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観測ロケット「MOMO」初号機の打上げ実験実施に関する記者会見

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ランチャー上のMOMO(CG合成)[提供:インターステラテクノロジズ

開催概要

開催日時

  • 2017年7月6日(木)15:30~16:30(受付開始:14:30)

開催場所

  • 株式会社DMM.com本社ホール(東京都港区六本木三丁目2番1号 住友不動産六本木グランドタワー24階)

内容

  • 打上げ実験実施に関する発表 他

出席者名

参考リンク

打ち上げ見学

※チケットは大人4,800円、子供2,400円、駐車料金1台1,000円

概要説明(稲川)


本日はお集まりいただきありがとうございます。観測ロケット「MOMO」の打ち上げ実験を行うのでその概要と日程などを発表します。

ISTは北海道の大樹町に本社、社員14名。南十勝の海側。酪農の盛んな地域。2006年から宇宙事業を始めている。

これまでの宇宙開発はとにかく高性能を求めていたと考える。ユーザーにとって宇宙にアクセスしやすくしようとすると宇宙への輸送機械のコストを下げることがなにより大事。コンセプトとしては最高性能のフェラーリからホンダのスーパーカブ、量産されていて使いやすいロケットをと開発している。

会社の事業は2つある。まず観測ロケット「MOMO」。2017年7月打ち上げ予定。その先には超小型人工衛星用ロケットの打ち上げサービス。2016年から基礎開発開始。

観測ロケットと衛星ロケットの違いについて。観測ロケットは高度100キロ~。高度100キロからが一般的に宇宙空間とされる。そこへロケットを飛ばす。100キロへ上がってすぐ降りてくる。衛星用ロケットはもっと高度が上がって、たとえば高度500キロの地球低軌道を周回する。

打ち上げ実績。大樹町で2011年3月から実験を行ってきた。エンジンの開発、パラシュートの試験、海への打ち上げのオペレーションなど技術を蓄積してきた。ポッキーロケットという商業打ち上げもあった。

2015年夏から観測ロケット「MOMO」用エンジンを開発。一部を経済産業省の委託事業として。

エンジン内部図解。燃料(エタノール)と酸化剤(液体酸素)を燃やす。ピントル型インジェクター(噴射器)を使用。安価で実績があるシステム。

(燃焼実験の動画紹介)

推力1トン超の燃焼試験を50回、小規模の燃焼試験は100回以上。異常燃焼は4回。不具合を解決してきた。

技術開発では試行錯誤が早いこと、くり返すことが重要。ベンチャーで身軽、大樹町の協力もあり実験環境がよい。

(問題を解決したエンジンの燃焼試験。80秒燃焼の動画紹介)

周りに見える炎は設計通り。周囲の断熱剤を燃やしながら燃焼する。

開発が完了し製造に入った。ミッションマークはマンガ家のあさりよしとお先生デザイン。

実験項目は宇宙空間への到達実証、機体・エンジンの実証、姿勢制御実証、通信の実証など。

商業化後のアプリケーションとしては微小重力環境での科学実験、高層大気の観測、イベント/エンターテインメント。

MOMOの諸元。

推進方式 液体燃料ロケット
エンジンサイクル ガス圧送式
燃料 液体酸素
加圧ガス ヘリウム
エンジン冷却 アブレーション冷却
推力 12kN(1.2トン)
全備重量 1,150kg
機体直径 500mm
目標到達高度 100km
初号機ペイロード 自社開発の微小重力環境測定装置、通信試験装置

シンプルな構成を目指す。汎用的な部品を採用、高い内製率。短期間での打ち上げ、一桁安い打ち上げ費用を実現。

実験シーケンス。

燃焼時間120秒、高度40キロ程度まで。そのまま慣性で高度100キロへ。フリーフライトで水平距離50キロほどへ落下。実験全体は約7分。無重力環境を得られるのは約4分。

メインスポンサーはDMM.com。またCAMPFIREというクラウドファンディングで735名のパトロン(出資者)。2,700万円を調達。

打ち上げ発射ボタンを押す権利を1,000万円で購入したか

打ち上げ実験の予定日は7月29日(土)午前10時20分~12時半。予備日程は同日の1545~1700、7月30日(日)の0500~0800、1020~1230、1545~1700。気象条件や準備状況で延期も。

特別見学会場「SKY HILLS」。打ち上げをきれいに見られる唯一の場所を用意している。チケットをPeatixで販売。パブリックビューイングの場所も設定。無料で見られる。(ロケットの射点は見えないが)

ゲストからのコメント

堀江:ロケットを始めて10年以上。ようやく宇宙へ到達できるめどが立った。最終的な製造技術などでうまくいかない部分もあったりして延期に次ぐ延期でやきもきした。しかしながらついに技術的な問題はほぼクリアできた。あとは天気次第、若干スタッフが頑張って体に問題がない範囲でがんばるひと月になる。大きな問題がない限り7月末に打ち上げられるだろう。しかしながらロケット開発は事故や失敗がつきもの。事故に関してはけがなどないよう細心の注意を払って行う。それ以外に予期しない問題で失敗する可能性も。うまくいかなくてもあきらめず2号機、3号機は宇宙空間に到達するだろう。これはベンチャー企業で言うデスバレー、最初に超えなければならない場所。これを超えれば人工衛星を打ち上げる技術を手に入れることになる。その大きなステップ。
日本においてもロケット大国になれるポテンシャルを持っていることは間違いない。北朝鮮のミサイルを見ても、あれは地理的条件で日本に向けて打つしかない。日本は太平洋が開けていて人がいないメリットがある。比較的安全にロケットを打ち上げられる。
最先端技術の集合体であり軍事とも密接に関わる。輸出規制が関わることもある。国内生産が大事。国内産業の発展の嚆矢になればよい。
このロケットにパワーをかけている。期待しつつ大樹町に来てほしい。ロケットの打ち上げは安全距離をとると見え方は同じ。迫力的には大きいロケットと変わらない。(小さいロケットは近くで見られるので)
宇宙へ行くぞという高揚感を得られるだろう。見に来てください。

せりざわ(ロケットの発射ボタンを押す権利を1,000万で購入):ニーズコーポレーションを経営。建築・不動産の会社。会社からもISTへ出資している。
この発射ボタンに価値を感じてポチった。約1年前。延期で首を長くして待っていた。いよいよで非常に喜んでいる。
懸念は仮に想定外のことがあって実験が失敗したとき絶対堀江さんに責められるだろうということ。「押し方が悪かった」など。稲川社長にはがんばっていただいて万全でお願いしたい。

DMM松栄:DMMがなぜロケットをと思うかもしれない。堀江さんと初めて会ったのは20年前。DMMのオーナーは宇宙へ行く契約をロシアとしていた(があきらめた)。宇宙観光も申し込んでいる(が音沙汰なし)。もしかしたら堀江さんが宇宙へ行けるようにするかもと話したところ自分が行くのではなく出資で、ということだった。
日本初の民間宇宙ロケットということでうまくいってほしい。ボタンの押し方には気をつけてください(笑い)。

丸紅岡崎:昨年1月の発表:インターステラテクノロジズへ調査研究費の拠出、サービス販売の業務提携。ISTの新株取得。
将来性に着目した。観測ロケットの初号機が飛ぶことで事業化へ一歩前進。たいへん嬉しい。
衛星関連の展示会やカンファレンスに出席すると潜在顧客からの期待が高いことを実感。
今回の打ち上げがうまくいけば衛星打ち上げの開発にもはずみになるだろう。無事に成功することを祈っている。

HASTIC伊藤:HASTICは2002年くらいから活動。北海道にロケットの発射場を設けたいと活動している。活動自体は35年くらい前から。稲川社長が生まれる前。ついにということで期待している。
北海道に射場を作ってといっても経験がなく、自分たちでなんとか実績を作ろうとHASTICを設立、CAMUIロケットが進んだころに堀江さんから話があった。競争はとてもよいこと。CAMUIより新しいのに一足飛びでここまできた。
人工衛星を作るのは大学の研究室でもできる時代だがロケットをイチからやろうというのはなかなか難しく国内でも2か所(ISTとCAMUI)しかない。いかに難しいか。
小さいロケットだが50回ぐらい実験の世話をして、ISTという名前になるまえからなにかあったら腹をくくる仕事をしてきた。
ここまで腹をくくってやってきたということで6割から7割。残り30%は実際に打ち上げがうまくいくか。成功を祈っている。

経済産業省靏田:経産省としてはぜひ成功してほしい。宇宙産業室長として着任以来レクチャーを最初にいただいたのがこのロケットだった。
何度か不具合で延期しているが失敗はつきもの。それを乗り越えて7月末の打ち上げになった。周囲のご協力に感謝と敬意。
大樹町にも行き、町工場で油まみれで取り組んでいるところを拝見。大樹町の方々の熱意も感じた。成功するだろう。
宇宙については身近に感じるかも知れないがまだまだ遠い。宇宙に近づく手段がないから。今回のプロジェクトが成功すれば宇宙産業のランドスケープを一変させるだろう。
民生品を使ったロケットの支援をしている。
5月に日本政府では宇宙産業ビジョン2030を策定。宇宙から降ってくるデータが増えている。小型化が進み数が増えている。社会や経済を変えるものになるだろう。そのうち上げ手段が不足しているのが現状。ISTのロケットはそれを変える取り組み。
引き続きご支援申し上げていきたい。

取材予定の説明

プレス公開日

7月13日(木)
組立棟公開
7月26日(水)
リハーサル公開
7月30日(土)
打ち上げ公開

プレスエリア概要。パブリックビューイングの航空公園でも取材可能。

現地取材の注意点

  • 取材は事前登録必須
  • ほかの射点を望める場所は私有地や町有地。伝染病予防の観点からも無断の立ち入りは絶対禁止

質疑応答

NHKすずき:稲川さん。民間独自開発で宇宙空間へ。国家開発だったものがなぜベンチャーでできるようになったのか。またその意義は。

稲川:アメリカでは10年以上前から民間がシェアを取るようになってきた。技術開発が進むことで、人工衛星の軌道投入くらいなら民間でできるようになってきた。
アメリカでは人工衛星の打ち上げやISSへのドッキングなども民間企業が行っている。半導体の進化のおかげが大きい。アビオニクスの入手性が上がり開発が比較的簡単になってきた。
日本では東大に始まる宇宙研、それからNASDAが宇宙ロケットを上げてきた。これまでは宇宙開発と言っても大気圏内だった。民間のロケット会社として実際に宇宙へ行くことは意義が大きい。宇宙産業全体としてもベンチャー企業がたくさん出てきている。輸送系で我々が実績を積んでいくことはおおきな意義がある。

すずき:打ち上げへの意気込みを。

稲川:ロケットは難しいと実感してきたところ。机上の計算があっても実際に作るのは大変。このあとどんな不具合が起きるかも読めない。実際にもの作りをしているメーカーとして丁寧な仕事をしていきたい。

すずき:どんな結果を期待しているか。

稲川:メインの仕事は衛星打ち上げ。そこへの第一歩。

TBS:堀江さんに、将来的なビジョンを。

堀江:まずはこれを成功させてサブオービタルのロケットをたくさん打ち上げて事業化していきたい。ファイナンス的な部分もある。
2号機3号機を上げてなるべく早く商業化し軌道に乗せる。それで銀行からの融資を受けやすくなるし政府から予算が付くかもしれない。それが第一歩。
今も開発している軌道投入用ロケットを早期に開発したい。資金と人員が必要。人材と資金の確保のためにたくさん露出することが重要。
無人ロケットとしては月や小惑星、さらには地球周回軌道からさらに遠くへの輸送システムを作りたい。
主に小惑星を狙っていきたい。大型化を進めてサブオービタル、またオービタルに人を運びたい。さらには小惑星の資源を集め、太陽系から外に出るような探査機のシステムも作りたい。
地上から物資をなるべく安く遅れるシステムを作ることがミッション。それに向けて事業を進めていく。自分はPRや資金集めなどをしていく。

TBS:イーロン・マスクは月旅行を発表した。

堀江:イーロン・マスクのスペースX社は2007年にファルコン1を数機失敗してからうまくいった。我々は10年以上遅れている。ファルコン1から今のファルコン9が毎週のように打ち上がるようになるまで10年かかっていない。資金と人員が増えればそのうち追いつくのではないかと思ってまーす。

フリーランスすけよし:MOMOのネーミングの由来は。またPVのネット中継はあるか。

稲川:MOMOは漢字にすると「百」。高度100キロを超えるという意味。これまでのロケットはかわいらしい名前をつけてきた。「はるいちばん」「いちご」など。その流れでなじみやすい名前に。宇宙を身近にということで。
PVのネット中継は調整中。回線の確保といったこともある。改めて発表したい。

テレビ朝日経済部:MOMOのコンセプトは「世界最低性能」とあるが

堀江:フェラーリスーパーカブの比較があったがこれまでのロケットはオーバースペック。科学研究費の獲得のために新規性があるところに予算がつきやすい傾向があった。
ここ10年、15年で民間宇宙企業がしのぎを削っている。国対民間の受注競争が出てきている。スペースXは価格破壊。H-IIAの半額など。
ギリギリでも宇宙に行きさえすればよい。オーバースペックではなくギリギリを狙うことで安くするのがポイント。だからスーパーカブ。ここからここへ物資を運べるデバイス。その最低限の性能があるということ。
インターネットで言うならADSLが出てきて民間利用が普及した。そういった状況を作りたい。

NHKラジオセンターあらき:なぜ堀江さんがロケット? 10年前に開発に着目したのは何を見出したから?

堀江:自分にとっては自然なこと。インターネットに注目したのは20年前。コミュニケーションや社会のあり方を変えるもの。これに賭けずしてどうするという衝撃を受けた。
宇宙に関しても同じように思った。自分の世代は機動戦士ガンダム宇宙戦艦ヤマトスターウォーズなど宇宙SFを見て育った。大人になったら普通に宇宙へ行くと思っていたらそうなっていない。政府主導のオーバースペック競争で安くないことが問題だと思っていた。誰かやらないかと思っていたらなかなかないのでこれは自分で。
12~13年前、宇宙開発できるくらいの資金ができたと思っていたらイーロン・マスクジェフ・ベゾスなど世界のIT企業家が民間宇宙開発の可能性、自分たちがやらねばというミッションを感じて傾注していったと思う。グーグルの創業者もXプライズなどしている。
社会を変えてしまうような仕組みに飛びつく人種は宇宙にも飛びつく。とてもナチュラルな行動と思う。

日経新聞やの:稲川さんに数字の確認。打ち上げ費用を1桁下げるとは具体的に。いくらくらいで打ち上げられるようになるのか。また軌道投入ロケットはいつごろまでに完成?

稲川:JAXAの観測ロケットは正確な数字は非公開だが2億円~7億円ほどと聞いている。我々も非公開だが一桁下げる。プロモーションの有無などさまざまなオプションはあるが5,000万円以下、数千万円の前半でサービスしたい。
軌道投入ロケットはなるべく早く。国際的な競争にもなっている。ロケットラボなど実験を行っている。複数の会社がしのぎを削っている。小型の宇宙ロケットはここ数年で商業化が進むだろう。2020年ごろには商業打ち上げを目指したい。

(以上)

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MOMOモックアップ[提供:インターステラテクノロジズ