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Replicator2のエクストルーダをアップグレードする

Replicatorのエクストルーダ(樹脂送り器)には初期型と後期型がある。初期型のエクストルーダは構造があまりよくなくて、樹脂のフィラメントがうまく出なくなることが多いらしい。

以下は公式の説明書の私訳。

「フィラメントが送り込まれるのを指で止められない程度に強く、しかしクリック音が出ない程度に弱く調整する」というのがなかなか微妙で難しい。

whpthomasさんというReplicatorユーザーがエクストルーダを改良するパーツをモデリングして、データをThingiverseにアップロードしている。

3Dプリンタを改良するパーツを3Dプリンタで出力するというのはなかなかサイバーでよい。

(ちなみに個人向けとして最初期に出た「RepRap」という3Dプリンタオープンソースハードウェアで、部品の多くを3Dプリンタで出力して作る。つまり自己増殖する3Dプリンタである)

この基本設計をもとにReplicatorのメーカーであるMakerbotがエクストルーダをアップデートしたため、後期型のエクストルーダは不具合が出にくくなった。それだけでなく、Makerbotは改良型エクストルーダのデータを初期型ユーザー向けに公開してくれている。

お借りしたReplicator2のエクストルーダは初期型だったため、これを改良型にアップグレードしてみた。

まずReplicator2でパーツを出力する。これがひと苦労だった。

Replicator2は公式にはABS樹脂の出力をサポートしていない。出力テーブルにヒートベッドが搭載されておらず、造形物が反りやすいからだ。しかしReplicator2がサポートしているPLA樹脂は熱に弱いとされる。エクストルーダの下にあるホットエンドは樹脂を200度以上の熱で溶かして先端からニョローと出す。そういうことをする機構のすぐ近くにPLAのパーツがあるのは不安と感じ、ABSを使うことにした。

しかしこれが大変で土台部分が反りまくり、出力の途中でテーブルからはがれてしまう。

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そうなるともはや造形が正常に進まないので出力を止めてやり直すことになる。出力するパーツのデータにMeshmixerでサポート(支え)をつけるときのパラメータを変えたり、Replicator側の設定を変えたりして何度もやり直した。

出力されたゴミの山。

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急激な温度低下を防ぐため、Replicator2全体をビニールやクリアファイルなどで囲んでみたりも。

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一番大きなパーツはこういう作りにしたところ、満足のいく精度で出力できた。

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パーツの向きは重要で、いくつか出すうちにこのReplicator2は向かって左側の面の精度が高く出ることが分かった。このパーツで最も精度が求められるのは、上の写真でいうと右上の面である。そちらが向かって左側になるよう出力ソフト(MakerWare)で配置した。

パーツの底面は反りによる変形が出るので、その影響が少なく、またサポートが少なくすむよう立てて出力することにした。

参考:パーツを出力する向きによって精度が大きく変わる例
写真の左側のパーツは立てた状態で、正面に見える面が左側になるよう配置して出力。右側のパーツは、写真で正面に見える面を下にして出力したため反りが入っている。
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パーツを囲むラフトは厚さ0.1ミリの直方体をモデリングしてたくさん配置した。パーツも少し浮かせて、Meshmixerでつけるサポートはデフォルトよりも少し太くしている。

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主要なパラメータ
  • Y-Offset:4mm
  • Post Diameter:2mm
  • Tip Diameter:0.8mm
  • Base Diameter:6mm

STLデータにMeshmixerでサポートをつける方法については以下が詳しい。

ほかの2つのパーツも、精度が必要な面と反りの影響が少ない向きを考慮した結果、使える程度の精度で3つのパーツを出力できた。

Replicatorで出力する以外に必要な部品は以下である。

ばね
外径0.360インチ(9ミリ)、内径0.276インチ(7ミリ), 自由長0.630インチ(16ミリ)、荷重32ポンド/インチ(5.6N/mm)
  • (例)AP090-021-1.0 圧縮コイルバネ AP(ピアノ線) 1袋(10個入) 昌和発条製作所 【通販モノタロウ】 07304096(https://www.monotaro.com/p/0730/4096/)※自由長21ミリとやや長いので切って使うといいかも
ベアリング
内径4ミリ、外径10ミリ、幅4ミリ
ねじ(皿キャップ)
M3径、長さ6ミリ

元のページに乗っている部品表はインチ/ポンドで書かれていたためミリ/グラムの単位に変換して考える。単位の変換には以下のサイトを使った。

部品の一覧。

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しかし実はねじの長さが間違っている。必要なねじは長さ10ミリではなく6ミリだった。ペンチで6ミリに切って使った。ばねは近所のホームセンターで径だけ合うものを見つけて買い、これもペンチで切った。ほかにReplicator2で出力したパーツはつまみの軸などが太すぎたため、ヤスリで削った。

組み上げたエクストルーダにフィラメントを通してみるとこんな感じ。つまみをぐっと下げると、中央部でフィラメントを右側へ押し付けている部分が離れてフィラメントを抜き差しできるようになる。

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こういうことなら、ばねの強さはあまり厳密でなくてもよいような気がする。いやわかりませんが。

Replicator2に取り付けるとこうなった。

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今まで使っていた部品はばらけないよう養生テープで留めて保管しておく。

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ヒートベッドのないReplicator2では、ABSで思った通りに出力するのはとても難しい。Replicator2にヒートベッドを追加することはできるだろうか。Replicator2にヒートベッドを追加したレポートを探してみた。

「『BC Tech: Heated Build Plate(http://bctechnologicalsolutions.com/hbp/index.html)』から買ってみたけどメチャメチャいいよ。工業製品みたいな仕上がりになったよ。作業は簡単、Replicator2側の調整は不要」みたいなことが書かれている。しかし上のページを見てみると175ドル!

これは自作できるだろうか。

自分で作るならヒートベッド部を独立したものとして工作しReplicator2に組み付ける、電源も本体とは別に用意して、スイッチを入れると100度くらいを保つようにする(出力が終わったら手動でスイッチを切る)というようなのかなあ。

反り対策にスティックのりを出力テーブルに塗るのもよいと聞いたので、これも今度試そう。

参考リンク

以下はReplicator2のエクストルーダを同じように改良した記事で、部品の一覧もある。ただし改良データは最初にwhpthomasさんが提案したタイプなので一部の部品が異なる。

こちらも参考になるかも。

以下はReplicator(無印。2の前の機種)のエクストルーダをアップグレードした記事。

Replicator2X(2の次の機種)のエクストルーダをアップグレードした記事。

(8月27日記)