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伊藤洋志『ナリワイをつくる 人生を盗まれない働き方』

ナリワイをつくる:人生を盗まれない働き方

ナリワイをつくる:人生を盗まれない働き方

「読了」カテゴリは久しぶりだ。調べてみたら前回は2006年だった。

もちろん7年間本を読まなかったわけではなく、読み終わった本について書きたくなったのが7年ぶりということだ。

さて「ナリワイ」は「生業」であるがカタカナで表記すると著者のオリジナルになる。自分の好きなことを仕事にして、それをいくつか持つことで生きていこうというような考え方である。それを実践するための考え方や具体例が述べられている。

ナリワイとはなにかについて、公式サイトにも説明がある。

ナリワイとは、個人で元手が少なく多少の訓練ではじめられて、やればやるほど健康になり技が身につき、仲間が増える仕事のことです。仕事なんですが、生活でもあります。労務か、と言われればやればやるほど仕事自体が生活の充実に直結するので、労務ではありません。

(…)

一つの仕事だけで競争を勝ち抜くのではなく、様々な仕事をその適正サイズを見極め、それぞれを組み合わせて生計を建てていく、という百姓的な作戦や、そもそも生活の自給度を高め、不必要な支出をカットするという作戦の合わせ技が必要である、と考えています。

ナリワイ » ナリワイとは

たとえば、新卒で採用された会社を定年まで勤め上げる生き方は今ではリスクが高い。会社の中でしか通用しないスキルだけを身につけてきた人がリストラされたり、会社そのものがなくなってしまうと、ほかの仕事をなにもできない人間が社会に放り出されることになってしまったりする。

自営業で生計を立てる場合でも、ひとつしか仕事を持っていないと生活費のためにやむなく望まない仕事を請けることになったりする。そういうのは不健康だから、自分が好きなこと、ストレスなくできることをもとにして、それぞれ月数万円、または年に数十万円といった単位の収入をいくつか立てて細かく稼ぐ。

本書には著者がナリワイにしていていい感じになっている具体例もあるが、ひとことで説明すると誤解されそうでもある。たとえば「モンゴル武者修行ツアー」。

モンゴルで遊牧生活を体験するツアーであるが、参加者をあちこち連れまわすような観光ツアーにはなっていない。著者がこれをツアコンの「お仕事」として流すものにならないよう注意を払っている。その結果参加者はほかにない体験をできるし、著者自身も楽しんだり考えを深めたり、できることが増えたりする。

ほかに床張り、京都のレンタル長屋、ブロック塀取り壊しといったナリワイが紹介される。それぞれは専業にできるほどではないが、組み合わせて「複業」にすることで全体ではそれなりの収入になる。

これは人間の生き方における「分人主義」を思い出させる。平野啓一郎が提案していた考え方で、人は会社や家庭など場面に応じてさまざまな分人を持つ。解雇や離婚といった人生の危機があっても、自分のすべてが否定されるわけではない。ある分人はうまくいっていないが別の分人は今のところ悪くないといった状況になる。この考え方は生きていくのを必要以上につらくしない効果があるという。

さて「ナリワイ」は楽しく仕事しているように見える。となるとこういうのをいやがる人も社会の中にはいるだろう。仕事はつらくなければならない、額に汗を流して働くのが尊いのだ、みたいな考え方の人たち。そういう人はネットにあまり意見を書かないから見つかりにくいがAmazonのレビューにちゃんといた。「こんな生き方をする人ばかりになったら嫌がる仕事をする人がいなくなって国が滅びる」とすごい剣幕だ。

気持ちはわからないでもないが、そういう「嫌がる仕事をする」人でも本を読む限り、ナリワイを実践できないわけではないように思う。楽しみとしての副業を持てばそれは立派なナリワイだ。

仕事に対するゆるいスタンスで思い出すのがid:phaさんだ。「だるい」「働きたくない」が口癖で、ニートとして生計を立てているという矛盾した形容の人。この人も上のような厳しい仕事観の人にいつもののしられている。id:phaさんのダイアリーにも著者がときどき出てくる。

ここでなにか気がつきませんか。伊藤洋志、平野啓一郎id:phaさん、全員京大OBなのだった。京大って単に優秀というだけでない、ちょっと変わった人が集まってくるなにかがあるのだろうか。

関連リンク

おせっかいな余談

「ナリワイ」のロゴなんですが、

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これだと「メリワイ」にも読めるので

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こうすればいいかもと勝手に思いました。