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イプシロンロケットに係る記者説明会

中継録画

※01:30くらいに始まります


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登壇者

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開発状況と整備計画について


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イプシロンは未来につながるロケット

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ロケットの打ち上げ方をシンプルにして宇宙への敷居を下げることが目的
機体の性能だけでなく設備をコンパクトにして運用を効率化
内之浦でのイプシロンの運用性はとてもよくなっている
イプシロンの1段目を発射台に立ててから打ち上げるまでM-Vロケットでは42日、イプシロンはわずか7日間。世界の他のロケットに比べても大きな改革
飛行機のように簡単に飛ばせるロケット
イプシロンの意義や目的を3つの観点で説明すると…

  1. ユーザー(衛星)視点
    • いつでもすぐに打てること(宇宙科学のミッションでは軌道が特別だったりするためいつ、どこへ打つかが重要、相乗りしにくい)
    • 総合力で世界に打って出て行きたい
    • 打ち上げ能力はM-Vの2/3
    • 衛星にとっての使いやすさが重要(第4段の追加ステージを使える)
  2. 固体ロケットシステム技術の維持・発展
    • はやぶさのような惑星間空間へ固体ロケットで送り出せるのは日本だけ、世界最高レベル
    • これからは性能だけではない、打ち上げロケットの打ち上げ方、シンプルさもよくしていきたい。自律点検、モバイル管制で世界でもっとも打ち上げやすいロケットにしていく
    • 世界一への挑戦
  3. 輸送系先進技術の実証
    • 固体ロケットは液体ロケットの部品点数の半分くらい、開発が楽、お金もかからない
    • 資料11ページにあるようにゼロから3年で開発している
    • 新しい先行技術を順次適用していく(試験機と第2世代型の2段階開発)

イプシロンの技術開発

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世界最高性能の固体ロケットであるM-Vの3段目をイプシロンの2段目に、キックステージを3段目に改良しつつ流用
固体ロケットのモーターケースはCFRPの繊維に樹脂を入れて熱で固めて作る。M-Vの時代は圧力釜で熱と圧力をかけて作っていた。イプシロンは圧力釜ではなくオーブンで作るように簡単に作れるようにする
性能を上げるだけでなく作り方も簡単にしていく

イプシロンロケットシステムの構成

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第4段のオプションステージで固体ロケットながら液体ロケット並みの性能
今までも姿勢制御用に小さい液体エンジンを使ってきた

イプシロンロケットの開発の進捗

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音響環境(を改善):ロケットの音が地面に反射してロケット内の衛星が振動してよくないため
推進薬は従来と同じ、大きなモーターの性能試験は不要
第3段にイプシロンの心臓部、さまざまな電子機器が載る。ここて音響環境試験後のチェックをしている

イプシロンロケットの発射管制運用計画

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内之浦の射場の様子で劇的に変わるのが管制室
管制室にはロケットのお守りをする人が100人単位で必要だった
大きなロケットの管制室からパソコン2台、数人くらいに集約される→モバイル管制
ロケットの近くの息苦しいところで管制をしなくてもよく宮原(みやばる)レーダーサイトのようなちょっと離れたところで管制ができるようになる
組み立て室やランチャーは改修して利用
種子島や相模原ともネットワークで結んで現場にいなくても作業できるようにしようとしている

イプシロン打ち上げ設備(内之浦)の整備計画

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宮原のレーダーセンターとテレメトリセンターにイプシロン管制センターを新設

イプシロンロケット射点改修案

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ロケットをつり上げるクレーンを増強(M-Vの1段目は2分割で組み立てていた、SRB-Aは1本まとめて作業するために)
ランチャーの発射台は大きめの改修

  • ロケットを発射するときの音の衝撃がロケットに戻ってこないよう改良
  • ロケットを支える支持台(シュラウドリング)をM-Vより10メートルほどかさ上げし衝撃波を緩和
  • 煙道(すべり台のようなもの)を新設、燃焼ガスを逃がす

イプシロンロケット発射装置概要

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イプシロンは垂直発射
アンビリカルケーブルをランチャーにつなぐためランチャーを有効に活用できる
ランチャーは従来とは逆の傾きに傾ける

内之浦宇宙空間観測所

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世界的にもコンパクトな射場として有名
斜面を利用して谷間や山頂に設備を集約している

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永野町長談話「イプシロンロケットに寄せる期待と町のこれから」

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射場を内之浦に希望して陳情してきた
肝付町民一同感謝している
糸川英夫博士が内之浦に来たときおはぎを婦人会が差し入れ
地元は観測所とともに歩んできた
4度の失敗という苦難を乗り越え「おおすみ」が誕生、祝賀会が開催された
M-V-3号機の打ち上げの際の千羽鶴
M-Vは7号機をもって廃止
関係者や取材者は激減、閉鎖する民宿も
「地域と基地の共存」を糸川博士はかかげてきた
あの地を割るような轟音は7号機以来体験していない
はやぶさの帰還に対して祝福に盛り上がった
はやぶさ効果で観光客が増加
2011年1月12日にイプシロンの射場が内之浦に決定、防災無線で知らせ広報の号外を発行
ロケット組み立て棟での「はやぶさ」映画の上映会も好評
イプシロンでは滞在スタッフの減少は危惧するが打ち上げ数の増加に期待
住民、漁協とも打ち上げを楽しみにしている
地元としても惜しみない支援と協力を行っていきたい
観測所と共存し、イプシロンとともに新たな未来へ
肝付町のSpace Science Town構想
今年は内之浦開設50周年、糸川英夫博士の生誕100周年(生誕100周年事業として銅像を建立、除幕式は11月11日)
サイエンスキャンプなどの開催を予定
初号機の成功を祈っている、JAXAや関係企業に敬意を表する

質疑応答

産経新聞くさか:来年度のいつ打ち上げか。打ち上げコストは。M-Vと比べてどうか。ライバルとどのくらい競えるのか。「イプシロン」の名前の由来は

森田:打ち上げは来年度の夏期、8月から9月ごろ。
コストはM-Vが75億円、イプシロンは38億円。打ち上げ能力は2/3なのでコストパフォーマンスは3割くらいよくなっている。また低コスト化として「FY29」、つまり平成29年(2017年)には30億円以下を目指す。
イプシロン計画は2段階で進める。第1段階は来夏。第2段階は抜本的な低コスト化の研究開発、「低コスト版イプシロン」と呼んでいるがこれを2017年を目標に開発する。30億円は大事な数字。このくらいの性能のロケットを作るのにどのくらいかかるかというと世界的にこのくらい。イプシロンを国際社会で戦えるようにするために第2段階の研究も進めている。
イプシロン」の名前の由来について今日言えるところまでとしては、固体ロケットとしてのイプシロンは固体ロケットの最新鋭機ということでギリシャ文字をつけよう、その中でアルファベットに置き換えられるものとしたい、イプシロンはEと置き換えられて表記しやすい。その中でいろいろ相談して。M-Vの後継としてN(ニュー)をという意見もあったがこのロケットはMの枠を超える部分がある。初めての試みのものがたくさんありNではおさまらない。そうしてイプシロンのEは、excellence(優秀)、explore(探検)、education(教育)などということで決めた。実はもうひとつ大事なポイントがある。いつ公表するかはイプシロンが晴れて打ち上がって初号機の成功会見のときに。今は秘密。

読売ほんま:初号機の衛星はSPRINT-Aとあるがその後の予定は

森田:2号機は計画段階だが2015年度を目指してERG。ジオスペース衛星、磁気圏の観測をする衛星を計画中。3号機以降は選定もこれから。16個の小型科学衛星候補を2年前の宇宙開発委員会で紹介した。その中からいまワーキンググループが概念検討を行っており選定作業がもうすぐ始まる。

ほんま:1年に2機くらい上げる予定なのか。また開発費は

森田:総開発費は205億円。年間の打ち上げ回数は、我々は年間2機くらいを定常状態で持っていこうと思っている。試験機段階では宇宙基本計画にのっとり5年に3機。JAXA内の宇宙利用の小型衛星、技術の実証といった小型衛星が企画中でそれを入れて定常状態で年間1機以上打てるように。
ほかの省庁、団体を含めて衛星を打ち上げる関係を構築しようとしている。

日経新聞くさしお:自律点検について。具体的にどういう分野か

森田:2つのカテゴリがある。まず点検自体は簡単だが準備や安全確保に時間がかかるもの。点火系の点検などがそれ。万が一があると大事故につながるため安全上の管理は厳しい。電流電圧計をロケットに差したとたんスパークで点火してしまわないようにしなければならず、機械を差すだけで1日がかりの決死隊。これをいかに短縮するかが自律の目的。イプシロンはロケット側が電流電圧計を持っている。計器をつなぎに行く必要がなくなる。
もうひとつは人工知能的な、たとえばロケットの中のバルブ、これは壊れやすいがこれをチェックする。バルブは流れるものの流れを調整するもの。実際に動かして波形を熟練のエンジニアが見てチェックする。点検に時間が必要だった。機械が点検するとなると熟練のエンジニアの時間をとらなくてもよくなる。瞬時に点検可能。波形は心電図のようなもの。心電図の波形は最終的に医師がチェックするがまず機械が波形をおおざっぱに判定している。そのようなものをロケットでも行う。

NHKはるの:コストの確認として定常運用時38億円とあるが初号機は。また自律点検やモバイル管制は初号機から?

森田:初号機のコストは追加の試験なども含めて53億円。自律点検などについては、使う機械は簡単だがつなぐのが大変なほうは初号機から。
もうひとつの人工知能的な自律点検は実は開発がかなり大変。熟練のエンジニアのノウハウを落とし込む必要がある。ロケットの開発を進めながらエンジニアのノウハウを機械の中に入れていく。開発を進める過程で知能が増していくものなのでこれからの運用を含めて知能レベルを上げていきたい。初号機はその最初の状態。

SMCなかしま:定常運用時までには何機打ち上げるか。定常運用から低コスト化まで何機打ち上げるか

森田:なるべくたくさん試験機を打ちたいが予算の事情も考えると3機くらい打った4機目が定常運用の狙いになる。もしかすると5号機になるかも。
固体ロケットは開発が短くできる。そこに段階的な開発を組み合わせるためここから低コスト機とはならない。ステップバイステップで開発を進めていく。定常運用形態のイプシロンと低コスト版のイプシロンを同じものにしていける。

なかしま:イプシロンで今後どういう衛星を載せたいという気持ちはあるか

森田:目的は宇宙をもっと身近に。いろいろなスペクトルの人、専門家だけでなくいろいろな分野の人が宇宙に参画できるようにしたい。宇宙科学限定ではなくいろいろなニーズの人に応えられるものを作っていきたい。
また固体ロケットは宇宙科学の衛星と切っては切れない関係で発展してきた。宇宙科学はもちろん推進していきたい。ターゲットとしては惑星探査機、これもこれからは小型化していく。最先端の惑星探査技術を試すのにイプシロンは貢献できる。

なかしま:打ち上げ見学場の整備について何人くらい見られるのか。交通の便についてよくなるようなものはあるのか

永野:何名くらいというところまではまだ想定していない。手狭になっているので拡張する。交通については高速道路が28年には完成するので空港から2時間くらいから1時間半くらいになるだろう。リムジンバスが近くの鹿屋(かのや)まで来ているがその先はない。一般の方には苦労だがレンタカーなどで。

フリーランス大塚:いま開発で苦労している点は

森田:ちょうどいい人が隣に座っている(内之浦の所長の峯杉賢治氏のこと)。固体ロケットは上段が生命線ということで、1段目にSRB-Aを使ってちょっと性能を損したぶん上段で取り返す。世界で最も軽いモーターケースをさらに軽くする。挑戦的な部分。いまひとつひとつ課題をつぶしながら開発を続けている。一例としてはたとえばそういうこと。

大塚:上段の軽量化ということか

森田:そう。

大塚:イプシロンの大型化というプランもあったが今後は

森田:ユーザーのニーズを考えると小型化に活路を見いだしている人がいるが大きなロケットにもニーズがある。中間層はわれわれがよく見ていく。M-Vで上げていた大型の科学衛星のあたり。そういうのをどうやって上げていくかは重要なテーマ。あかつきをH-IIAで上げた。あかつきはM-Vで上げることを予定していた。これをこのまま続けていくか、イプシロンの大型化をするかは考えていく。
これからの衛星のニーズを支えていくために大型化の検討も進めていきたい。

(以上)

その他の配付資料

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会見の所感をダイアリーに書きました

http://d.hatena.ne.jp/Imamura/20121029/epsilon