。海外での販売に際してはプレイ時間を短くするため難しくしてくれと言われた。イタリアは1コイン10円ほど。ありえないほどの難しさにして、文句を言われるかと思ったら「これでよい」と言われた。
  • 当時の開発は紙ベースで行われており、混乱を避けるため開発が進んで古くなった資料はまめにシュレッダーにかけていた。ある日退社前にシュレッダーを使おうとしたが、開発室に1台しかないシュレッダーには行列ができていた。待つのがいやで、不要になった資料は持ち帰った(←現代のコンプライアンスでは考えられないね)。でもそれでたまたま残った資料が今こうして貴重なものになった。

ドラゴンバスター」について

インカム(ゲームセンターのゲームの売上)について

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    マッピーロケテスト(試作品をゲームセンターに置いて反応を調査する)での売上を見ると、当時大人気だった「ゼビウス」と比べてレースゲームの「ポールポジション」が1.5倍から2倍ほどの数字を出している。これはポールポジションのプレイ時間が短かったから。
  • ゲームセンターのゲームは遊ばれないとお店の収入がない。遊ばれる面白さが必要だが1コインでのプレイ時間は短いほうがインカムが高くなる。いかに短い時間で満足感を与えられるかが大事。ナムコのゲームは1プレイが長くなりがちと言われていた。プレイ時間を短くさせたい営業と抵抗する開発の攻防もあった。
  • アタリの「ガントレット」はなにもしなくても自分の体力(Health)が少しずつ減っていくゲーム。コインを追加すると体力が増える。セガの「ゲイングランド」はそういう連コインでのプレイを目指して作られた。
    • (でもこれは1コイン25セントのアメリカで作られたゲームを1コイン50円~100円の日本で展開する難しさがあると思う)
  • トイポップ」は人形が動き出しておもちゃの国で敵を倒すゲーム。プレイヤーキャラクターは男の子の「ピノ」(ピノキオからつけた)と女の子の「アチャ」(赤ずきんからつけた)で、2人同時プレイが可能。カップルでゲームセンターに来て2人でプレイし、女の子が「終わっちゃったー」となったら男の子が「じゃあコインを入れてあげるよ」となってインカムが高くなるのを期待した。

海外のゲーム研究の充実について

  • ロチェスター工科大学ビデオゲームを研究している。資料を大量に収集していて分類・整理している。ファミコンソフトはほぼ全部、ゲーム筐体きょうたいも豊富に所有。ピンボールは専属の整備士が雇われていて動態保存されている。ナムコの開発資料を「うちで引き取りますよ」と言われたが海外へ渡ってしまうことになる。国内でなんとかできないかと考えている。

ファンとの交流について

  • ナムコのゲームのアンケートはがき(コンシューマー版のことと思われる)は料金後納郵便ではなく、出すのに切手が必要だった。切手代を負担してでも言いたいことがある人がはがきをくれた。
    • (公開されていたリッジレーサーの資料の中に、「絶対に読んでください、捨てないでください」と書かれた封筒が挟まっていた。中身は入っていなかった。岸本氏「こういうのが来るんですよ。ここにあるということはアイデアが採用されたんでしょう」。)
  • SNSどころかインターネットすらない時代、攻略法や「自分ならこうする」のアイデアナムコに送られてきた。佐藤氏「はがきをくれた中にはのちにナムコに入って自分の部下になった人もいる」。
  • ロケテストは一日中ゲーム台の後ろにはりついて記録を取る。トイレもタイミングを見て。大変だったがプレイヤーから直接意見を聞くこともある。開発の建物の中で作っていると生の意見を聞ける機会があるのがよかった。

質疑応答から

  • デッドコピーのゲーム(「ゼビウス」ではない「ゼビオス」など。ビデオゲームが著作物と認められる前の話)の情報は法務が持っているかもしれない。
  • ゲームセンター内の写真や映像を収集したい。持っている方はご連絡ください。
  • (開催中の「あそぶ!ゲーム展」の担当者から)海外のゲーム研究は資料目録のデータセットが標準化されている。日本は明治大学のほかいくつかの大学が目録を作っているがデータセットがばらばら。海外の標準に合わせて目録を作ることで日本以外でも研究が進むだろう。

今後の展開は今日の反応を見て、という感じだった。「誰も来なかったらどうしようと思っていたが150人以上来てくれてよかった」とのこと。当時のナムコはほかのビデオゲームメーカーと全然違って輝いていたから、資料を見たい人は潜在的にはもっとたくさんいるはず。物理的な本にすると原価が高いから、そのままPDFにして電子版を販売してほしい。

ナムコの90年代までの開発資料といえば貴重な文化遺産である。うまく活用されることを期待したい。(大好きな「アサルト」の資料もちゃんとあるそうで、見られる機会があったらいいな)

アーカイブプロジェクトのページはfacebook内にある。

当日のツイートをまとめた。

また、ナムコだけでなくタイトーも過去の開発資料をまとめる方針だそうだ。セガコナミなどにもがんばってもらいたい。

あとTwitterハッシュタグを決めるとよさそう(とTogetterでまとめていて思った)。「#ビデオゲーム開発資料アーカイブ」とか。

関連リンク

(11月24日)